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004- 第3話 ~城下町には危険がいっぱい~


 結局のところ、昼前にお城を出た俺は、わざわざ遠慮した昼食を城下町で、歩き食べでもしようかと軽い足を動かしていた。


 城を出る前にちょっとした騒動があったが無事解決した。そのせいで、朝食が遅れたのは頂けない思いだったのを明かしておこう。

 一騒動と言うのは、昨夜図書館で話したライムと名乗っていた少女と、リムと名付けられた少女の2人が消えたと勇者候補の5人が騒ぎ立てたことから始まった。


 彼らは2人を本名で探していたので、俺には誰だかさっぱり解らなかったが、騒ぐ面々を見て、「成る程、あの2人か」と理解できた。

 結局見付けたのは、俺で。見付けた場所は図書館だった。普通に寝落ちしていたのだ。

 こうして、昨夜、俺が脳裏に垣間見たオチは、成立していたのだった。


 大した別れもしなかったなと、昼前の忙しい市場を覗き回る。まぁ、そこまでの仲でもないとは思うが。



 目に入る店々に置かれているのは、日用品、農作物、山や海の幸、それに骨董品こっとうひんなどがベースだろうか。見たこともない生物、この場合はモンスターか魔物と言うべきかもしれないが、そう言った面々が並べられていた。肉類の区画が多めなのは、この国の特色なのかもしれない。

全くもって、面白すぎてなら無い。


 もう昼前だが、活気の絶えない朝市らしき広場を抜け、少し街道に沿って進むと、武器や防具、「魔法書」と書かれた看板を掲げる本屋等が並んでいた。

 更に街道を外れ、人気の少ない道に入ると、奴隷を売買している店が視界に入る。看板に堂々と書かれているのだ。

 やはり、この世界では当たり前の事なのだろうか。外から店内まで、奴隷用の鉄籠が並べられている。内に入るほど値段は上がるようだ。脇に立て掛けられたプレートに刻まれた数字が物語っている。


 奴隷とされるのは、やはりと言うか、獣人等が多いらしい。昨夜、資料から知識を得ていたとはいえ、種族差別は生々しくて気持ち悪いものが込み上げてくる。俺としては、外見の特徴が多少違えど、同じ人間だと思ってしまうからかもしれないな。


 文献には「借金をした者や犯罪者が主となるが、希に拐われたも者も居る」、と書かれていたが、むしろ逆に拐われた人の方が大多数なのではないかと思う。


 暫くの間、店先を視界の端に入れて物思いに耽っていると、目付きの怖い武装した男が出てきたので、そそくさとその場を去ることにした。


 特に何かある訳でもなく、ただ、なるべく自然にくだんの店から離れようと路地をそのまま進むと、鼻腔を肉の焼ける良い匂いがくすぐった。口内で唾液が分泌され、我慢していた空腹が耐えられないものへと達する。


 漂っている匂いを辿ると、こじんまりとした出店が見えて来た。こんな、人気の無いところで商売していて生計が保たれるのか少し疑問に思ったが、現状、自分の空腹とは関係の無い事だ。


 見たところ、出店は、かなり質素な家に付随して出されているようだ。玄関先には古ぼけて文字の掠れた看板が吊るされているので、酒屋バーか何かの店なのかも知れない。


 店先に人影は見受けられない。仕方なく俺は、ジメジメして少しカビ臭い空気を鼻から吸い込み、腹に力を入れる。


「すいませーん!」


 すると、簡易テントで作られた出店の奥の家屋の中から少女が出てきた。


「あの……何でしょうか。ちょうしゅーはまだだと聞いてますが……」


 ん? ちょうしゅー?? えっと、徴収かな。畏まった口調のわりには、呂律が回りきらないのかね。

 にしても、何をもって俺が徴収すると勘違いしたのだろうか。


「あー、えっと、普通にお客として、食事しに来たのだけど………」


 徴収とは無関係だと明かすと、少女は目をこればかりかと見開く。元々小さな顔についたそれは、クリクリとして、俺が女性だったら羨ましがるだろうな、と思うほどだ。


「………あの。貴族様が何でこんな貧民街の外れでお食事を? ぉ口に合わない……かと」


 「え、貴族? 何で? どこが?」、そんな疑問が脱線した思考を引き戻した。お城で見かけた貴族らを思い返して見る。彼奴らは、キラキラした宝石を、これでもかと身に付けていた筈だ。無論全員では無いだろうが、俺より派手な事に変わりはないのだ。


