002- 第1話 ベタな展開なのに不出来な姫君~夢見る俺!www~
気付くとそこは、白亜の柱に囲まれた、とんでもなく広い祭壇だった。
取り敢えず、お弁当とスナック菓子の入ったレジ袋を仕事用肩掛けバックに突っ込んで、周囲を確認する。
目の前に学生制服の7人がキョロキョロとしていて、その更に前方に、少しくすんだ銀の甲冑と、それに守られるように純白のドレスを着た女性が3人。……いや、一人は少女のようだ。一目で彼女等が、姫だと推測できた。
3人共にか、一人のみかは解らないが。こう言う召喚ものは大抵が姫か召喚師と相場が決まっている。周りのは、騎士だろう。御大層な事にフルメイルで顔も見えないときている。
「──、コホン。─────────?」
3人の内、真ん中の女性がこちらに何かを問い掛けたようだが、よく解らない。学生さんがたと首を捻っていると、ハッ、としたその女性が顔を赤らめ、隣の騎士に何かの紙を渡した。
渡された騎士さんは、こちらにそれを持ってきて、学生さんの中で一番背の高い女子に手渡す。
あれ? そこは、俺に渡さねーんすかね? これでも、この中で一番年長ですよ?
そんな風に思っていると、学生さんの内で回りきったのか、最後に読んでいた男子が俺にその紙を手渡してきた。
うん。ありがとー。だから、その引きつった笑顔はやめてね。確かに俺の存在は場違いだけどもさ。
えーと、内容は…………。
直訳するとこうだ。
まず、あなた方は七人の勇者として召喚されました。この世界の人間界は今やマ族に侵略され、民達は多いに苦しんでいます。どうか将来のある子供たちのためにも、その先々で生まれる命たちのためにも、お力を委ねて頂けないでしょうか。勿論、最大限のサポートはこちらでいたします。
では、渡されたカードにむかって「ステータス・オープン」と唱えてください。召喚者であるあなた方は「ウィンドウ」とやらが可視出来るはずです。その後、スキル欄より、予め表示されている「異言語習得」を選択してください。
それ以降の説明は、こちらでいたします。
と、まあこんな感じだ。「マ族」って書かれてたのは、「魔族」のことだよな。マゾフィストな種族だったらヤダゾ? 書き違えたんだよな?
読み終わると、騎士さんに茶色いカードを渡された。そして、頷かれる。
早速やれってことね。解ります。では、ちょいと失礼しまして。
「─ステータス・オープン─」
む? あれ、失敗? と思ったら一拍開けて、目の前に茶色く半透明な板が出現した。うん、これぞ「ウィンドウ」だね。
で、俺のステータスは?
¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦
名前:三草 九鵺
年齢:21歳
種族:異世界人
状態:異常なし
ランク:<不明>
【ステータス】
LV :1/10
HP :30/30
MP :300/350
バイタリティ(体力):25/30
力 :5
俊敏:40
精神:50
知力:70
気絶値:9
運 :30
《point:0》
ジョブ: <未選択>
サブ: <未選択>
アクティブスキル:なし
パッシブスキル:なし
耐性スキル:なし
固有スキル:<未選択2/2>
《point:0》
称号スキル:〖勇者召喚に自分から巻き込まれたアホな異世界人〗〖女神の譲歩〗
装備:???
¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦¦
…………と、取り敢えず突っ込むのは後にして、スキル選択せねばな。うん。
固有スキルの「未選択」をポチっと押すと、ズラーっと厨二病的なネームが上下スライド式で並んだ。「異言語習得」は一番上にあり、更に星が付いていた。必須ってことかな? まぁ、いいや、ポチッとな。
─「獲得しますか」Yes /No ─
半信半疑で「Yes 」を押すと、一瞬耳の奥で何かが弾ける感覚がして、聞こえている音が全てクリアになる。なってから気づいたが、今までの聞こえ方がおかしかったのだ。
さて? 手前の学生らも各々に完了したようだ。次は何が始まるのやら。説明とか言ってたけど、こんな一瞬で言語が解るようになったら、勉強の意味がなくなりそうだけど……?
いや、……俺の推測だと「女神の譲歩」って言うのの効果で、特別に出来るとかだろう。ん? じゃ、俺チートなのか! うん、うん。楽しくなってきたねー!!
