010- 第9話 あれ? 黒猫少女のイメージがぁ! ~地図がトラウマになりそう~
やっと話すようになってくれた……のか?
再びの雑貨屋さんに行って参りました。
あの店、俺のお陰で繁盛するんじゃないか?
で、買ったものだが、「登山用ザック(小)」を3つと女性人用の「テント(中)」を1つ。それから、奴隷の黒猫少女のために剃刀を1本。替え刃が3枚付いてきた。
そして、重要アイテム。
「マント(中)」とか言う、フード付きの深い紺色のケープのようなものを3着。おじさんによれば「気配遮断」とか言う魔術を付与されているらしい。無論、レベルは低いため、気休め程度だとも言われたが、なかなかの掘り出し物だ。
うちには、国から追われている者が3人も居るからね。
そして、次に寄ったのは、例の武器屋さんである。割りと親切……だと思うおじさんが経営している店だ。
目的は黒猫少女の戦闘力増強。資料上では「剣技」、「ナイフ技」、「小弓術」を習得していると書かれていた。
結果的に購入したのは「小刀(中)」とか言うやつだ。柄は滑らかな木目を軸に橙赤色の柄糸が巻かれている。
同じ「小刀」でも、俺の持ってるヤツとは比べようもねぇよな! 何でだろ。何故か理不尽な気がしてくる。
まぁ、俺には戦闘なんて出来ないし?
守って貰うだけだから仕様がないんだろうけどさ!?
立て続けに文句を言う訳じゃあないけど、おじさんズを巡り直したわけだ。馬車に雑貨屋に武器屋だね。
で、思ったわけよ。
何で、俺が行った時よりも対応が丁寧なの!!? しかも、絶対俺の時より安くしてるだろ!!
何!? やっぱり、女の子が良いわけ!?
いや、そりゃそうだよな。俺みたいな良く解らない青二才じゃ特に何も思わないよな。……思われても困るのか。
さて、現在「ギルド通り」を歩いているのだが、これには特別な理由がある。
途中で気が付いてしまったのだ! と言っても、雑貨屋での待ち時間にだ。
女性の買い物は長いという言葉を体現するかの様な、退屈な時間だったせいか、幾らかこの先の事について整理していたのだ。
そして、ある考えに至った。
あれ? この世界の地図ってどんなだっけ?
そう、考えてみればそうなのだ。
俺は、この世界の地図をここに来るまでに見ていない。
そもそも、地図と言う名の物に、「ギルド通り」周辺を示した案内図以外に見ていないのだ。思えば、王城の図書館でも探したものの、見付からなかった事も記憶に新しい。
隣国への行き方は、お姫ちゃんと黒猫少女が知っているとはいえ、おれ自身も把握している必要がある。旅ってのはそう言うものだ。
丁度雑貨屋に居たので、店主のおじさんに「地図はないか」、と聞いてみたのだが、……笑われたんだよな、これが。「お前さんはアホか?」、ってな。
どうやらこの世界、地図は国家的に作られてるんだとか。まぁ、無論のこと市場には出回らないらしい。
けど抜け道はあった。
いつか話したが、この世界はギルド中心の社会でもあるのだ。つまり、ギルド内では結構出回っているらしい。とは言え、勿論国家的に作られたものよりかは簡略され、範囲も狭い。
1つ買っても、隣国にでも行ったらまた新しい地図を向こうで購入する必要がある。
非効率的とは言え、お姫ちゃんが王城から持ち出した物の中には「地図」が無かった故、調達すべきだろう。
「と、言うわけだから姫ちゃんとライムとリムは、食料調達な! 俺はこの子を連れて地図を探しにギルドへ視察に行くからよ」
そう言うと、自分もギルドに行きたいとライムにせがまれたが、何とか説得出来た。終われる身である彼女らを、異世界の鉄板とも言える「ギルド」に連れていけるわけがないしな。
予め監視とかされてそうだし、それがなくても裏から知らされでもしたら面倒極まりないからな。
そんな訳で、合流地点や時間帯を確認した後、今現在「ギルド通り」を進んでいるのだ。
「で、君はいつまで、と言うか何で黙ってるの? 猫耳少女よ」
「ギルド通り」とか言っといて、ギルドに付随した店舗が並び立っているだけで、本命のギルドまでどんだけ歩かにゃならんのやら、何て考えながら手を繋いだ相手に声をかける。
すると、思いの外彼女は普通かつ異常な口調で口を開いた。
「めんどくせーから、……デス」
あぁん……??!
