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011- 第10話 名も知らぬ王都よさらば! ~取り敢えずは脱出成功かな?~

さぁ、いよいよ旅の始まり!


 陽射しが強くなり、流石にお昼でも食べないと、この後が持たないと思い、目的地へ向かう途中で食べ歩き出来るものを購入した。


 言ってしまえば、只のチーズを挟んだパンだ。

 それ以外の具はない。パンも固いやつだ。


 因みに水分補給についてだが、そちらは充実しまくっていた。

 お姫ちゃんのポーチに清水を入れた大きな革袋が入れてあったのだ。持ち出した本人は入れていないと言う。つまり、元々入っていたのだろう。

 飲むと身体に力が湧いて、頭もスッキリする気がする。

 まぁ、気がするだけで、特にステータス上に変化はないんだけどな。



「すまん、遅れたかな?……三草さえぐさって者だけど……」


 馬車受け取りとして指定された場所に行くと、沢山の乗り物類の中に、俺が買ったクラッシック風な薄茶の車体が見つかった。

 他の馬車とは見た目からして違うからすぐに目に入った。

 その傍らでは、見知らぬお爺さんがパイプを吹かしていた。


「ああ、別にかまいやぁしねぇよ。わしゃぁ、受け渡しの依頼を受けた冒険者じゃよ。ほれっ、取り敢えず、ここにサインをしてくれりやぁ、済むからよ!」


「あ、はい。どうも」


 一応、同じ紙に書かれた注意事項や依頼主等々の欄も確認してから紙にローマ字で「三草さえぐさ」と記入してお爺さんに渡す。


「と言うわけで、受け渡しは無事終わったことじゃし。わしゃぁ、行くよっ………。ああ、そうだ。ここから馬車を出す時は、門側の小屋にいる憲兵さんに声かけな。許可もそうだし、誘導してくれっからな!」


 一つ礼を言ってから、俺たちは馬車に乗り込んだ。


 馬車は従者席と乗車席、トランク《荷物置き》の3段階に分けられている。乗車席はお互いに向き合う形で3席ずつ配置されており、足元の空間も広々としていて居心地が良いだろう。


 難を挙げるなら座席の質だろうか。

 良いもの、とは言えないな。隣国かそれまでに寄った場所でクッションでも買うかな。


 応急処置と言うことで、テントの底に敷くクッションを縦に折って敷くことにした。


「どうだ? リリー。動かせるか?」


 せり出した馬車の屋根以外は野晒しと言う、御者への配慮が何とも微妙な御者席にも「テント(小)」用のクッションを敷いてやりながら、黒猫奴隷少女に声をかける。


「よゆーだろ、デス!」


 リリーは、他の少女たちが乗車席でセッティングをしていて居ないからか、二人きりの時と同じように返答する。

 視線は馬車に繋がれた2頭の馬と、馬車の金具類を弄る己の手に向けられてる見たいだけどな。


 機具の確認は解るけど、馬との交流も大事なのだとは知らんかった。


「さて、俺は憲兵けんぺいの人? とやらに出発のご案内を頼みに行ってくるよ」


「早くしろぅ、デス」


 何だ? 一人が心細いのか? 車内にみんな居るぞ? 何て言っても無理だろうな。

 さっきもお姫ちゃんたちの居る前では一言も話しちゃいなかったしな。


 馬車が敷地内の端から端まで並ぶ駐停所のほぼど真ん中に位置する自分の馬車から小屋まで歩く。

 そこまで、距離は無いものの、出入りする馬車と停車したそれとの間をう様にして進むのは、少し疲れるものだ。


 スライド用の鉄門と隣接する小屋には、やはり俺の予想通りの、おじさんがいた。

 もう、俺にはおじさんと幼女にばかり逢うと言う、要らない特性があるらしい。………本当に要らないんだけどな。


 「すいません。馬車を出したいのですが……?」


 小さなコンビニ程の大きさのある小屋の一端にて、せり出した小窓から中を覗く。

 