「お嬢ーちゃんや。俺のどこら辺が貴族だって?」


「へ? だって、そのマント、貴族様のモノに良く似てるもの。とっても高そうだし」


 ………なるほど。マントかいな! 城を出るときに、支給金と一緒に「もし、野宿する羽目になったときのために」、と要求したらすんなり貰えたのだが、そんなに凄いものなのか?

 む!? だから、呼び込みの激しい市場で、一言も話しかけられなかったのか!!

 無償で貰った高性能なマントとは言え、今後は、使い所にも気を使わないとな。


「そ、そーか。けど、俺は貴族でも何でもないぞ。ただの……そう、旅人だ! んでよ、そこで焼かれてるお肉を1つ頂きたいのだが……?」


 少し肩の力を抜いたら、空腹感が増して来た。流石にそろそろ食事にありつきたい。


「……ほんとうに?」


 未だ訝しげに俺を見上げる少女に、それっぽい言葉を返す。


「ああ、もちろん。逆にここら辺の事とか色々教えて欲しいくらいだよ。それから、支払いはこれでも構わないか?」


 一応、カードではなく、現金で渡してもらった金貨の入った袋から1枚取り出して見せてみる。


「やっぱり、貴族様!!?」


 因みにこの世界での金貨の価値だが、硬貨類の中では、下から3つ目だ。つまり、そこまでの大金でも無い。現世の日本にして、精々千円か、高くても五千円程度であろう。

 そう、そのはずなんだが、……貧民街の物価はどうなってるんだ!?


「だから違うって! 旅してると、あまり細かいのを持つと重いし、かさ張るからな。全部大きいのにしてるんだよ……」


 苦し紛れの言い訳だな、と自分でも思うが、今は仕方がないのだ。そう、仕方ない!


「……ほぇ~、分かったのです。では、母を呼んできますね?」


「あ、ああ。頼むよ……」


 五分ほど待つと、少女と顔立ちの良く似た女性が出てきた。やつれて見えるのは、気のせいではないだろう。この場所で生活しているのが証拠だ。


「あのぉー、娘が失礼をしたようで申し訳ないです。ただ、徴収の件については、つい3日ほど前と、その5日前にも差し上げたと思うのですが……」


 あのぉー、この親子は揃いも揃って俺を貴族にしたいのですかねぇー。って、ちょっと待て! おかしくないか?


 この世界での徴収は、基本的には1年に一度が基本だ。例えば商売する上では、商業ギルドが全て取り仕切っている上に、年に一度となっている。と言うか、ギルドと国が管理している職種全てが同じ法則に乗っ取っている。


