サプライズもほどほどに
俺は今友人の愚痴を聞かされている。
長い春を経てようやくプロポーズしたのだが、計画したサプライズが逆効果になってしまったのだ。
婚約同然の間柄なのになかなか結婚に踏み出せないでいた友人が、恋人にプロポーズする決心をしてサプライズを計画した。
別れ話で驚かせてからプロポーズ、仲直りしてラブラブに至るというストーリーで、落ち込ませてからワッと盛り上げようというのだ。
俺は悪趣味だから止めろと言ったのだが、友人はサプライズを実行した。
彼女の答えは友人の頬に残った手形の跡が雄弁に語っている。
何度も繰り返される友人の愚痴を聞かされる羽目になった俺は、せっかくの休日をこんな鬱男に付き合わされて、こいつの友達でいるのを止めようかと真剣に考えている。
元々、彼の恋人は堅実なタイプで派手な演出のサプライズ等は好きでは無かった。
クリスマスなんかも豪華なホテルで派手に祝うよりも、手料理を作って二人きりで過ごす方が好みなのだそうだ。
余ったお金が有れば困っている人達のために寄付した方が良いと常日頃口にしていた。
しかし、友人は彼女が遠慮していると思い込んで相変わらず派手なサプライズを繰り返していた。
「完璧な人なんていないし、私にも欠点はあるんだから彼の欠点も許すことは出来るわ。」
好みからハズレまくったサプライズを経験するたびに、彼女は苦笑いと共に呟いた。
派手好きな友人と外見以外は割りと地味目の恋人だったが、それ以外では結構気が合っていてなかなか好いカップルだったはずだ。
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その日、友人は大切な話があると言って恋人を人気のレストランに呼び出した。
少し早めにやって来て予約されたテーブルに着いた彼女は期待に胸を膨らませて友人を待った。彼女はレストランのドアが開く度に入り口を振り返って友人の姿を探した。
ようやく現れた友人の姿を見つけて笑顔で立ち上がったその時、その傍らに見知らぬ女性の姿があった。
いぶかしげに彼と連れの女性を見る恋人に友人は申し訳なさそうな表情で、新しい恋人が出来たから別れて欲しいと告げたのだ。
突然の別れ話に彼女は目の前が真っ暗になって立ち尽した。
驚きと悲しみに顔を歪ませた彼女を見て、成功を確信した友人は嬉しそうにおどけた感じで一言。
「嘘だよー。」
それからおもむろに指輪を取り出して彼女の前に跪きプロポーズした。レストランの従業員まで出てきて紙ふぶきを撒き散らしながら大いに盛り上げたつもりだった。
呆然としたまま彼を見つめていた彼女は、心の中にあった暖かい何かが急に冷めていくのを感じていた。代わりに怒りがふつふつと湧き上がってくる。
思いもよらない別れ話に胸が締め付けられて今にも泣き出しそうな彼女の顔を見て、彼は嬉しそうに笑ったのだ。サプライズの為にこんなことをしたの・・・・信じられない。
両手で指輪を差し出した友人が見上げると、怒りに腕を振り上げる恋人の姿があった。
しばらくして、なぜ彼女が怒ってるのか解らない友人は顔に手形をつけたままひたすら謝った。
彼を氷のような視線で睨む彼女はそばにあったフォークを指差した。
「これで自分の腕を突き刺してごらんなさい」
もちろん、救急車を呼んで直ぐに治療してもらうし、怪我した腕が使えない間は付きっ切りで世話をしてあげると付け加えた。
「やだよ。そんなの痛いし、下手をすると傷跡が残るかもしれないじゃないか。」
怖気づいて嫌がる彼を彼女は涙を浮かべながらなじった。
「自分の腕を傷つけることを嫌がる人が、私の心は平気で傷つけるのね。
恋人に裏切られた私がどんな気持ちになるか考えてみなかったの?
あなたは私をこれ以上無いくらい傷つけたのよ。それとも心の傷は目に見えないから、いくら傷つけてもかまわないと言いたいの?」
一筋の涙が彼女の頬をつたった。
「あなたに傷つけられた私の心は死んでしまったみたい。・・・もうあなたのことを以前のように好きになれないの。
いまさら嘘だったと言われても、全然愛情が湧き上がってこないのよ。」
とめどなく流れ始めた涙に声を詰まらせながら、彼女は最後の言葉を友人に伝えた。
「愛してると言いながら平気で相手を傷つけて笑えるような人と、一緒に暮らすことは出来ないわ。」
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サプライズは相手を喜ばせるために驚かすのが本来のあり方だったのに、相手を傷つけても後でフォローすれば良いというふうに考えるようになったらもうお終いだ。
サプライズの効果ばかりを考えて、恋人への思いやりを忘れてしまった友人は大切なものを失ってしまった。
彼には同情する。しかし、自業自得だとも思う。
俺は忠告したはずだ、悪趣味なサプライズなんかやるなと。
友人は同情して欲しいのだろう、延々と愚痴や言い訳を繰り返している。
俺を呼び出したのは恋人の怒りを解き、仲直りする方法を話し合うためではなかったのか。
彼女の電話から殆ど可能性が無いことは判っていたのだが、彼が本当に反省して仲直りしたいなら出来るだけ協力する気でいたのに。
友人は、ブラック企業に勤める俺の貴重な休日を台無しにしているのに気づきもしない。
彼はそのうち友達も失うことになりそうだ。
別の話が煮詰まって動かなくなったので気分転換に書いてみました。
テレビなんかで時々みるんですが、サプライズされてみんな喜んでるんだろうか。疑問。
1月20日大幅に加筆修正しました。




