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008- 第7話 3匹の仔猫と哀れな俺 少女ラッシュ! ~取り敢えず、馬車プリーズ~


 近付いて来たのは、勇者組のお二人さんだ。それも、かなりの変わり者っぽい少女たち。

 つまり、自称ライムと命名リムの双子の少女たちだ。



「おっさん! また会った」


 セーラー服の中に着込んだジャージのフードを目深に被り、片手をヒョコリと上げたライムが声をかけて来た。


「第一声がそれは無いだろ。扱いひどくないか? それに、俺はまだ20代だって言ったろ?」


「……リムも挨拶する!」


「あ、ハイ! こんに……やなくて、おはようございますぅー」


 あ、このむすめの姉の方、話しらしやがった。ここから言い直しても、俺が恥ずかしいだけだよな。


「……取り敢えず、おはようさん。二人とも」


「オウ! 来てやったのだ!」


「そ、その。姉がすみません」


 何でしょうね。

 姉が変な事を言っても、すぐに隣の妹が謝罪してると言う。これは、無理に怒れないよな。


「あー、もう解ったよ。呼び捨てでも良いから普通に呼んでくれ」


「ふっ!」


「えっと、……その」


 呼び捨てを許可した途端に、ライムはニヤニヤし、リムも困り顔で困惑し出した。


「何だよ……?」


「おっさんの名前をライムは知らん!」


「私も……です」


 え? 教えてなかったっけ? 図書館で会ったときにぃ………、いや? して、無かったか?

  うっ! つまり、俺は、かなり恥ずかしい事を聞いてしまった訳だ。平常心。平常心んー! って、……やはり全力で思考を回す俺の記憶には、図書館で名乗った覚えしかないのだが?

 ひょっとして寝ぼけてたから覚えてないのか、この娘さん達。言及するのも気が引けるし、ここは一先ず合わせておきますかね。


「アア……そうだったかもな。じゃあ、今名乗るよ。俺は、三草さえぐさ 九鵺ココヤって言う。2ヶ月……いや、ちょうど90日ほど前に21歳になったとこだ」


 俺は、もとの世界での一月と異世界こちらがわでの一月の長さが違うと言う事を思いだし、口にしかた言葉を言い変えた。


 割りと真面目に答えたな、コイツ、見たいな顔しやがって。どこまで生意気なんだよ!


 ん? にしてもコイツらって何故に城下を歩いてるんだ? 自由時間、では無いよな。


 しかもダイレクトにこの場所に来るとは。ここには、俺と追われてる身の第三王女しかいない……ッッッ、まさか!!


「な、なあ。二人して何でここに居るんだ? お散歩か?」


「間違ってはいない。が、少し違うのだ」


 なっ! じゃあ、やっぱり。


「……逃げ出してきた」


「は? え?」


「つまり、そこの姫と同じ。別に危害を加えるつもりはない、と言うか逆に手伝って欲しい」


「ね、ねーね。やっぱり、迷惑になっちゃうよ」


 何だ? どう言うことだ? コイツらは姫が追われている事を知っているのに、追ってない? は?


 俺が、空回りし始めた考えに空を仰いでいる間、双子の少女たちは内緒話のようにコショコショと話し込んでいる。


「……リムよ! 私の事はライムと呼べと言ったのだ! で、その話だが、おっさんに頼るしか私たちには術がないのだ! 良いか? せめて、リムだけでも連れて行って貰えるように頼むから」


「ねーね、ライム姉!  一緒じゃなきゃ嫌やからな?」


「全くもう、この子はぁ──」


 何この茶番劇……。どっかのドラマにありそうな台詞だよな。


「お取り込み中申し訳ないけど、話を戻しても良いか?」


 もう良いよな? 付き合ってられないしな。

 だって、俺が悪役見たいじゃねぇか。


「む、美少女二人の仲睦まじい所をスキップしたいのか! おっさん、人生損してるぞ!」


「だから名前で呼べって……もういいや。で? 何で逃げてるんだ? こいつ(お姫ちゃん)を追いかけてきたんじゃねぇんだろ?」


 俺は、横で先程から不思議な生き物でも見るかの様にキョロキョロしているお姫ちゃんを指しながら訊く。


「そう、違う。と言うより私たちも追われてるから」


「はぁ?」

「ふぇ!?」


 俺とお姫ちゃんの声が重なる。

 お姫ちゃん、しっかり話しは聞いてたんだな。いや、()()()()かな?




