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悪役令嬢シリーズ

悪役令嬢の孫姫の日常は意外と大変です。

作者: 入江 涼子

フォルド王国で私は生まれた。母と父は仲睦まじいけど見る側にとっては少し目のやり場に困る事がある。祖父母も健在で仲の良い夫婦だ。

今日も私はある意味大変な一日を送っている。




「マリーナ。今日は父様にもクッキーを作っておくれ」

「…わかりました。父様にも作ります」

仕方なく答えた。私は名をマリーナという。父ことフォルド国国王のユークリッドの娘で第一王女になる。といっても私以外に王女はおらず、父の溺愛ぶりは目に余るものがあった。母の王妃、シェイラ妃は私の事を厳しくも優しく接してくれている。

「マリーナ。最近は父様にかまってくれなくなったな。寂しいぞ」

「いつも、父様は母様と一緒にいるではありませんか。それでは満足できないのですか?」

「できない。わたしには娘はお前一人だけだから余計にな」

ふうと私はため息をついた。決して私はファザコンではない。なのにこっちが注意しても父はなかなかあきらめてはくれなかった。隙があれば、こうしてかまってと言ってくる。あんたは子供かと私もいいたくなるのだから強敵といえた。

「では、父様。お願いがあります」

「何だ。言ってみなさい」

「はっきりいって十八にもなった娘に対して一緒に寝ようとか手を繋いで散歩しようとか何を考えているんです。母様に言ったら呆れてましたよ。私にしても迷惑ですしうざいです」

そこまで言うと父は驚きで固まってしまった。しまった、言い過ぎたか。そう思ったがすっきりとはしていた。

「…マリーナ。そんな風に思っていたのか。わかった、これからはしない。約束する」

父はそう言うとすまないと謝って執務に戻っていってしまった。私は狐につままれたような感じで見送ったのだった。




あれから、一週間が経ち私に縁談がきたと侍女のイリナが知らせてきた。とうとう、私にも婚約者ができる。そう思いながら相手は誰かと尋ねた。

「えっと。それがフィーラ公爵家のアロンソ様です。イルジア様の兄君ですね」

「え。手近すぎるじゃない。父様も何を考えているのかしら」つい、言い過ぎてしまう。けど、そう言わずにはいられない。何でこうなった?!

私は気がつくと椅子から立ち上がっていた。イリナになだめられながらも兄たちのいる王子用の執務室に向かう。アロンソ様に会いにいくためだ。とりあえず、本人に確認はしておこう。そう思ったのだった。



「おや。これはマリーナ殿下ではないですか」

穏やかな表情でアロンソ様が出迎えてくれた。薄い茶色の髪と綺麗な青の瞳の真面目そうな方だ。まあ、実際そうなのだけど。真面目で誠実、温厚なアロンソ様は王宮の女性方には大人気なのだが。何故か、ご本人は興味を全く示さない。そこが不思議ではあった。

「あ、はい。こんにちはアロンソ様」

ここは王子用の執務室だから二人の兄と弟もいる。ユーリウスとシメオン、フィックスの三人が私の兄弟たちの名前だ。

「殿下。こちらに来られるとは何かありましたか?」

アロンソ様に尋ねられて私は答えに困った。「…その。先ほど、侍女のイリナにきいたのですけど。何でも私とアロンソ様との縁談が出たとかで。それでこちらに来たのです」

「ああ。その事でしたか。確かに我が家にも打診はありました」

やはり、アロンソ様も知っていたらしい。私は深いため息をついた。

「そうでしたか。まったく父様は何を考えているんだか。今から文句を言いに行ってきます」「まあまあ。そうお怒りにならずとも。陛下は国外に殿下を出したくないとおっしゃっていました。だから、俺が選ばれたんでしょうね」