おっといけない、あまりにもイメージと違いすぎて素が出ちまったよ。なに、君? そんな口調だったの?? しかも、面倒だから話さないってな、……いや、そこは俺も同感だが。
「あー、履歴書っぽいのでは読んだけど、改めて君の名前を教えてくれるかな」
うん。当たり障りの無い質問だよな、これ。
こんな時にも自分のコミュ障がぁ!!
「エステル=リリアン! リリーと呼べ、デス!」
「そ、そう。ありがとう。俺は──」
「マスター」
ぶっきらぼうに名を口にした少女に対して、自分も名乗ろうとした途端にそれを遮られた。
あれ? 俺、名乗っちゃいけないのかな。
「マスターって呼ぶデス。名前覚えるの得意じゃねーデス!」
「あ、そうなの。じゃぁ、これから宜しく……な……?」
うん。結構くるな、これ。
名前を名乗れないってのが、こんなに心苦しいなんて、生まれてこのかた知らなかったよ。うん。
そんな一悶着を挟みつつ、昼時と言うのもあり、かなり混雑した大通りの道端を歩く。
人の波に酔い出すこと10分ほどでギルド本部に到着した。この間ずっとリリーとは手を繋いでいた。
建物内は思っていたよりも空いていた。
所謂、冒険者ギルドと呼ばれるこの施設だからだろうか。
冒険者の皆さんは、クエスト発注を朝の内に済ませて、どこかに行っているのだろう。
受付用のカウンターが片側に長々と続いている。
その一番の手前側のカウンターには、「|information」の文字が。
取り敢えずはそこに向かうとしよう。
カウンター越しには、ガラスを挟んで受付嬢らしき女性が座っている。
おーし、来た! ついにお姉さんが来てしまいましたぁ!
いや、別に期待なんてしてなかったけどね!!
でも、ついに俺はオジサン結界から脱け出したんだと思うと、今夜はぐっすり眠れそうなぐらい心が休まるね。
では、いざ!
「す、すいませーん!」
ガラスの向こう側に向かって声をかける。
既に俺たちが近付いて来たことを察知していたのか、満面の笑みを据えてこちらに軽い会釈を返してきた。
これが、エイギョーsmileと言うやつだな!! 俺がとっても苦手なやつだよ。
「えっと、その。地図を探してるのですが、……」
そう本題を持ち出すと、相変わらずの笑みと共に思ったより高い声を返してきた。
「……ギルドカードはお持ちですか?」
「えっと、その。まだ登録してなくて」
一瞬、王城で貰った茶色いカードを見せようかとも思ったが、面倒ごとにでもなったらそれこそ面倒臭すぎる。
この際、無しでどうなるかを聞いてみるしかないだろ。
「……その。……簡単なものでしたら、この建物の2階にあります、資料館の方で買えます。ですが、ギルドカードの提示がありましたら、更に詳細の載ったものを、こちらのカウンターでお売りできますよ?」
なるほど。一応買えるらしい。
まぁ、どの程度の物かは別の様だけど。
受付嬢に礼を言って、取り敢えず資料館に向かってみる事にした。
茶色いカードを提示したくない理由と同様に、ギルド入会もこの国内では極力避けたいところだからな。
カウンター並ぶホールを通り抜け、突き当たりまで進むと階段があった。
建物の全体と同じく、大理石のような素材でできている様だね。
どれだけのお金を注ぎ込んで建てたのやら。
全く、お金持ちってのは困ったものだよ。
俺としては、有ればそれに越したことは無いと思ってるけどな。
2階フロアの真ん中には、1階との吹き抜けになっている丸い穴がある。
それ以外は、掲示板が羅列していた。
1階にもあったが、ここにもクエスト発注用の紙が貼り出されている様だ。
壁沿いの通路を進むと、別の部屋へと繋がる割りと大きな扉を見つけた。
象一頭は、余裕を持って通り抜けられそうだ。
扉に付けられた「資料館」と言う文字の書かれたプレートを確認して、押し開く。