 ◆◇◆◇◆


 この世界には何種類もの魔術が存在し、その元とされたのが魔法である。また、魔術は数多とあるが、特殊なものを除けば、大きく みずりょく・地・ひじり そして、邪と言う属性に分けられる。

 最後の「邪」は、魔族が主に使うもので、大半のヒューマンからは、邪悪で穢らわしいものとして扱われるのだ。

 「邪属性」の中でも、最も危険とされ、源祖級の魔族にしか使えないとも言われている系統が、黒魔術系である。この系統には元となる魔法が存在していない。そして、一部の魔国では禁忌とされるほどのものだ。


 さて、ここからが本題だが、何でも、死霊魔術と隷属魔術という黒魔術系に含まれる悪とされるそれらの魔法をライムとリムの二人が使えるらしい。

 そして、その事実を国に知られた結果、即打ち首という話になったが、他のお仲間のお陰で、猶予が与えられ、その隙に逃げてきたらしい。


 確かに、警備が甘そうな城だったが、良くもまぁ逃げ出せたものだ。

 そして、展開が早過ぎやしないかと突っ込みたいのだが、説明中の二人の顔がわりとマジだったので、止めて置いた。俺、空気読める大人だしな。


「そりゃ、大変そうだな。……なぁ、その魔術を俺たちにも使ったりしないか?」


 一応の確認だ。そう、一応のだ。怖いものは怖い。当たり前だろ?

 俺の問に対して、ライムが真面目な顔で答えて来る。


「そんなことはしない。と言うか、まだ練習もしてないのに成功するかも解らない」


「そ、そうか。で? 俺がここに居る事は、どうやって知ったんだ?」


「それは、偶然。そして、運命! おっさん……ココにぃは私たちを救う運命なのだ!」


 そう言いながら両手をパァ、と空に向けて広げた。それを見て横で困った顔をしたリムが補足する様に口を開く。


「そ、その。本当に三草さえぐささんに出会えたのは、偶然なんですぅ。その、お願いできなぃですか?」


 そう言って、リムが見上げてくる。

 それを見たライムが横から便乗びんじょうして来て、微妙な演技のこもったオネガイをされた。


 ここまでえて突っ込まなかったが、妹のリムの訛りはかなり微妙すぎて良く解らないな。

 まぁ、でも。ライムは兎も角、リムにまで頼まれたんじゃあ仕方がないよな!


 後々、死にましたぁ、何て事を知ったら目覚めが悪いしな。うん! そうだよ。これは、俺のためになることだよ! それに、二人とも強そうだしな!

 そんな自分でも良く解らない理由でその場を判断していた。


 俺、どうした!!?

 考えられる理由としては同郷のしかも同じ魔方陣によって召喚された人間だから……だろうか。

 まぁ、何にせよ、そう決めてしまっていたのだ。今頃変えようとも思えないしな。 


「はぁー、……護衛してくれるなら構わないよ。それから、俺の指示には従うように!」


 そう適当な理由を伸べると双子は共に嬉しそうに笑って抱き合った。

 おい! 路上でそんなことするなよ! 目立つだろ!

 

 何か小言でも言ってやろうとしたところ、急にライムの方がニヤニヤし出した。


「リムぅ。俺の指示に従え! だってぇ。夜な夜な何されるのかなぁ。もしかしてリムの初めてもぉ──」


「ちょっとぉ! ライム姉、止めてよ! 三草さえぐささんは、そんな事しないよぅ!」


 また茶番が始まった。

 ライムはリムの慌てる顔を見ながら嬉しそうに肩肘を妹の横腕に押し当てる。


「解らないよぉ? 世の中には全部小さい方が好きな人も居るしねえ?」


「へ?? そっ、そうなんですか? 三草さえぐささん! 三草さえぐささんって──」


「おおっとぉ! それ以上は言うなぁ! いいか、ライム? 俺は、ロリコンじゃねぇからな!!」


 全く! 勘違いしそうな少女が、お姫ちゃんにリムと、二人もいると言うのに、何を言ってくれちゃってんだよ!