「あの。アロンソ様は嫌ではないのですか?」

「何をですか」

アロンソ様は不思議そうな表情をした。私は躊躇いながらも口にした。

「私と婚約するのがです。無理に決められたわけですから」

「…そんな風には思っていませんよ。むしろ、昔から気心の知れたあなたが相手ですから。嫌だと言うわけがないでしょう」

私はそこまで聞いて顔が熱くなるのがわかった。真っ赤になっているのが自分でも想像できる。

「それは本当ですか?」

「本当ですよ。殿下はどうなのですか?」

「…アロンソ様が相手だったら嫌な気はしません。けど、手近なところで済ませようとしていたのが気に入らなくて」

「そうだったんですか。まあ、俺も陛下の提案には呆れましたが。けど、殿下を守るには国内の貴族に嫁がせるのがいいと思われたのでしょう」

アロンソ様が簡単に説明をしてくれて単純に怒っていた自分が恥ずかしくなった。そうか、私を守るためだったのか。

「…なら、仕方ないですね。父様に文句を言いに行くのはやめにします」

苦笑しながら言うと咳払いが聞こえた。振り向くと兄たちが居心地の悪そうな表情でこちらを見ている。

「あーその。いいか。マリーナ、アロンソ。イチャイチャするんだったら外でやってくれないか?」

まずそう言ったのは長兄のユーリウスだった。

「そうそう。さすがに僕も目のやり場に困るんだけどね。二人とも良い雰囲気だし」

次が次兄のシメオンだ。最後に弟のフィックスも頷きながら言った。

「まあ。アロンソ兄さんが相手だったら反対はしませんが。姉上、兄さんと話したいんだったら庭園に行かれては?」

フィックスにまで言われて私はいたたまれなくなって失礼しますと告げて執務室を出ようとした。けど、アロンソ様に止められた。

「殿下お一人で出ていかれなくても良いんですよ。お部屋までお送りします」

「ありがとうございます」お礼を言って生暖かい視線を送る兄たちを置いてアロンソ様と二人で執務室を出たのだった。


二人で廊下を通って庭園に出た。ここはあまり、人目につかない場所だ。アロンソ様と私がいても問題にならない。

「さて。ここだったら人はいませんし。殿下とゆっくり話ができますね。婚約を承諾していただけますか?」

割と直球で言われて私はひいていた熱がまた顔に集まるのがわかった。アロンソ様は真剣な目でこちらを見つめている。

「…そうですね。アロンソ様とは幼い頃からの付き合いですし。承諾はします」

「そうですか。そう言っていただけると俺も安心できます。殿下が国外に嫁がれるとこちらとしても都合が悪いですから」

「どうして都合が悪いのですか。私が他国の王族に嫁げば、父様にとっても得になります。外交上でも有利に働くのでは?」

私が反論するとアロンソ様はあなたはわかっていないと呆れられてしまった。

「殿下。陛下はあなたを隣国だったらまだしも遠い異国に嫁がせるのはさすがに嫌だとおっしゃっていました。北方のシベルニアをご存知でしょう。あちらの王族方は特にひどいですよ。女性をまず人として見ていない。妻とした人を平気で娼館に売る輩もいると聞きますから」

「まあ。さすがにそこまでは知りませんでした。だから、父様は私を他国に嫁がせるのに難色を示していたのですね」

アロンソ様はその通りですと頷いた。政略結婚だったら普通は平気で嫁がせる。けど、父は私の立場などを考えた上で反対してくれていたらしい。少しは父を見直したのだった。



その後、アロンソ様は言った通り部屋まで私を送ってくれた。お礼を言って入るとイリナが心配そうにこちらを見ていた。

「姫様。結局、陛下に文句を言いに行かれたのですか?」

「行ってないわ。その代わり、アロンソ様に婚約を承諾しますとは言ったの。そしたら、他国に嫁ぐのは都合が悪いと言われたわね」

「はあ。そうですか。都合が悪いと」

イリナはぴんとこないのかあやふやな返事をした。私は簡単にアロンソ様に教えてもらったことを説明する。そしたら、イリナは体を震えさせながら言った。

「それは父から聞いています。シベルニアや西方の国ではそのような風習があるとか。恐ろしい所業ですわ」

「イリナは知っていたのね。私も恐ろしいとは思うわ」

二人して頷きあったのだった。


そうして、イリナと話をしてから私は卒業した学園で出来た友人からの手紙を読んでいた。まず、長兄のユーリウスの婚約者のイルジア嬢ともう一人は侯爵家のご令嬢で名をジェシカという。二人は親友で休みになったりした時も手紙のやりとりをしていた。イルジア嬢は私よりも五歳上だけど親しくしてくれている。ジェシカは初めてできた親戚以外の友達だ。アロンソ様は私とは又従兄弟(またいとこ)になるしイルジア嬢もそれにあたる。ジェシカは筆まめで二、三日に一度は手紙を送ってくれていた。

<マリーナへ

お元気ですか?学園を卒業してからはめったに会えなくなりましたね。

兄君のユーリウス様とはよくお会いするのですけど。あなたとは気軽にお話が今まではできていたから余計に今は寂しく思っています。それでも、手紙のお返事はいただいているからそんなに心配はしていないのですけどね。あたくしも領地に戻ってからは暇な日々を送っています。早くマリーナや王妃様、ジェシカさんに会いたいわ。では、体調には気をつけてくださいね。敬愛する親友へ

イルジア>

そうイルジア嬢からの手紙には書いてあった。現在、イルジア嬢は体調を崩して領地にて静養している。何故かというと二ヶ月ほど前の夜会の時に長兄のユーリウスが他国の刺客に襲撃された事があった。

もちろん、アロンソ様や長兄、護衛の騎士たちは応戦していた。それにより、刺客は捕まり事なきを得たはずだった。が、長兄を狙ったのに任務を果たせなかった刺客は悪あがきを起こしたのだ。短刀を投げて長兄に一矢報いようとした。それをイルジア嬢は自らの体で以て庇った。右肩に短刀が深く刺さり彼女は大怪我を負ったのだった。

すぐに長兄と医師により治療は施されたが。それでも、彼女は生死の境をさ迷う一晩を過ごした。心配したご両親と共にイルジア嬢は安全な領地にて療養をしているのだった。

ジェシカはさすがに大怪我はしていないけど。それでも、イルジア嬢を心配していた。

さて、次にジェシカの手紙を読んでみた。

<マリーナへ

もう会わなくなって三ヶ月が過ぎましたね。私は元気にしています。マリーナも体調を崩したりしていませんか?

あなたは時々、無茶をするから心配です。イルジア様の事もよかったら教えてくださいね。大怪我をなさっているから毎日の生活が大変だと思います。

マリーナも十分に注意をしてください。では、体に気をつけてお過ごしください。

ジェシカ>

そう書かれていて私は早速に返事をしようと決めた。羽根ペンを手に取り二人にそれぞれ書いたのだった。



一週間が経ってアロンソ様と正式に婚約をした。婚約式をしてから書類を提出した。アロンソ様はそれからは私の部屋に遊びに来るようになる。

あんまり入り浸りすぎて兄たちに怒られる時もあるが。私はそれなりに楽しんでいた。アロンソ様のお話は正直面白い。為にもなる。一人で思い出し笑いをするのだった。

おわり

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[気になる点] >イルジア嬢は私よりも五歳上だけど親しくしてくれている これはマリーナ視点のモノローグなので、イルジアがマリーナの五歳上ということになりますね。 しかし、1つ前の話では、イルジアがア…
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