 が、彼女らが言っているのは、貴族によるものだ。そうなると、土地を貸したりする感じか? つまり、家賃について話しているわけか。


 だがしかし、家賃は、ひと月に一度のはずである。まぁ、城内で読んだ文献が、今も適用されていればの話だが。

 いや、確かに俺には関係ないが、このまま何か口にしても、気になって、味わえそうに無いしな。

 まずは、確認からか。


「なぁ、今って何月何日だ?」


「は、はぁ。13月57日ですが……」


「あ? …………す、すまないけど、もう一度………」


「13月57日。つまり、半月と7日ですが? あの、貴族さま?」


「か……からかってないよな?」


「滅相もございません! 気に障ったのでしたらお詫び申しあげます……」


 遂に俺の耳がイカれたのかと思ったが、どうやら違うらしい。


「いや、いいんだ。と言うか、いい加減俺は貴族じゃないって! で、だな?」


「っ──はい……?」


「付かぬ事を聞くけど、一年って何ヵ月で、何日分だ?」


「は、はぁ。えっとぉー、16ヶ月で1600日分………です。これは、あたいを試しているのですか?」


「い、いや………まぁ、そんなところだ。──話の続きだが、つまり1ヶ月は100日だと?」


「は、はいぃ。それは、間違いないですよ?」


 よ、よーし。よく解った。まさかの一年が、現世である地球の4倍以上あるという予想外の事実を知ったが、ある程度は同じシステムで時を数えているようで良かった。

 そうなると、生態系の寿命なんかに疑問が生じるが、今は一先ず置いておく。

 つまり、俺の不正徴収疑惑という予想は合っているのかもしれないのだ。と言うか、ほぼ確定だろう。三日前と五日前に徴収されているだけでもそうだが、両方とも今月中なのだ。

 そして、ここからは只の推測だが、貴族、或いはそう装っているものが、詐欺をしているのではなかろうか。


 まぁ、はっきり言って、それで俺がどうと言うわけでも無いのだ。それに、また機嫌損ねそうだしな。

 でも、ここは誠実な日の丸生まれの人間として善良なことをせねば。そして、行く行くは、俺の次なる質問に答えてもらいましょうかね。


 物価とこの国から出る方法とか、近くの国とか町とか。その他諸々だ。

 情報は、何よりも価値があるからな。



 ◆◇◆◇◆


 結果だけ言えば感謝された。

 まぁ、初めは疑い続けられたが、何とか説得できた。今度、地主さま的な人物のところへ相談にいくとかなんとか言ってたな。


 これで、王城図書館で読んだ文献は、ある程度信用できると証明されたとも言う。ま、ある程度(、、、、)だが。


 で、只今この世界の常識について、ご教授頂いているところだ。


 まずは物価についてだが、これは当てにならない事が判明した。

 冷静になれば解ることだが、これから隣国へ赴こうとする人間が、物価の違うこの国を基準になどすべきではないのだ。


 そもそも、彼女からすれば、一般的な物さえ高くて買えないほどに貧乏だと言う。

 これは、どうも当てになど出来ようがないのだ。


 

 肝心の隣国への行き方だが、それについては希望が見えた。

 定期便の馬車が出ているそうだ。

 今現在の運賃はまだ解らないが、自分にも払える程度だろう。


 ああ、そうそう。ここまで支給されたお金の話をしていなかったな。

 ここらで、一つその話をしようか。

 で、支給された金ってなんだ? ……いや、冗談が過ぎたな。申し訳ない。


 支給されたのは、銀貨にして30枚と言ったところか。

 曖昧なのには、理由がある。3分の2が、カードの中だからだ。

 小さな革袋に入れて渡されたのは、銀貨10枚。その内1枚は白金貨9枚、金貨1枚、青銅貨1枚、銅貨5枚にに分けられている。

 二度目とは言え、一つ、混乱しないように言っておくが、金より銀の方が価値が高い。


 その後、必要になったら勝手に金を下ろせ、と例のおっさん騎士に言われたのだ。


 でだ。図書館の文献とお肉料理店の彼女の話を踏まえて考えるとこうなった。


 悪魔でもこの国内ではあるが、銀貨10枚で家族が5人いても100日間、つまり1ヶ月は食費込みの宿暮らしでも楽して暮らせるらしい。

 俺はひとりだから、10枚で5ヶ月は暮らせる。

 30枚なら15ヶ月だ。

 節約すれば16ヶ月は耐えられるだろうから、約1年分の生活費を受け取れたわけだ。


 うん。結構な大金である。が、金額としては理にかなっている。


 因みに、金銭の種類だが、ミスリル、黒金くろがね白銀しろがね、銀、白金、金、青銅、銅、鉄、と言う感じだ。

 価値としては、多少の前後はあれど、下から十円、百円、五百円、五千円、一万円、十万円、百万円、一千万円、一億円と、俺のニュアンス的にはこんなものだろうか。

 会話上、単位が所々(ところどころ)抜けてたりするのは、別に必要ないかららしい。

 あ、これ図書館で調べた中にあった。


 三度目だが、驚いたことに金より銀の方が価値が高い。それが理由か、この世界の金銭は、ギン(、、)と呼ぶそうだ。円と響きが若干似ている気がしたのは俺だけだろうけどな。


 これで、一番欲しかった情報は入手出来た。さて、次は腹ごしらえだ。……流石に長引き過ぎて、若干気持ち悪くなって来たぞ?



