005- 第4話 剣技って何よ!~ジレンマってヤダよね~
「なあ、おっちゃん。旅に出るとして、護身用として持つならどれが良いかな?」
外からの木漏れ日以外、明りの存在しない木造建築の中で、俺は奥のカウンターで帳面とにらめっこをしていたひげと髪が顎の下まで伸びきったおじさんに声をかける。
灰色のそれらを一撫でしたおじさんは、のっそりと立ち上がって、こちらに近づいてきた。
「うん? あんたこの国を出るのかい?」
「あー、いや………例えばだよ?」
「隠さんでも良い。わしもそろそろ愛想が尽きてきたのでな。それに最近は物騒だから、出ていく人も増えている」
「そうなのか? 何かワリィな」
「ふん! 若造が遠慮するもんじゃないだろうよ。で、何だったか? 武器が欲しいんだっけか?」
暗くて気がつかなかったが、おじさんはなかなかに愛想の良い顔で、ひげに隠れた唇でニィッ、と笑いながら少し乱暴な口調で話を続ける。
背がちょうど俺の肩ぐらいだから、俺が見下ろしている感じで、少し居心地が悪い。
「あんた、武器スキルは何を持ってるんだ? ついでにレベルも教えてほしい」
「………スキル? えっと、ちょい待ち」
お金と一緒に革袋に入れられていた茶色いカードを取り出して、ステータスを確認する。
─ステータス・オープン─
透明がかった茶色のウィンドウが眼前に表示される。
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名前:三草 九鵺
年齢:21歳
種族:異世界人
状態:異常なし
ランク:E
【ステータス】
LV :1/10
HP :30/30
MP :350/350
バイタリティ(体力):23/30
力 :5
俊敏:40
技量:25
精神:50
知力:70
運 :30
《point:0》
ジョブ: テイマー
サブ: 料理人
アクティブスキル
テイム:Lv1 、モンスター・ステータス閲覧:Lv1、モンスター・命名Lv1
パッシブスキル
<武器スキル>
包丁技:Lv1、ナイフ技:Lv1
耐性スキル
なし
固有スキル
異言語習得:Lv1、ステータス閲覧:Lv1
《point:0》
称号スキル:〖勇者召喚に自分から巻き込まれたアホな異世界人〗〖女神の譲歩〗〖気分屋〗
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おう! 何か色々増えてるな。昨日の内に確認しとくべきだった。
取り敢えず、確認は後で時間を作るとしてだ。
武器スキルだったか?
………何だろ。たぶんジョブの「料理人」から発生したのだと思うのだけどさ。………ショボくね?
「おっさん!」
「む! どうだったんだ?」
ここまで来て、何か気まずいけど言うしかないよな!
「包丁技とナイフ技がレベル1なのだけど………」
「………そ、そうか」
そのまま、おじさんは5分ほど沈黙してから、長ぁーい溜め息をついて口を開いた。
「あんたなぁ。その年で武器スキルがそれじゃあ、武器屋に来る理由がわからんよ。どっかのお坊っちゃまだったのかい?」
「………いや、そう言う訳じゃないんだが………まぁ、そんな感じだよ」
「なるほど? 世間知らずでもあるってことかい」
「す、すまんな。本当に」
「そもそもだな。最近の若者は、部屋にこもって書物を読み漁るだとか、外に出れば棒切れ振り回してお山の大将気分だったりなぁ! 全く、この前なんか、魚介類屋の一人っ子が、でっけかい魚振り回して町中を駆け回ったんだ! 良い迷惑だよなぁ、………………」
いやいやいや、どんな子供だし。そもそも魚を振り回すって、尾びれでも持ったのか? 持ちにくくね?