「えー、それでは御説明したいと思いますが、こちらの言葉は理解できているでしょうか?」
先程と同じ三人の中で中央に立つ女性が、改めて俺たちの方に問いかける。主に高校生の7人に向けてだが。
そう言えば、今度はしっかりと意味がわかる。スキルのお陰か。異世界法則だよな。さっきのチートだという話じゃないけど。
まぁ、いい。説明を聞こうじゃあないか。
先程俺に紙を手渡していた男子生徒が、その女性の問いに「はい……」と、少し不安そうに返事を返すと、安堵したような声音で説明を始めた。
「無事、終えたようで何よりです。わたくしは、ここアルカイラル王国第2王女のアルカイラル・シリアンナです。どうぞ、シリアンナ姫とお呼びください。ではまず、お読みになられていた紙にも記載されておりましたが、皆様を召喚した理由。この世界で起こっていることからお話しします」
やっぱり姫様だったのね。でも本名微妙じゃね? シリ? それは尻のことですかな。つまりはそう言う性癖を持った御方だと? 王様よ。君は何て酷いネーミングセンスなのだ! それに立場上仕方がないのかもしれないけどさ、自分で「姫」付けするんだね?
フルネームもそうだけど、何か恥ずかしいし、笑っちゃいそうだから、「姫様」とお呼びしましょう………やべ、今も既に笑いそうなんだが、どうすりゃいいかな。
その後、だらだらと聞かされた説明は、特に聞いていなかった。そう、聞いていなかったのだ。
それよか、この「棟」だろうか。ここから見える異世界の風景に見入ってしまう。綺麗だ。素晴らしい! 何か変なモンスターっぽいのとか飛んでるし、地平線の向こうでは、水らしきものが最高に輝いてやがる。
ここは、それなりの高台なのだろう。付近のものは、全てここから見下ろせる。この棟は、お城の真ん中に建ってるようだ。
あー、ワクワクする。あの森には何が居る? あのでっかい木には? この少し虹色がかった空の向こうには? ここは島? それとも大陸? その先には何が広がっている? ドラゴンは? スライムは居るのか? 人形モンスとか夢のような存在、例えば人魚だとかハーピィとかは?
やばい。ヤバすぎるよ! この世界を、この空の向こうまでも知り尽くしたい! だって異世界だぜ? 折角、運のない俺にもチャンスが回ってきたんだ。それも、いつも没頭して読んでたウェブ小説見たいな展開だぜ?
ん? そのわりに、姫様の説明を聞いてないって? いや、だってさ。魔王軍がどうとか、って事ばかり話してるし。人間界からの一方的な見解なんて聞きたくないし。勇者を利用するための方便じゃないって保証はないじゃんさ。
そう言えば、召喚されるのって大抵は二十歳前だよな? 騙しやすいからって理由があったりしてな。
とっとっと、そろそろ人間側の見解の説明は終わったかな。他の、特にステータス関係の説明は早く聞きたいぜ?
「と、ここまでが皆様をお呼びした理由です。ご理解、そしてご協力いただけるでしょうか?」
姫様が、一度締め括るように学生さん方に問う。先程と同じ青年が、頷きかけてから姫様にむかって問い返した。
「あの。シリアンナ姫のご説明は理解できましたが、1つお聞きしても宜しいでしょうか?」
少年よ。確かに畏まる気持ちは解るし、別に間違っていないと思う。
だがしかし! その呼び方だけは勘弁してくれーい! 笑ってしまうよ。俺が、不敬の罪で何されるか解ったもんじゃないからさ、どうか笑わせないでおくれよ。
「それは良かった。で、ご質問とは? お答えできるものであれば、何なりと」
「えっと。さっき話していた中では、過去に召喚された勇者は7人だと言っていました。そして、今回もそれを想定して召喚したと。そうなると、僕らの後ろに居る、おっさんはどういうことになるんでしょうか?」
オッサン言うゆーなし! まだ21だし! 若いんですよーだ! それに、どう言う事ってなんだよ! 事って!!
という突っ込みは良いとして、確かに疑問に思うだろうな。話は聞いてなかったが、本来召喚されるのは7人だったのだろう。初めに配られた紙にも書いてあったしな。なぜ8人目の俺が居るかって? 教えてやろうじゃあーないか。
それはだね。まき──
「巻き込まれ召喚者、ですね。召喚陣が広がったときに、偶然にもその枠内に入ってしまった者のことです」
さ、……先に言われたー!! しかも、姫様に。いや、口にはまだ出してないからセーフか。恥ずかしい事しそうになった。あぶねぇな。
シリアンナ姫は、俺の来も知らずに続けて口を開いた。
「実際に想定していなかったわけではありませんが。さて、処遇はどうしたものでしょうか。ああ、そうでした。一応の確認ですが、一番後ろのあなた。ステータスに【勇者】とは記載されていない。ですよね?」
行きなり話しかれられたー! 俺人見知りする方だから、困っちゃうなぁー。ガンバレ俺! 相手はお下品なお名前のお姫様だ!
