006- 第5話 平々凡々な俺の夕食とお姫様な彼女 ~転生者って以外と居るのか?~
またもや、おじさんだった。
何だ? この国の労働者は皆同じ年齢層なのか? おねーさんの店員さんとか………別に期待はしてなかったけどさ、どゆこと? いや、別に期待なんてしてないけどね? ………してないから。
あー、何の話かって、馬車を売ってた店舗だよ。馬車専門ではなく、乗り物全般だけどね。
で、買えたかって? いんや。でもまぁ、予約は取れた。明日一番に来いとさ!
無論、馬も予約住みである。
さて、今夜はどうしたものかと宿屋巡りに明け暮れたのだが、どこも込み合ってましたね。どうやら、住民は出ていく人が多いけど、商人とか冒険者はどんどん増えてるとか。
なんでも、小規模のダンジョンが出現したらしい。でも、近いうちに収まり出すだろうとさ。
これは、宿屋のおっさんからの情報だ。そして、そう! またもやおっさんだった!!
おねーさん! ………いや、期待はしてないから。
さて、もう仕様がないですな。野宿と洒落混みましょうや。
早速、夕方頃に購入したテントを、城壁内の馬鹿デカイお山の中の、割りと平べったい地形で、小川付近の場所に組み立てる。二人程度なら入れる大きさのものだ。
地面に杭を刺し、フックにテントの紐を掛ける。次に、テント内に薄目だが、丈夫なクッションを敷いて、後は寝袋にくるまれればお寝んね出来る感じだ。
日の傾き始めた夕暮れ時、辺りがまだ明るい内に薪集めをする。
そして、大きめな石をゴロゴロと転がして来て、簡易的な釜戸を作る。ここは適当で良い。
今度は、平べったい石を一度水で漱ぎ、料理用ナイフを取り出す。
さて、準備は整った。
「料理人」ジョブはどんな仕事をしてくれるのか実験してみましょうかね。
まずは、確認。
「──ステータ・スオープン──」
目前に、いつも通りのウィンドウが開く。
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名前:三草 九鵺
年齢:21歳
種族:異世界人
状態:異常なし
ランク:E
【ステータス】
LV :1/10
HP :30/30
MP :350/350
バイタリティ(体力):23/30
力 :5
俊敏:40
技量:25
精神:50
知力:70
運 :30
《point:0》
ジョブ: テイマー
サブ: 料理人
ジョブスキル
テイム:Lv1、モンスター・ステータス閲覧:Lv1、モンスター・命名:Lv1、スパイス生成知識:Lv1、植物知識:Lv1、魔物知識:Lv1、食中毒カット(5%):Lv1
アクティブスキル
<戦技>
投擲:Lv1
パッシブスキル
<武器スキル>
包丁技:Lv1、ナイフ技:Lv1、スローイングナイフ:Lv1
耐性スキル
毒物耐性(弱)Lv1
固有スキル
異言語習得:Lv1、ステータス閲覧:Lv1、異物生成:Lv1
《point:0》
称号スキル:〖勇者召喚に自分から巻き込まれたアホな異世界人〗〖女神の譲歩〗〖気分屋〗
装備:???、上質なマント、万能旅リュック
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ありゃ? 武器屋で覗いた時よりも増えてないですかね。
何か、色々追加されてるようです。「ジョブスキル」とか、耐性スキルとか。………「スローイングナイフ」ってのは、投げナイフの事だよな? どこで、覚えたんだ?
ま、まぁ、良いか。………いや! 良くない! けど、空腹感が可笑しいことになりそうだし、明日にでもしようか。
でだ、「スパイス生成知識」と「異物生成」ってのが、一番気になるぞぉ?!!
これは、「醤油」とか「味醂」も生成できるのだろうか? そもそも、どんな行程で生成するのだろうか?
だって、「異物生成」は、「スパイス生成知識」から発生したスキルだよな。完全に!
取り敢えず、押してみましょうや。
──はい、ポチ!
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【異物生成】
生物を触媒として、魔力或いは魔石を消費して生成可能。
ただし、生成対象は、それに準ずる生成知識スキルを習得する必要がある。また、生成知識スキルと共に、生成対象の特徴や性質も理解している事が生成時に必須となる。
尚、失敗した場合は知識不足が第一に疑えるだろう。
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ほぇ~。あっ、どうもこれはご丁寧に。
随分畏まった文章だわな。こーゆーのって、眠くならないかな。
で、何だっけ。生成するのに生物を触媒にして、魔力か魔石が必要で、更に生成知識スキルと個々の知識もないと成功しないのだな?
