009- 第8話 奴隷商って、どんなトコ?~その音ヤメテヨネ~
何故か、望んでもいないのに仲間が続々と増えている気がする。
しかも、全員少女!! そして、何故か美人さんばかり!!
どんな運だよ! なぁ!?
さて、次は御者兼護衛出来る人を奴隷さんとして購入します。俺としては、この流れだから頼りになるゴツい男性が良いな!
いや、でも、食費とかどうしよ。……既に結構酷い感じだしな、人数的に。
しかも、ゴツい人に果たして俺は命令できるのか?
うーん。もう、お姫ちゃんたちに決めてもらいますかね。流石に無能と言うか、必要な能力を持ってない奴は買えないけどさ。
って、何を人身売買オーケーとか言う常識に乗っ取られてんじゃぁ、俺はぁ!!
今回は、仕方なくだ! そう、仕方なく!
俺が買ったおかたは、対等に扱うしね。うん、それが良いよな!
よっし! 行きますかぁ!!
まずは、君だ! 門番君。
「す、すいません!」
ここは、男でしかもこのメンバーで唯一の成人である俺が率先して話すべきだよな。
「あん?!」
うっわ、そんな睨むことないじゃんよ!
彼の見下すような視線に後退しそうになりながらも、背後に立つ少女たちを意識して、俺は会話を続ける。
「その、グランさんに紹介されて来たんですが……」
たのむ、どうか話が通じますように、と言う俺の願いを無視して門番の厳つい男性が答えを口にする。
「は? 誰だよ、それ。……で? 奴隷買いに来たんだよな?」
え? 何! 知らないって、どゆこと? しかも、「それ」って、物呼ばわりじゃねーかよ!?
「あ、……はい。そうですけど」
「ふん! なら、中に入りな。旦那がいるからよ」
「あ、はい。ご親切にどうも……」
「ふん!」
何だぁー? こいつ。もう、用はないみたいに明後日の方を見やがってぇ。
それから、後ろでニヤニヤしながら見ていたライムとお姫様、心配そうにライムの後ろに隠れていたリムと共に店内に入った。
お邪魔しまーす。
「ごめんくださーい!」
毎度の様に、声をかける。
暫くは誰もいないんじゃないかと言うぐらい静かだった。
そう、檻の中に入れられた奴隷たちでさえ僅かな音しか発さない。
外にいた厳つい男性が嘘でも吐いたのではないかと思い始めたちょうどその時、背筋を電撃が走った。
「どぅも~。いらっしゃいませぇ~…………ッ?」
掛けられた声と同時に、俺の肩に冷たい何かが触れる。
反射的に振り返り、半歩下がると、俺の腰辺りしかない背丈の男がたっていた。
男は、その異様に長い腕で頭に乗ったしわくちゃな尖り帽子を取り、これまた異様なお辞儀をして見せる。
俺の肩に触れたのは、この男の手のようだ。
男の肌は、青白く、その中には更に青白い血管が透けて見える。
かさに隠れ、日光に浴び難い茸管孔の様だ。
俺と同じく、突然現れた男を警戒してか、お姫ちゃん、ライム、リムは店の出口辺りまで後退して、こちらの様子を窺っている。
「こほん!」、と1つ咳払いして男の気を俺の方へと向けさせる。
「えっと、あんたがここの店長さんですか?」
男は、不思議そうにこちらを見上げた後、ゾッとする様な人懐っこい笑顔を浮かべて口を開く。
「ええぇ~。そうでぇすッ」
そう言って、男は尖り帽子を被り直す。
「……っ、その、乗り物屋のグランさんに紹介されて来たんですが………」
「……なぁるほどォ。あそこの坊っちゃんがねぇッ」
「えっと、……その。馬車の御者ができる人、……奴隷を買いたいのですが。グランさんによれば、獣人族が良いと聞いたんですが」
すると、男は黄色い歯を見せて笑い、長い腕を伸ばして近くの棚の上から取った革製の本を眺めだす。
俺が、改めて声を掛けようとすると、その長い腕がニュッ、と伸びてきてこちらを制す。
「マッテルゥッッ」
……ついに、ニュアンスしか解らない言語になり出したかな。
まぁ、待ってみるか。不気味すぎるけど。
流石に俺も心細くなって、少女3人を呼び寄せる。
「なあ、………。あれ……あの人って人間族じゃないよな?」
そんな問にお姫ちゃんが答えてくれた。
ただ、その手は僅かに震えていて、緊張と怯えが感じられた。そんな彼女に答えさせたことに、少しばかりの罪悪感が湧く。
「妖精種族の一部族ではないでしょうか。あのような方を見たことはありませんが、過去に読んだ文献の『小人族』について書かれていた容姿と似たところが多いようですぅ………」
「そ、そうか。やっぱり珍しいものなのか?」
俺も拳を握りしめていないと声が震えそうだ。
「その、ようです。大深林に隠れ住み、人界にはあまり現れないそうですが、かなり商人としての能力に長けているらしいです。……その、悪魔でも過去の文献に書かれていたことですけどぉ………」
「お、おう……。サンキューな」
◆◇◆◇◆
「で、どうするぅ、のカァッ?」
……だから、本当にその言葉はどこから来たの? いや、これでも良い方なのか?