ゆっくりとした動きで開いた扉の隙間を通って、リリーと共に中に入ると、頭上に取り付けられたステンドガラスの優しい光が床一面に広がっていた。
「これは、凄いな! 本当にお金掛けてるだろ」
「………無駄使いだろ、デス……」
否定をしている割りには、目を離さず見つめ続けるリリーに口元がニヤけてしまった。
厳しい印象の強かった彼女が、言葉とは裏腹に、その綺麗さには見とれているのだ。何か微笑ましいだろ。
頭上のステンドガラスを見上げているリリーの手を牽き、反対側にある大きな扉の方へと移動する。
扉の横にはカウンターがあり、眼鏡を鼻先にかけたお爺さんが座っていた。
こちらが声をかけると、手元の書類から気怠そうに一瞥して視線を元に戻す。
「カードを見せてみな……」
無視されたのかとも思ったが、逆に向こうから口を開いた。しかも、俺には何をいってるのかさっぱりだ。
「いえ、あの。ここで地図が買えるって聞いたんですが……」
「はぁ?! 地図は下の受付だろう? ここは資料館だぞ?」
眉を寄せて実に不愉快そうに返す彼の言葉で理解した。この人は、俺がギルドに入ってると思っているのだ。
「いや、その。諸事情でカードを提示できなくて、それで、簡易的なものならここにあるって聞いたんですけど。下の受付で」
「ああ? あ、そ……そうか。なら良い。鉄貨3枚だよ」
「あ、はい……」
少し微妙な空気の中で、貨幣と丸められた羊皮紙が交換される。
礼を言って、俺たちは元来た道を戻っていった。背後で「そんなもん、有ってもなぁ」、と言うお爺さんの声を聞きながら。
その後、乗り物やさんに一度寄り、受け取りの時間と場所を決めて来た。
店主のグランさんは、どこかに出掛けているらしく、グリンと名乗った弟のさんが対応してくれた。
いやぁー、言っちゃ悪いんだけど、グランさんよりも良い人だったよ。
変な皮肉とかも言わないしな。
◆◇◆◇◆
「やぁ、お疲れさん。大丈夫だったか?」
待ち合わせ場所として指定した「正門通り」の一角で、お姫ちゃんとライム、リムの3人と合流した。
予めどんな部類の食糧を買うかは、相談していたため、そこまで悩まなかったようだ。
それに、一人は王宮で勉強してた人だし、後二人だって見た目こそ幼いが、一応高校生である。
買った物の運搬は、お姫ちゃんが王城から拝借した「アイテムポーチ」に入れているので、特に不便はない。
敢えて言うなら、「アイテムポーチ」に物を入れるところを他人に見せないようにするって事だけだ。
面倒事は、御免蒙るからな!
「さて、粗方揃ったことですし、正門に向かいますかね」
「おう! やっと、旅の始まりですかい!」
俺の言葉に反応したのはライムだけだった。
他2人は、何故か疲れたご様子。……いや、察した。ライムに連れ回されたんだろうな。
そして、黒猫奴隷のリリーはと言えば、集合してから一言も口を開かなかった。
あれ? 二人の時は、結構色んな意味で酷い言葉遣いを聞いた気がするけどな!
読んでいただき、ありがとうございます。
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~お知らせ~
無事、1週間毎日投稿を終えることができました。
これも一重に読んでくださる皆様のお陰ですね。本当にありがとうございます。
さて、次話(011-第10話)ですが、10/30(月)の午前7時半頃に投稿いたします。
また、次話含め、今回以降は基本的に毎週<月曜日>と<金曜日or土曜日> に投稿していく予定です。(週2回更新)
今後とも、今作をどうぞよろしくお願い致します。
では、3日後、更新予定の次話にてお会いしましょう。
これからも皆さんに良きノベルズライフがありますように。
お疲れさまでした。
<(† ̄ω ̄Τ)Κ <デハデハ>




