007- 第6話 お姫様はカワイソウ?
んで、今更だけど、おはよう諸君!
身体が痛い。特に背骨と腰辺りがね。
これは、あれだ。外で寝たりした後のあるあるだ。
………それとも、今まで科学文明の進んだ世界のふわふわなベットにくるまってた俺が、行きなりごわごわな麻製っぽいクッションとマント1枚で寝たからか?
………でも、暖かいんだよな。これが。
何か昨日よりも温度が上がっているような、まるで人肌だな。
………………いや、まてよ? まさか、な。でも、──何故かマントの下の方とか若干膨らんでいる気がする。気がする程度なのがまた怖いな。
捲ってみますかぁ。
このまま、じっとしてても仕方がないしな!
そぅ~、……………。
居たよ……、本当に居たよ!
何? 何で俺の股の間で君は寝てるのかね? 第三王女さんよぉ!
本当に何? 何のプレイ?
いや、見た目14か15歳の君に、俺は何にも感じないけどさぁ!
………???
わけ解らん。
………顔でも洗ってくるか。
出来るだけ音をたてずにテントの外に出る。ちゃんと第三王女ちゃんにはマントを掛け直してあげた。
俺、偉いな! とか思ったけど、失敗だったね。
外、寒すぎだろ! 靄とかあるしさ。
仕方ない、この際我慢するしかないよな。
川の水は、皮膚が裂けそうな程冷たかったが、何とか顔を漱ぐことが出来た。
冷水のお陰で、思考もハッキリしている。
さて、もう一度見てみますか。
見間違えとか言う事もあるだろうし、………いや、もしかしたら魔物が化けてるのか?
んー、でもここ城壁内だしな。
テントの入り口を開いて、中を覗く。
居る。普通に御座しますな。
どうしたら良いの?
取り敢えず起こす? いや、今何時だかも解らんしな。もう一度、そこら辺見回ってみるか。
相変わらず肌に優しくない気温の中を、直接肺に空気を入れないように手で塞ぎながら歩く。
さっき、深呼吸したら死にそうになったからな!
俺だって学習してる!!
丘を登って町を見下ろせる位置まで来た。
どうやら、既に住民たちは起き出して、人によっては働き始めているようだ。かなり、活気があるように見える。
馬車の受け取りで言われた、朝一番がいつなのか、今は良くわからない。
準備するに越したことは無いし、遅れて何かあっても困る。
そろそろ行ってみるか。
途中で、何か軽食でも摂ろうかと考えながらテントに戻ると、第三王女こと、金髪少女は目覚めていた。テントの中でキョトンと上を見ながらぼうっとしている。
「そろそろ起きてくれませんかね? お嬢さん」
「…………ふぇ?」
どこの世界に、寝起きで「ふぇ?」、とか本当に言うヤツが居るんだよ! これは、素なのか? マジなのか??
「……おにーさんは、……昨日魚を焼いてくれた人?」
あっれぇー!? 俺、君のために焼いた覚えなんて無いんだけどなぁ? 寧ろ、無許可の内に奪ったよね、ね!?
「はぁー、間違ってはいない……かもしれん。取り敢えず、テントを片付けたいたから、外出ててくれるかな」
次の方針が決まっているのだ。お姫さんが、何でここに居たか何て、今は気にすべきではない。
「わかりましぃ、ふあぁ……」、と全く欠伸か返事かどちらかにして欲しいような返答を返し、お姫さんは俺のマントにくるまれながら外に出た。
おーい、そんなヨロヨロしながらどこに行こうとしてるんですかぁ!??
外が眩しいのか、目を瞑ったままのお姫さんを、取り敢えず「登山ザック」の隣りに座らせる。
脇を掴んで運んだんだが、何でこんなに軽いんだ? ちゃんと食べてるのか?
ぽぉー、としたままのお姫さんを時々見に行きながらテントを片付ける。
折り畳まれたテント等の器具を「登山ザック」に入れようと、戻ったのだが、お姫さんが、「登山ザック」に寄りかかって寝ている。
「流石に起きろや!」
「……なうぅ……?」
空いた右手で、額にデコピンを喰らわせてやった。
いや、何をキョトンとしてるんですかねお嬢さん。そんな無垢な目で俺を見るんじゃねぇ! 俺が悪いみたいじゃないか!