あれ? 俺には、異世界言語補整とか付いてるんじゃないの? スキルもあるよね? どゆこと!!
つまり、……スキルは万能じゃないのか?
「あー、お姫ちゃんたちはどう?」
目前に連れてこられた奴隷たちを見て、俺はどうにも決められないでいた。
計7人だ。右から1人目、体格の良い男性。頭の側面から狸耳が顔を出している。髪はパサパサの天然パーマだ。
2人目も、男性だが、こちらはかなりの痩せぎみ体型。獣耳は、小さな狐色のものが片方だけ。もう片方は千切れてしまっている。説明によれば鼬族なのだとか。
髪の毛はくすんだ灰色。手入れされていないためかぐちゃぐちゃだ。
3人目は、見た目ではどちらともつかない。まぁ、資料によれば女性、……少女なのだが。
獣耳は、黒猫族のもの。純血だそうだ。この種族で、純血は割りと珍しいのだとか。大半が多種族と混ざっているのが普通だと言われた。
髪は延び放題、顔もあまり見えないし……判断の使用がありませんな。
さて、4人目だが、5、6人目も踏まえて説明しよう。
この3人は良く似ていて、かなり酷い格好をさせられていた。……いや、別に容姿がどうのこうのと言う話ではない。
ほとんどの何も着てない状態でピンク色のレースを、纏っているだけだ。
資料によれば、まぁ身体をどうこうって話だ。夜のお仕事をさせるために仕込まれた面子らしい。
つまり、今回は却下! と言うか、今後もそう言う目的で買うつもりは毛頭ございません!!
で、7人目だが、今度も女性だ。
見た目的には、20代前後だろうか。服装も他の奴隷よりも高価そうな物を着せられている。化粧もしているようだ。
しかも、連れてこられて来た時からニコニコ、いや、ニヤニヤ笑っているしな。
よし、却下ぁ!!
俺的に考えた候補をお姫ちゃんと双子に耳打ちする。
能力的には、ここに居る全員が御者を出来るそうだ。
悩むべきは、他のスペックと値段だろうな。
因みに、7人目が一番高い。次が4、5、6人目だ。そして、黒猫族の少女、狸耳の厳つい男性、鼬族の男性、と言う感じだ。
まぁ、当初より考えていた通り、少女3人に決めてもらおうかな。まっ、4人目から7人目を除外した3人の中からになるけどね。
それから数分間、良く解らない空気が流れていた。
お姫ちゃんと双子はコショコショと小声で相談んている以外に不自然なところはないのだが、やはり店主の尖り帽子が原因だ。
奴隷たちを立たせ続けながら、隅の机でお茶を飲んでいる。それも、湯気の出るような熱いのをだ。
そろそろ日が登り初め、気温も暖かい、と言うより暑くなってきた。この部屋の通気性にも問題はあると思うがな。
まぁ、見た目もそうなのだが、音が特に酷いのだ。
ズズッ、ズズッ、とこちらを急かすように絶え間なく鳴り続ける。湯飲みが空になればすぐに注いで再開するのだ。
お姫ちゃんたちは、全く気にしていないようだが、考えている訳でもない俺の方がイライラして来た。
ナイショ話でもするように相談をしていた少女らの円陣が解除され、始めに声を発したのはライムだった。
「ココ兄! 結果、右から3人目の猫ちゃんにするって決まったのだよ!」
何のネタか、そうじゃないのか判断できぬまま、俺は返事を返す。
「そ、そうか。まぁ、スペックもなかなか良いみたいだし、別に構わないんだがな。……そう言う事です店主さん」
「ズズッ、……わかったねぃ。ちょっと待ってロイ……ッ」
急かすように音を立てていた湯飲みを脇に置き、二言三言奴隷たちに声をかけると、俺たちが選んだ少女以外の奴隷たちを連れて奥に戻っていく。