それから暫く、おじさんによるこの世界の常識論だとか愚痴を聞かされ続けた。
いつもなら耳を貸さない俺だが、今回に限っては何も言えないというか、この世界の「最近の若者は──」、が以外にも面白かったので、寧ろ聞き入っていたように思える。
「で、話は戻るがな? おまえさん、武器がほしいんだよな? それも、護身用の」
「ええ、そうですけど」
「なら、ここの向かい沿い5件目ぐらいにある雑貨屋に行けば良い。そこなら誰でも使えるような旅に役立つものが売ってるからな。もう間違えんようにな。ほれ、ほれ、そろそろ行った。商売のじゃまになる!」
両手をプラプラとさせ、誰もいない店内から俺は追い払われた。
最後に、一言だけ「ありがとう」、と告げると、またあの愛想の良い顔で笑ってくれた。
「さて、紹介された雑貨屋にでも行きましょうかね」
お昼時はとうに終わり、夕方に差し掛かり始めた「正門通り」を、俺は一人言を呟きながら横断する。
◆◇◆◇◆
さて、ここらで武器屋に来ていた経緯でも話そうか。
ま、言っても小も無い事なのだが、定期馬車便の予約受付に行ったら、暫くは予約が出来ないそうだ。
何でも、我先にと住民たちが押し寄せるなか、更に国の方から「今ある予約が終わったら、暫くは運休にせよ」、とのお達しがあったとか。
受付のおっさんによれば、予約されたものを取り消されないだけましなのだとか。
さて、どうしたものかと悩んでいるところ。こんな事を思い付いた。
金があるなら馬車を買えば良いのではないか? 隣国までは、馬車で5日程だと聞いた。それぐらいの間なら、御者だって雇っても平気だと思う。
そこで、受付のおっさんに、どこに行けば良いかと聞いたのだが、話によると結構遠い。
だったら、先に旅支度でもした方が賢いと思ったのだ。
それと同様の考えから、1つ隣の「ギルド通り」に戻って、手持ちのお金を幾らか両替してもらってきた。ギルドの建物内だが、本当にショッピングモールかよっ! てぐらい綺麗で、涼しかった。ここ異世界だよな?
んで、話は戻すけど。
まず始めに必要なものと言ったら、護身用の武器だろう!?
え? 違うって? 食料?
いやいや、そこは折角の異世界なのだから厨二をくすぐる武器類を見るべきでしょ!
食料とかそこらは、別に明日でも構わないと思うのだ。別に今日明日で、この国を出る訳でもないしな!
そして、今に至る。
少し小腹が空き始めたな、とか馬鹿なことを考えながら、店々を順に覗いていく。
4件と小路を挟んでもう1件の隣に、それはあった。
雑貨屋だ。
こじんまりとした外装に、まんま「雑貨屋」、とだけ書かれた看板が掛かっている。
先程の武器屋ほどではないが、店内は薄暗く、部屋の真ん中にドンと置かれたかなり大きな棚に、あれこれと色んな物が並べられている。
それを取り囲むように、部屋の壁に取り付けられた戸棚たちが、更にこの店内の狭さを強調しているようだ。
「すみませーん!?」
武器屋のおじさんに言われたものの、ここで何が買えるかなんて解らない。
どうせならプロに任せるべきだろうな。ま、無駄に高いのを買わされないようにってトコだけ気を付けねば。
入り口付近の物を意味もなく物色していると、ガタガトと音を立てながら、奥の木扉が開けられて、人影が出てくる。
「はいよ! こんな店に来る客が居るなんてな。珍しいこともあるもんだ」
声の主は、武器屋のおじさんと同じぐらいの歳だろうか。もしかしたら知り合い同士なのかもしれない。
にしても、この店ってそんなに繁盛してないのか?
「えっと、旅に出るための道具とかそこら辺を見繕って貰いたいんだけど……」
「ああ、なるほどね。で? 何から見るかい?」
「あー、護身用のナイフ的なものを」
そう言うと、少し不思議そうな目をした後に口元に笑みを浮かべ、奥に向かって歩き出した。どうやら、付いて来いという事らしい。
「んで、ナイフスキルか何かは持ってるのかい?」
「え、ええ。レベルは1ですけどね」
「ふっ! 上等だよ。使えれば良いし、これから上げていけば何も問題ない」
おじさんは、親指を突き立てながら棚から金属製の箱を取り出した。
「どんなのが良いんだ? 切れ味か? 丈夫さか? それとも、見た目か?」
「………? えっと、丈夫で、素人でも扱いやすいぐらいのってありますかね」
「ほう。これなんかどうだ? 通称、皮剥ぎ用ナイフ!」
そう言って、おじさんが取り出したのは、少し反りのある15センチ相当の刃物だった。
「い、いや。皮剥ぎ用って………護身用のナイフを先に決めたいのですけど」
すると、おじさんは、照れているかの様に後頭部を擦る。満面の笑みもセットで。
「いえ、褒めてないです。で、護身用………」
「あー、そうだな。護身用………だったな」
いや、おじさんよ! 始めからそう言っているではないですか!