「あ、ああ。確認した、……ました。巻き込まれたって書いてありますよ」
先程から表示したままのステータスウィンドウに目を通して返事をする。
「そう。やはりそうなのですね。で、貴方としてはこれからどうしたいのでしょう? 【勇者】ではない貴方にしてもらうべき事は特に御座いませんので。何かご希望があるならば、善処いたしますが……」
あ、そう。シリアンナ姫様は、名前はアレだけどお優しいのですな。希望。キボウねぇ。
そんなの決まってるだろぅ!!
「えっと。まずは、この世界についてある程度教えて頂きたいです。その後は、俺自身で何らかの職を持てるまでの資金を頂ければ、何とかやっていきますんで」
「そうですか。それでよろしいのですね。それならば、こちらとしても助かります」
「あっ、でも最後に1つ良いっすか?」
「ええ、何でしょうか……」
「別にそうしたい訳じゃないですが、元の世界に戻る方法ってあるのかなと」
すると、俺の前に立っていた学生さん方も口々に賛同した。まぁ、小声だけど。
第2王女は、ひとつ頷いて話し出した。
「そうですね。突然別の世界に召喚されたのです。その気持ちは良く分かります。今回、皆さんを召喚した際には、とある流浪の召喚術師に協力してもらいました。召喚を見届けずに去ってしまいましたので、今の所在は分かり兼ねますが、ご希望とあらば探索させましょう。あの方ならば、戻すことも可能でしょうから」
無論、却下で。まぁ、この世界が本当にクソゲーだったら話は別だがね。その前に、これがまたまた方便じゃない保証なんてないしさ。そうなら、一生見つからないだろ。
だったら、「魔王なら知ってる」って言った方が良いんじゃないですかね、姫様? でも、そう言われたとして、俺だったら魔王の味方になるね。
「いえ、始めに言った通りで、俺は別にいいっすけど。君らは?」
出会ってからまともに話したの初めてだけど。勇者候補の学生さんたちは、どう思うかね?
「あ、そうですね。僕らにはむこうでやり残したこともありますし、何よりまだ高校生ですので、こちらでの用事が済んだら戻れると嬉しいです。シリアンナ姫」
「そうですか。コウコウセイがどんな物かは知りませんが、両者の意見は分かりました」
その後に、この世界のステータスとかの法則を説明してもらい。今日は、解散ということになった。
因みに、職に就くという話しを先程したが、説明によると職ではないが、ジョブに就くのは召喚者である俺たちには簡単なのだとか。どうやらまたまた「女神の譲歩」の効果で、得意不得意はあるとしても、大抵のジョブには「選択」すればなれるのだとか。職に就くのはその後だとか。
………直訳したら一緒な気がするところは、突っ込まないお約束なのかな。
そんでもって、俺に支給してくれるというお金は明日には準備され、昼までには城を出られると言われた。
この世界のお金だが、基本的に、上級社会ではカードによってやり取りされる。まるでIC カードだ。電子マネーって訳ではなく、カードに内蔵される「記録の魔石」によるもので、それを操作できるのは各ギルドなのだとか。つまりそのギルドとやらは上級社会の組織と言うことだ。
それじゃ、下級社会ではどうか。
これがまた面倒だが、俺のよく知る異世界もの同様、コイン等を使うらしい。ただ、コインの原料は秘匿されていて、マネーなんちゃらと言う魔法が掛かっているため、壊すと魔法は解けてコインも消滅してしまうらしい。
コイン一枚一枚はそうでもないが、量があれば重いしかさ張るため、旅をする者などは予め己のカードに入金するらしい。入金出来るのは、規定の手数料は取られるが、ギルドが基本らしい。
ま、簡単に言えば、この世界はギルド中心な訳ですな。良く解ります。
あ、言っとくが、これを説明してくれたのシリアンナちゃんじゃなくて、ゴツい茶髪の騎士さんだ。どうやら、始めに紙を配ってたのも彼らしい。ヘルメットのせいで判断し難いったらありゃしないよな。
読んで頂き、ありがとうございます。宜しければ、評価等々も頂ければ嬉しいです。
本日の午後、21時~23時半の間に更に2話投稿いたします。