「取り敢えず顔でも洗ってきたらどうだ? この後、俺は移動しなきゃならんから、その道すがらで良いなら話を聞くが、……と言うか、勝手に人のテントに入った弁解ぐらいはしてくれよ?」
「……あい。っっ………はいぃ」
散々寝ぼけて変な声出してたくせに、目が覚めたら舌噛むのも恥ずかしいんだな。良く解らん。
片付け終わった俺は、川の水で顔を洗った第三王女ちゃんを連れて、あまり高くはない山を下って、活気に溢れる朝市の様な町に飲み込まれていった。
◆◇◆◇◆
「で? 王宮暮らしのお姫様が何で俺のテントに居たんだ? あれから、ちゃんと帰ったんじゃないのか?」
途中で買ったパンをかじりながら、こちらも同じく彼女には大きすぎるパンに苦戦する第三王女ちゃんに話しかける。
大麦が入っているのか、焼き立てだけに昨日の物より全々美味しい。
ただ、まぁ固いのは変わらず。ちゃんと発酵させているのだろうか。
それとも、酵母がないのか?
そんのことを考えていると、少女がやっとの事で噛みきれたパンを飲み込み、俺の質問に答える。
「その、………ちゃんと帰りましたよ?」
「……じゃあ何で戻ってきた」
俺の目を見るのが恥ずかしいのか、それとも罪悪感でもあるのか、少女は自分の噛み千切ったパンへと視線を落としながら続ける。
「いつも通り、『裏道』からお城に入ったんです。そしたら、いつもなら明かりの灯っていない特別棟の窓に明かりと人影が見えたたのです。気になって仕様が無かったのです。私は、特別棟の人の気配がする部屋に向かいました。そして、聞いてしまったのです」
パンを半分ほど食べきった。以外と腹に溜まるよな、これ。
「そもそも、どうやって聞いたんだよ。もしかして、駄々漏れなのか?」
少女は、今だ4分の1程度だ。俺が、食べさせずに、喋らせてるせいもあるがな。
「私は、いつもあっちこっちを探索しているので、特別棟の各部屋の盗聴出来るスペースなんかも知ってます。大人じゃ、入れないところばかりですけどね」
「ああ、そう。で、何を聞いたって?」
この際、信じるしかないだろ。
にしても、このパン固すぎるよな? 顎が疲れるよ!
「その、………近い内に私が王族から追放されると……」
「はあぁ!!?? ………いや、何かの聞き間違いじゃないのか?」
「いえ、確かな事です。何度も言っていましたし、何より話していたのがお父様、……つまり、国王閣下でしたので」
「おいおい、物騒だな。で? 追放ってどうなるんだ?」
「その、……王族の追放と言うと、………」
ずいぶん溜めるな……。解らない、訳ではないようだし。
「と、言うと?」
「しょ……処刑──です」
「は? ………何で、……って、言うわけでもないのか?」
「はい……」
国によるとは思うが、そりゃそうなのかもしれん。王族ってのは、ある程度教養が進めば、将来を考えて国内の秘密事項とかの情報にも触れていくのだと思う。
無論、国によっては特に王位を次ぐものと、保険としてもう一人以外は知り得ないのだろうが、どうやらこの子は色々と知ってしまっているらしい。
「処刑……ってのも、言っていたのか?」
「………はい」
ふむ。あまり嬉しくはないが、どうやら俺の推測はそこまで外れていなさそうだ。
「と、言うかだな。そもそも、追放になった理由ってのは何なんだ?」
もう食欲も無くなったのか、半分まで食べたパンを紙袋に戻し、更に俯くようにして話始めた。
「昨夜、リカイン……最近逝ってしまったシェフのお話はしましたよね。その時にも言ったとは思うのですが、現国王の叔父に当たる旧国王であらせられたかたが、シェフを気に入っていました。実際は私の事も気に入っていたと言えます」
「で、今のご隠居さんがお姫ちゃんを気に入ってたのは解ったけど。それがどう関係してるんだ?」
俺は、最後となるパンの破片を口に放り込みながら耳を側立てる。
「その、お爺様は、もう半年前に無くなられていたのです。ただ、巻き込まれとは言え、そのリカイン……と言う名シェフは勇者召喚された一人ですから、ある程度口利きが出来るんです。詳しいことはわかりませんが、それらを駆使して、何とか私を守ってくださっていたのです」
「ん? 話が読めないが、……結局お前は何者なんだ? まるで、今の王様の血縁じゃないみたいだが……姫なんだろう?」
「それが、私は旧国王様の妾として、敵国から戦時、保護されたお姫様の娘なのです。つまり、血は受け継いでいても濃いものとしては受け取られていないのです。そして、最近のお国騒動で、騒がれているのが、その私の母の母国との関係が更に悪化してきていると言う物で。……このまま行けば本格的な戦争が起こるのも時間の問題であると」
「あー、うん。それで、何でお姫ちゃんを殺すんだ?」
「私が敵国出身の母を持つと言う事は、国民も知っています。それは、無論の事、王の家臣にもです」