そんな突っ込みが、喉まで出かかったのを無理矢理呑み込み、溜め息を吐きながら首肯する。
「あー、護身用なぁ………小刀で良いか?」
そう言って、今度は鉈の横幅を細めて、少し縦長にしたような刃物を取り出した。山刀と言うヤツだろうか。
「剣技とかは持ってないのだろう?」
「あ、はい。ナイフと包丁ならあります」
「うん、まあ平気だろう………」
あの、それとっても不安になるお言葉なのですがねぇ。止めてくれないですかねぇ。
「用途はどんなものですか?」
「まぁ、しっかり整備すれば何でも切れるよ」
際ですか。
「んで? 旅って言うけど、移動手段は何にするんだ?」
「あー、馬車を使う予定ですよ? でも、何でそんな質問を?」
「そりゃ、野宿に必要なもんとかも、乗り物があるか無いかでは大幅に変わるからなぁ。………で、馬車だったか………あ? もう予約は出来ないんじゃなかったか?」
「そのようですね。まぁ、ちょっと考えがありまして」
「ええ、そうですけど、一応馬車が無い時のための物も、最低限用意してほしいのですが」
「へいへい。まいど~」
気怠げに答えるおじさんに、少しイラっと来たが、今は我慢だ。
「あ、それから長物の包丁ってありますかね」
「阿呆か? おまえさん、包丁は刃物屋に行くべきだろ?」
「そ、そうですね。すみません」
「あー、ちょいと待ってな。倉庫からセットになってるヤツを持ってくるから」
「どうも……?」
セットになってるヤツ?? 何だろ。面倒臭そうな顔してたけど。
おじさんは、5分ほどかけて戻ってきた。その手には、黒ずんだ元は濃い緑だったと窺える登山ザック風の縦長リュックサックが重たげに吊るされていた。
はて、何でしょうか。
「あー、こんなのも有ったんだなって気分だよ。倉庫なんてここ半年は覗いてなかったからなぁ」
オッイィィー? あんた、それで本当に商売人かよ!!?
「それは?」、と俺が目線をおじさんの持つリュックに向ける。
「こりゃー、結構昔に流行ってた万能セットだよ! ちょいと古くなってるから安くしとくぜ? 旅支度を早々に済ませたかったらこれが一番お得だね」
「おー、万能グッズ出ましたねー。解りました。一応、中身を確認してもよろしいですか?」
「ホイ来た。俺が中身出すから見てな! えーと、まずはコレからだな………」
ぶつぶつと解説しながら彼が取り出したのは、こんな感じだった。
まずは、「簡易テント一式」。そして、「火起こしセット」、「皮剥ぎ用ナイフ」、「料理用ナイフ」、「砥ぎ石(少)」、「水入れ皮袋(中)」、「革製カバー付きメモブック」、「羽ペン」、「インク瓶」、「ブラインドコート(雨風避けカッパ)(大)」、と言ったところだ。
他にも小物がいくつか入っていたが、あまり使い道はなさそうだった。
「で、山刀も入れると九千、いや、八千五百ギンってところか。どうだ?」
成る程。「どうだ?」、と聞くという事は、値切りはありなのか。
「あー、もう少しっ………」
「とは言うが、これでも結構安くしてんだぞ?」
そうやって、肩を竦める彼に俺はもう一押しを繰り出す。
「その、手持ちが……」
「………八千三百」
「………」
「解った、八千でどうだ?」
「あっ、はい。それでお願いします」
「ホイよ。まいど!」
そう言って、手を出してくる彼に俺は手元の川袋から両替仕立ての銀貨1枚と青銅貨6枚を出す。
「ホイよ。確かに」
手渡されたリュック──………いや、以降は「登山ザック」と呼称すべきだろうか──は、少しごわついた丈夫な生地で出来ているようだ。
そして、何よりかなりの重量があった。
「では、機会がありましたら、また!」、と俺は、肩にまだ馴染まない「登山ザック」を背負って片手をあげた。
雑貨屋のおじさんも静かに頷いて返してくれた。
そう言うの好きだぜ! 何かダンディな感じがするよな! え? しない? 別にいいだろ!?
さて、お次は本命というか何と言うか、かなり重要な案件にレッツラゴー! だな。
売られる方の馬車まで、無くなってたら徒歩だしな。元日本社会で、極力動かないと言うか、動けない生活を送ってきた俺には、徒歩とか本当に無理だからな。うん!
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(† ̄ω ̄Τ)Κ<流石に指がもたん!>
因みに私は、スマホで執筆してます。w
※次話は、明日(11/6<月>)の18時過ぎに投稿します。