「で、俺は腹が減ってるのだが、そろそろ1つ売ってくれないかな」


「い、いえ、色々とお世話にもなりましたし、無償でお渡ししますが!?」


「ちょっと待ったぁ!! 一つ言うわせてもらうとだな、俺の懐は少しばかり。いや、結構暖かい感じなのだよ! 良い練習にもなるし、買わせてくれ!」


「いっ、いえ。……そっ、そこまで言うのでしたら……」


 逆に失礼になると思ったのか、一度言いよどんでから了承した彼女は、そそくさと奥の家へと消えて行った。


 待つこと5分ほどで戻ってきた彼女の手には、何やらクレープ皮のような薄い生地と、木製のボールが乗っていた。ボールには、レタスの様な野菜が数種類入っている。


「え? ケバブ??」


 手際よくクレープのような皮生地に具材が詰められたそれを見て、思わず連想した料理の名を口走ってしまった。


「は、はぁ。そうですが………?」


「………え? この世界にもあるのか?」


「この、世界??」


「い、いや。そこは気にしなくて良いから。それより、それって………」


「あ、はい! 昔、この世界に七人の勇者が召喚された時に、巻き込まれてしまったかたが広めた料理らしいです」


「巻き込まれ?」


「はい。国によっては大賢者とも言われているらしいですけど」


「はあ、………まぁいいや。それで代金は?」


「あっ、3ギン……鉄貨三枚です」


 は? つまり、三十円? 安すぎやしないか?

 いや、もしかしたら貧民街貧民街(スラム)の近くって、物価も下手に上げられないのかもしれないな。


「わかった。ほい!」


 軽い掛け声と同時に、女性の掌に銅貨(百円)を落として、ケバブらしき食べ物を受け取る。


「あ、あの。両替いしますので、少し待って──」


「いや、良いよ。チップとして受け取って、色々教えてもらったし」


「っ………そ、そんな訳にも………」


 まだ何か言いたげな女性と、その背後で少し前からポカンと突っ立っている少女に背を向けて、俺は先程聞いた馬車の定期便を出しているという場所に向かって歩き出す。当初の予定通り、昼食にしては遅いブランチブランチ(ケバブ)にかぶり付きながら。



 城下町をぐるっと囲むように聳える石製の城壁を伝って、正門の方へとお散歩気分で向かう。

 俺は、貧民街でも一応壁の内側にあるのだということに少し驚きつつ、壁の内側沿いに掘られた溝の両側が綺麗な花畑にされていることに、更なる驚きを感じていた。


 花畑の横に続く歩道を進むと、やがて市場とは違った賑わう音が耳に入る。

 少し向こうの方には、家々の屋根から覗く城壁に、正門らしき大きな木製の扉が口を閉じていた。



 やがて、俺自身もその賑わう人々の流れの渦に巻き込まれいた。

 「ギルド通り」と名付けられたその大通りは、一繋がりの大きな建物に挟まれならがら伸びている。

 たまに、道の上を大きな橋が横切っている様子は、まるで日本で最近普及してきた大型のモールのようである。


 ここまでの規模の建設物を、良くもまあ作り上げたものだ。


 俺は、ご丁寧にも十字路に立てられた案内板を見て、目的地を探す。

 いや、だってこんな広すぎる場所の中から自力で探すとか無理だから。


 10分ほど地図とにらめっこして、ようやく見付けたその場所は、ギルド通りから外れ、もう一つ向こう側の正門通りにあることを知った。


 絶望だぜ。全く、何で大通りが幾つもあるのかねぇー。


 そんなこんなで、愚痴を呟きつつも、やっと目的地にたどり着いたのだった。



 お読み頂き、ありがとうございます。宜しければ、ご感想、評価等々していただければ嬉しいです。


 次話は、明日(11/5)の18時頃に投稿します。

 もう暫く、毎日更新します。


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