 出窓の奥では、おじさんが何かの雑誌を読みながらカップを片手に座っていた。

 俺の声に視線を上げ、面倒臭そうに一つ頷く。


「おーい! 誰か。案内してやれ!! ……ほれっ、許可書。ここにサインしなっ」


「あ、どうも」


 窓脇に置かれた羊皮紙の山から1枚捲り出されたそれに、内容を一度目にしてから己の名を記する。

 向こうに一度、確認してもらっていると、出窓横に付いたドアが開き、紺色の制服の男が出てきた。


「ほれっ、俺が案内してやるからよっ。早く行くぞっ」


 軽く頭を下げて、自分の馬車に向かう。

 俺は、御者席で既に手綱とムチを握っていたリリーの横に座り、御者席の背に取り付けられた窓を叩いて乗車席の御姫ちゃん達に出立を告げ、案内の制服おじさんにも声をかける。


 「ほいよっ」、と軽く返事をした彼は、2頭の馬の口元に付いた金具を引っ張り、馬を歩かせ始めた。


 ゆっくりとした動きで、スムーズに馬車が動き出す。車内のお姫ちゃん達は、両側にある窓を開いて流れ行く町並みを見ているようだ。

 歩いてる時と、そう変わらんとは思うが、本人達の問題だからな。何とも言えん。



 ◆◇◆◇◆


「ここからは、真っ直ぐだな。門の左下に乗り物とかの入出手続きをしてる場所があるからよっ。他の馬車も並んでるし、解るだろっ」


「あ、はい。どうも」


「おう。……あ、許可書はちゃんと見せろよ!? にしても御者は少女かい。あんたも大概だなっ」


「……ありがとうございます。それは、どうも!!」


 あー。もう疲れる。俺も早く乗車席に移りたい。

 でも、許可書は本人じゃないといけないらしいしな。


 て言うか、関所を通るなら、お姫ちゃんとライム、リムの双子には隠れてもらわなきゃな。


「おい、おめーらそろそろ隠れろな」


 軽くノックしてから声をかけると、お姫ちゃんの声とライムの元気な声が聞こえてきた。

 リムは? と中を覗くと、両膝を抱えてふて腐れている様子。何か二人にされたんだろうな。ま、俺関係ないし。放って置くんだけどね。


 さて、ここで説明するが、実は、馬車には隠し収納庫のようなスペースがある。

 これは、商人何かが使う馬車なら当たり前にどこかについてるものだ。おおやけには出来ない商品もあるからな。


 そんなわけで、俺の馬車にある隠し収納庫である、馬車の屋根裏、椅子の下、床の下(馬車の下)、そして俺が今座っている御者席の下の何れかに隠れてもらうのだ。本人達によれば、椅子下に二人ずつと、屋根裏に一人だ。

 因みに最後の一人は無論のことライムである。



 少しハラハラする事10分ほどで俺達の番になった。

 慣れた手つきで係りの人が「許可書」を確認し、何かのツノで作られた印を押す。


「行商人?」


「い、いえ。隣の国に行きたいのですが、定期便がなくて……ナケナシでって感じです」


 あー、ビビったぁ!! 何を聞かれるかと思えば、そんなことかよ!


「そう。お金があったなら良かったじゃないですか……今日出国したのは運が良かったですね。明日から警備が厳しくなるそうですし」


「へぇ。物騒ですね。お勤めご苦労様です」


「ああ、何でも反逆者が逃げたとかなんとか……良く解りませんけどねぇ。働くこちらの身にもなって欲しいものです。あっ、どうぞ……」


 俺の馬車の後ろの列が更に伸びだした事に気付き、係りの人は話を中断した。


「あ、ええ。ありがとうございます」


 コミュニケーション能力の低い俺では、どうしたものかと思ったが、何とかなったみたいだ。

 初見の人と話すとか本当に無理だから!!


 赤い印の付いた許可書を受け取った俺は、最後にもう一度礼を伸べてから馬車を動かす。動かすのは勿論リリーなのだけどね。


 ガタゴト、と石畳を馬車が緩やかに車輪を回して進む。

 先に通り抜けた見知らぬ馬車達を追うように、俺達の視界には門を抜けたその先が広がって行く。



「──うおお!!」


 俺は、開けた視界に写る、この異世界の風景に思わず歓声を上げてしまった。

 恥ずかしい事この上無いが、それだけに美しく、町を歩けば必ず行き当たる城壁と言う閉鎖空間から解放された心持ちなのだ。


 召喚された当初に見た棟の上からの風景の一部が、今こうして下から見えている。その事だけでも心が踊ると言うのに、上からでは見えなかった物が沢山あり、地面を進めばそれを体感することさえ出来るのだ。素晴らしすぎるだろ、異世界!!