うーむ。どれ程の知識が必要かが解らないな。
ま、試すしかないよな。
触媒にする生物は、足元の草で試すとして、魔力は俺も保有しているからOK。生成知識スキルも「スパイス生成知識」ってのがある。
最後に俺自身の知識として、良く知っているものか。
まずは、典型的に「塩」でも試すかね。
「えっとぉー」
──異物生成(塩)──
「………うおお!!?」
平たい石の上に置いた草が七色の、光の粒子に変わっていく。
同時に指先から何かが流れ出す感覚がして、光の粒子と混ざり合い、七色の光が収まった。
「お、……おお??」
平たい石の上には、黒ずんだ何かがあった。
何だろ、これ。
──ステータス閲覧──
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【異界のゴミ屑】
生成スキル、生成魔法、召喚スキル、召喚魔法等によって現世に出現されたが、行程に不備があったが為に、不純物と化した何かの異物。
食べ物で遊んではいけません。
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………。うん、ゴミ屑って事は解ったよ。
まぁ、それは兎も角、何がいけなかったんだ? ……やっぱし、想像力か? いや、それだと俺がダメな奴みたいな言い方だから、意識が足らなかったと言い直すか。
んー、じゃあ次はもっと具体的に考えてみますかね。
塩。つまりは、食塩だな。
ナトリウムとも言うのか。ただ、人工物より自然産の岩塩とかの方が味もいいから、……でも、物に寄って塩分濃度だとか含まれる成分も違うしな。
どう想像しろってんだよな。
いっそ、味でも思い浮かべてやってみるかな。
しょっぱくて、温かい水に良く溶けて、結晶体で、白色で……取り敢えずはこんなものか?
よし、もう一度!
──異物生成(塩)──
ぱぁ、と広がった七色の光が収まると、そこには灰色の砂っぽいものが一握り程積まれていた。
「まぁーた、失敗か?」
恐る恐る、人差し指に押し付けたソレを舐めてみる。
「しょっぱいな……」
つまり? 成功か? おお! やった! ついにだな!
達成感に浸りながら、俺はもう一度舐めてみる。
成功、では無かったようだ。
少し味の薄い感覚と灰色であることから、完全な失敗では無いのだろうけど。
あー、まぁ今日はこれで良いかな。うん。疲れたしね。
さーてさて、お料理に戻りましょうかね。
今日のメニューは、鯵っぽい魚の塩焼きでございます。
ここに来る途中に市場を通ったのだが、結構他に比べて安く売られていたので買ってみました。一応、3尾です。
で、まぁ何故に塩焼きかと言えば、つい先程塩を作ったからだ。
いや、だって、調味料とか買ってないし、これ以上作るとなると……いや、単純に疲れただけなんだけどな。
まぁ、いいや。
そう言うことで、俺による俺のための第一回異世界クッキング編、開始ぃ!
はい、先ずは鯵の鱗を剥ぎます。
えっ? 鱗があるのかって? うん。俺も昔はそう思ってたよ。
鯵には、ゼイゴと言われる尾からひれ付近まで延びている固い鱗がある。他の場所にもある事もあるらしいが、俺はまだ見たことないな。見落としてるだけか? 大きい鯵を捌いてないからか?
尾の根からナイフを入れ、ゼイゴを両面共にすき取るようにして取り除く。
次に肛門から刃を入れて腹を開く。中から黒っぽい内臓が出て来たので、川の水を流し込みながら取り出す。
残った黒い膜も洗い出して、いっちょ上がりだ。 他の二匹も同様にすれば、捌くのは終了!
先程だした塩擬きを多めに付け、お腹の中にも入れれば後は焼くだけ。
うん。簡単なお仕事でしたな。
薪集めの時に見付けた、真っ直ぐで割りと綺麗な棒切れをナイフで削って更に綺麗にする。
そこに仕込んだ鯵を上手く差し込む。
さて、火起こし火起こし!
乾燥した藁のような草を中心に細い枝から積み上げて焚き火の準備をする。
先程買った「火起こしセット」の「火打ち石」を使って火種を藁に乗せて火をつける。細枝から太いものへと燃え移らせて行き、安定するまで風を送ったりの繰り返しだ。
わりと苦労したよ。4回ぐらいやり直したからね。
パキパキと薪が燃える様子は何だか落ち着く。木が燃える臭いも良いものだな。
近すぎない距離に串刺しの鯵を地面に突き刺して焼く。
あー、こんな調理方法で異世界食は美味しくなるのかねぇ。
そんな下らない事を思いながら、鯵とは別の店で買った、硬いパンをナイフでスライスして、焚き火であぶる。
皿なんて大した物を持っている訳もなく、俺は川岸に生えていた大きな葉を洗って、その上に出来上がった塩焼き鯵と炙ったパンをのせる。
さて、実食です。美味しい保証はないですけどね!