戻ってきた彼の手元には何枚かの書類が束ねてあった。契約書とかだろうな。
無事サイン等を終え、支払いのみとなった時、店主の尖り帽子が思わぬことを口にした。
「服はぁ、どうするかぃぃッッ?」
「……服? ですか」
呆れたように説明してもらったが、どうやら追加料金で今黒猫少女が着せられているボロよりも良い物に着替えさせられるらしい。
「いや、別にぃ……っっ!! じゃ、じゃぁ町娘ぐらいの普通のやつを!」
後で買えば良いかな、何て思って返事をしかけたら、背後から恐ろしいほど睨まれた。
言われなくてもわかる。女の子にこんな格好で町を歩かせるつもりですか? だろう?
この際仕方がない。と言うか、下ろした俺の金をあまり使うわけにもいかんし、と言うことで半分はお姫ちゃん負担なのだ。俺が決められる限度もそこまで多くない。
まだ髪の毛はボッサボサだが、格好だけは少女ッぽくなった黒猫族の娘を連れ、俺たちは店を出る。
契約者は俺だ。
別にお姫ちゃんでも良いんじゃないかと言ったら、彼女に断固拒否された。
え? 理由? 主人と従者ではなく、友達になりたいんだと。
1つ言っておくが、俺はロリコンじゃない。これは、絶対だ!
それから、別に未成年とか関係なく奴隷は買えるし、お金を払えれば契約も出来るそうだ。特に貴族のお坊っちゃんだとかには、配下を扱うための訓練として良く買っていくそうな。奴隷なら失敗して何あっても問題にならないとか。
全くもって影社会だよな! 階級が高いほど黒いんじゃないかと思ってしまうよ。
契約によってどうこうってのは、極力無しにしてもらった。
強いて言うなら「主人への殺傷行為を行おうとすると、首輪が締まる」ってやつかな。
んで、脱走した場合だが、3ヶ月以内に主人に認識される形で出会わないといけないらしい。
主人の命令で等でする場合は平気らしい。
この2つは、どうしても無くならないらしい。
黒猫族の少女だが、一応、冒険者の娘として鍛えられていたので、戦闘力はあるし、親の狩った魔物の運搬も手伝っていたので、御者をすることも可能って聞いた。これは、あの異様な奴隷商の店長からもらった資料からだ。
本人は、ここまで一言も……いや、契約時に指先に針を刺された時に小さな悲鳴をあげてたか。血が必要とかなんとかで。
それだけだな。うん。
「さて、次は雑貨屋に行くぞー! ……はぁ」
「む! 雑貨屋とな! 何を買うんだい!」
あの、ライムさん? そのキャラ、いい加減に止めてくれませんかね。
「ねー、……ライム姉、私たちだよ! 私たちのために三草さんは……」
「おお! さっすが、ココ兄は優しいですなぁ!!」
そして、そこにお姫様も加わり、更にややこしい事になる。
「その。ありがとうございます。色々と。それから、隣国までも宜しくお願いしますぅ~。……あっ! 何か必要でしたら私もお金だチますね!」
あ、噛んだ。
そして、黒猫族の少女は相変わらず何も話さず。
「…………」
俺の歩く後ろで繰り広げられる茶番は続き、それをどう反応したものかと悩みながら、黒猫少女の手を引き雑貨屋へと向かう。
これだけ騒ぐと国にもすぐ見つかりそうだ。
早いとこ出ていくに限るな。
読んでくださり、ありがとうございます。
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次話は、(11/10<金>)24時頃に投稿します。