 そんな馬鹿な茶番に俺も加わって久し振りに笑っていると、前方から声が掛かった。

 聞き覚えのあるおじさんの声だ。


「おい!! 店ん前であんまし騒ぐんじゃねぇよ! んで、あんちゃんは早く入りな! もう準備できてんだからよう!」


 そう、乗り物全般を扱うお店、つまり馬車を予約していたお店の店長である。

 お察しの通り、かなり口癖が悪いが、根は良い奴だ。


 店は、彼以外にも5人ぼどの従業員が居て、中くらいの客船が入りそうなほどに大きな蒲鉾かまぼこ状の倉庫内で仕事をこなしている。



「ぉお! ココにぃは、仕事が早いですな! もう、乗り物を調達するのですかぁ……」


 ライムが、当然のように店内に入って行く。

 まぁ、止める理由もないが、


「大人しくしてろよ!?」


「アイ!」


「す、すみません。リムも良いですかぁ?」


「あ、ああ。ほれ! お姫ちゃんも行くぞ?」


「あっ、はい!!」


 慌てて駆けてくるお姫ちゃんを伴って、俺たちは暗い店内に入って行く。


 店内は、割りとクラッシックな木製の所が多く、小さなランプたちが優しいオレンジ色の光を放っている。

 昨日、夕方ごろにも来たんだが、朝一でも雰囲気があまり変わらないんだな。


 そのまま、店長に着いていく事5分ほどで、店内、と言うか倉庫の中央部にたどり着く。

 ここは、初めの場所とは通路で繋がった別館である。


「んで、コイツだったよな?」


 眼前に鎮座する一台の馬車を指して店長のおじさんが声を発した。


「………はい。間違いないです」


 一度、しっかりと正面からも、その綺麗な木目が見てとれる静かな茶色の車体を見つめ、おじさんに返事を返す。


「うっし。確認もとれたな。しっかりとメンテナンスはしてあるからよ」


 自らの拳を逆の手に叩きつけた店長は、一束の書類と、てのひらをこちらに差し出す。


 ああ。金ね?


「ええ、ありがとうございます」


 手元の革袋からお金を出して渡す。

 店長は、1枚1枚数え、それを終えてから良い笑顔で話しかけてくる。


「城門前での受け渡しも出来るけどどうする? ああ、それと御者はどいつがやるんだ? 一応勝手を教えたいんでな! コイツ(馬車)のためにもよ」


「ぁ………。ば、馬車動かせる人ぉ!」


「「「………………」」」


 で、ですよねー。うん、だって、そんなこと頭から離れてましたもん!


「おい、マジかよ! それで、馬車買うとか、何考えてんだ?」


「その。すまんが、手早く御者を手に入れるにはどうしたら良いだろうか」


 ここは、正直に聞こう。全面的にも俺が悪いしな。


「あー、冒険者を雇うかぁ……。もういっそ、奴隷を買うかだな。獣人族なら扱える者が多いしな」


「なるほど。……どうたもんかな。お前らはどうだ?」


 一応旅の仲間であるお姫ちゃんと双子のリムとライムにも意見を訊く。


「良いのではないですか? どちらでもお金なら私も払いますし」


「よし! 行こう! すぐ、行こう! そして、カワイイ子を見つけるのだ!!」


「わ、私は何でも……」


 うん? 若干一名を除いて、後は解りやすい返答を返してくれた。

 まぁ、良いかな。それに、冒険者を雇うとか、……だって荒くね者だろ? 戦える人含めてこんなに人数いるのにこれ以上増えられてもな。お金の無駄使いは良くない!


「よっしゃ! で、店長。何処にいけば良いんだ?」


「おう! 行くんなら、昔、世話になった所を紹介してやるよ!」



 そして、参りましたは、以前ケバブを買ったお店の前の通り。

 俺が睨まれた奴隷商会とやら。まっ、普通に人身売買してるわな。

 むしろ、今回はその奴隷を買うために来た、所謂いわゆる「お客さん」だからな。


 さて、乗り物屋さんの店長は、1通の手紙しか貰ってないけど、行きましょうかね。………何なら、付いて来てくれれば良いのに……ああ、でも仕事もあるだろうしな。


 以前、俺を睨んだ偉くゴツい冒険者っぽい人が店の入り口横の壁に寄り掛かっている。


 まずは、コイツから捌くのか……俺、コミュニケーション能力何て無いのにな!!



 お読み頂き、ありがとうございます。


 宜しければ、ご感想や評価等々頂けると、嬉しいです!


次話は、明日(11/9<木>)に投稿します。

※投稿時間が24時に変わります。(実質的には11/10<金>の0時頃となりますね)

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