 門から架かった跳ね橋を渡り、坂を下ること暫く。リリーに「危ねーデス」、と辛口を言われつつ従者席で立ち上がり、馬車の上から城を振り替えると、名も知らぬあの城が、丘の上に鎮座しているのが見えた。

 城壁の上では人影が行き来していて、俺達の後から審査を受けていた馬車が、跳ね橋を渡っている。


 特に思い入れもない国だったが、離れるに連れて少しばかりさみしさを覚えた……様な気がした。まっ、このシチュエーションから来る一時の気の迷い見たいな物だろうけどな。


「おーい、おめーら。そろそろ出てきて良いと思うぞぉ?」


 手綱を握るリリーが俺の発した無言の問いかけに頷いたのを確認して、御姫ちゃん達に向かって、背後の窓から声をかける。


「ぷっふぁーっっ!! こん中は結構暑いんねぇ!」


「ふわぁーー!! そうですね。こんな非常時でなければ入りたくありませんよぉ」


 客車の向かい合った座席下から板を外して、リムとお姫ちゃんが転がり出てきた。

 陽の傾き始めた空には、赤紫色の雲が流れている。風が出てきたものの、まだまだ日中の暑さが残っているようだ。密室なら尚更なおさら暑かろう。


「おーい、お二人さんや。ライムはどうした?」


 胸元をパタパタとさせる二人の少女に、御者席の背に付いた窓も開いてやりながら質問を飛ばす。


「ふぁぁー、風が気持ち良いんよぉー。ねーねぇぇ、降りてきて良いって言ってるよぉ……?」


「そうですよぅ………下は涼しいですよぅぅ?」


 二人してかなりふやけた様な声でライムに声をかけるが返事がない。

 「全くもぅぅ」、と今だに語尾が伸びた声を出して、リムが馬車の天井の一部を押して、中を覗く。


「あの。三草さえぐささん! ライム姉、寝ちゃってますけど……」


「あ、そう。……屋根裏って暑い?」


「はい、座席下よりはましですけど、かなり」


「じゃあ、降ろしてやってくれ。……熱中症とか脱水症状が出ても困るからな……はぁぁー」



 全くもって、どこまでマイペースを突き通すんだかね、この娘さんは。

 さて、まずは目前に見えてきた山を迂回して、最初の中継地点の村にたどり着かないとな。


 そんなこんなで俺達の旅は始まった。

 そりゃ、もう、何の区切りもヘッタクレもなくだ。

 まぁ、何もないのが一番だとは言うけどな。


 今後の予定としては、まず、中継地点となる1つ目の村に着いてから決まってくるだろう。と言うのも、駐屯している人達の人口にも寄るからだ。

 理想としては、宿を取りたいところだが、まぁ無理だろうと踏んでいる。つまり、野宿だな。


 そして、翌日に進む道だが、2つの選択肢がある。

 1つは、横道な街道を進むもの。

 これは、他の旅人や行商人達も通る、比較的安全な道だ。それだけに進む速度は遅くなり、別の意味で妙な奴等に絡まれかねない。食料の備蓄も心配なところだ。

 街道で商売する奴等から高値で買いたくもないしな。


 2つ目は、山を登って行く道である。

 道としては充分に整備されているが、モンスターや野党(盗賊など)が出る可能性が高いと聞いた。いや、寧ろモンスターは確実に出るそうだ。

 とは言っても、レベルは低いし、戦い方に寄っては楽に倒せるとも聞いた。


 うちのパーティーには、戦える者が一人。戦えるだろうメンバーが2人、……いや、俺を含めれば3人か。

 つまり、お姫ちゃん以外は、頑張れば何とかなると言う訳だ。お姫ちゃんも城に居た頃は、お稽古を受けていたらしいから、自分の身ぐらいは守れるだろうしな。ま、お互いにカバー仕合えば良いってことだ。


 と、候補はこんな感じである。

 まずは村の様子を見なければ何とも言えないが、2つ目の、山越えする道を選ぶだろうと言うのは、予想にかたくなに無いだろう。


 と、言うわけで、【王都編】はここまでとなります。次回は、番外編となります。(番外編とかほざきましたが、お話自体は続きますw)

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