「示しを付けると?」
「……きっと、そうでしょうね」
「あー、うん。それはご愁傷さまだね。んで、逃げ出したのか?」
「はい。元々、義務事項以外では邪見にされていましたので、抜け出すのもそう難しくは無いのです」
「この国の今後はどうするんだ? 現国王は配下達に示しをつけられないってことは、内乱みたいな事にもなりかねないんだろ?」
「そこまでの詳しいことは、私には理解できませんが、敵国にいつ攻められるか解らない状況ですから、暫くは大丈夫なのではないでしょうか」
うーん、彼女を見せ示めにする事で、団結力と言うか、戦争意欲を高める狙いも有ったのだと思うが。
見た目14、15歳の少女に、それを強いるのは可笑しいだろう。
と言うか、俺の理念は、俺か決める。郷に入れば郷に従えとは良く言うが、それは俺にとって受け入れられるもの以外なら断然却下だろ。ま、俺の場合は向こうから呼んだのだから、向こうに従わなくても文句を言われる云われは無いって、主張だけどな。
「そうか。……で? おまえ、これからどうすんだよ?」
「………ジィ――――」
「いや、そんなに見つめられてもな。俺にはそんな、資金力もねぇし」
「お金ならあります」
「そ、そうか。じゃあ、何とか暮らしていけるんじゃないかぁ?」
「国外に逃げるにはどうすればいいのでしょう?」
「うーん、まぁ頑張れば良いんじゃねぇかな」
「定期便馬車は止まってます。商人の方々に頼むには、正体がバレる可能性があるので、断念しました。国は私が逃げ出したのを把握し始めているでしょう。近々、賞金も出されるのではないでしょうか」
「そりゃ、災難だな。まぁ、頑張れや」
「目の前に可愛くて賢い、まだ幼い少女が助けを求めているのですよ!? 貴方は、それに応えないのですか?」
「うーん、誰がとかじゃないんだよな。俺にお前は何を渡せる? 俺にとっての利用価値がお前にはあるのか?」
「ろくでなしですね。………そうですね。お金は平気なようですし。うーん、何か、なにか………あっ! アイテムポーチはどうでしょうか?」
「ん? お前、今なんつった? アイテム……ポーチって言ったのか?」
「……? はい。かなり希少なものだそうですが、生き延びるために必要なものは割りと沢山ありますし、持ち運ぶにはコレしかないと、宝物庫から借りてきました」
あ? 今、この娘さんサラッととんでもない事を言いませんでしたか? え? 借りた? 盗んできたの間違いでしょ!
が、この際、それは良い。そんなことはどうでも良いのだ。
やはり、この世界にもアイテムポーチとか言うチートアイテムが有ったとは。ヤバイな、うん、やばい。これは、燃えてきたぞ!
「そ、そのあいてーむぽーちとやらは、どれだけの量が入るんだ?」
「アイテムポーチに興味があるのですか?」
「ま、まぁ、それなりにな?」
「その、物にも寄りますが、これは一級品だと思いますので、持ち主の魔力量で左右するかと」
「ふむ。さっきの話だがな、……受けてやっても良いぞ? その、つまり、お前を国外に連れ出す件だ」
「本当ですか!! ありがとうございます!」
「ただし、だな。その、アイテムポーチを俺に私たらだ。良い……よな?」
「……? 構いませんが、一度登録されたポーチは、契約者が死なない限り、他のかたが使用することは出来ませんよ? ですから、私は荷物持ちとしておにーさんのお役に立とうかと」
「あ、うん。知ってたよ。知ってた。ちょっと忘れてただけだから……」
あー、やだ。これ絶対誤魔化せてないよな! うわぁー、マジで恥ずかしいぞぉ!!
「その、……おにーさん的には、やはり難しいでしょうか?」
「うん、いや! 一度引き受けたからもうそれで良いよ。これから、荷物持ちとして宜しく………」
う、うん! そうだよな。無限の可能性を秘めたアイテムポーチ持ちの荷物持ちってだけでも俺にとっての利益はでかいもんな! うん。間違ってないよな。
「あ、その。ありがとうございます! それから、宜しくお願いしますね!!」
先程までの憂鬱な顔は何処に行ったのか、にぱぁ、と太陽のような笑い顔をお姫ちゃんは作った。
何か、騙された気がするのは、俺の早とちりなのだろうか。
先程からガチャガチャと言う音が家内から聞こえるものの、今だシャッターの開かない馬車を予約しているお店の前で、この世界の命は本当に軽いんだな、と考えていると、こちらの方へと歩みを進める二人の少女が視界に入った。
何だ? おじさんの次は、美少女ラッシュか? 悪いけど、俺はロリータコンプレックス、つまりロリコンでは決して無いのだが!?
お読み頂き、ありがとうございます。
宜しければ、ご感想や評価等々頂けると、励みとなります。
次話は、明日の(11/8<水>)の6時頃となります。
これからも、どうぞ宜しくお願い致します。