まず一口。
うん。悪くは、ない……かなぁ。
やはり塩擬きが、「擬き」だったのが悪いのか、味付けは微妙だ。
魚自体は、少し魚臭い点を除けば、ふっくらしていて美味しいと思う。
「んぁ?」
俺が1匹目を食べ終わった時に、背後から枯れ葉を踏む足音が聞こえて振り返った。
「しょう……じょ??」
「ぁ…………」
そこに立っていた金髪少女は、俺の顔を見ると小さな声を漏らして俯いてしまった。
迷子、ではないよな。ここ城壁内のあまり広くない山だしな。うん。
これ、何か声かけるべきだよな?
「な、何で泣いてるの? 君………」
あれ? これ失敗したかな──。
◆◇◆◇◆
少女は、この国のお姫様らしい。
いや、おかしいやろって? まぁ、下向いてしゃがみ込んだ少女に、そんな無粋な事言う勇気が俺に備わってると思いますかね?
そこは良いとしてだ。
自分の生まれる前から居た一人の男が3日前に逝ったのだとか。
その男は、シェフだったそうで、自称第三王女なその少女とは、他の王族の人よりも親しかったそうだ。
そのシェフは、異世界から召喚された勇者。……の巻き込まれでこの世界に来てしまった元料理人らしい。
彼の作る料理は、どこか不思議で、当時、王だった今のご隠居さんが偉く気に入っていたそうで、王宮専属シェフというジョブについていたのだとか。
他の王族は、彼の料理を気に入った訳では無かったらしいが、ご隠居さんは勿論の事、自称第三王女も好きだったとか。
で、どうしてこんな話になったかと言えば、俺の焼いた魚の匂いに吊られたらしい。もう、釣られたで良いと思うが。
それ、話と関係なくね? と思ったが、そのシェフの人って俺と似たような境遇なのかもしれんな、と言う考えに至った。
決して、少女がいたたまれないからではないぞ!
だから、餌付けしてる訳ではないのだ!
少女は、焚き火を挟んで俺の向かいに座り込み、美味しそうに串焼きの鯵を貪る。
さっきまでは、俯いてたし、暗かったしであんまし顔を見れなかったけど、焚き火の明かりで今は良く見えるな。
あっ! 何か見たことあるなと思ったら、召喚されたときに居たお姫様3人組の1人だ!
………、自称とか言って、ほんっとすんませんしたぁ!
うん、無闇に人を疑うもんじゃないな! 突っ込まなくて本当に良かったぁ!
さて、俺ももう1つたーべよっ………て、もうねーじゃねーかぁ!
犯人は! お前か、通りすがりの第三王女ぉー!!
「はぁ………」
「あの、どうしたんでしょう……?」
思わずため息をつく俺に、2本目の串焼き魚を美味しそうに食べながら話しかけてくる少女。
うん、おにーさん美味しそうに食べて貰えて良かったよ。………とか、言うわきゃねーだろ!!
きみだよ! きみ! 王女様ならお城行けば何でも好きなもの食べれるのによぅー、何で俺の貧相な夕食を奪うの! 本当に何で!? 嫌がらせ?
その後、綺麗な魚の骨のみを残して第三王女は城に帰った。と言うか、俺が帰らせた。
何か問題になって俺が疑われたりしても困るしな。
結局、一方的にあっちの人となった巻き込まれシェフさんの話をされた以外には、特に話さなかった。
あの少女、食べてるとき以外は、俯いて泣きそうだったから話しかけ用も無かったしね。
さて、寝ますかね。
お腹が膨れてない点は、仕方がない。
明日の朝にでも何か食べに行きましょうかね。
テントの入口を閉じて、クッションに寝転がり、マントをかけ布団の様にしてその中に潜り混んで眠りにつく。
久し振りに動き回ったからか、結構疲れたな。
明日は、馬車を取りに行って………何しようかね。
て言うか、何が起こるのやら。
ま、お休みなさい。
初の料理シーン…料理と言えるかはまぁ別としてですが。
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次話は、明日(11/7)の16時過ぎ頃に更新します。
もう暫く毎日投稿予定です。