異世界にて誕生の巻
とても眠たい‥‥。
どこだここは?辺りを見渡そうにも身体に力がはいらない。なんだか水中にいるような感覚だ。落下してるのか上昇してるのか、どっちが上か下かもわからない‥‥。
朦朧とした意識の中、会社でブチ切れた時の事を後悔していた。
あぁ、あの時すぐ謝ってればなぁ。明日頭下げたら復帰させてもらえるかなぁ?と、後悔の波に打ちひしがれていると、辺りが光に満ちていく感覚がした。
身体に力が入らないのか、なかなか目が開かないがなんとかうっすらと目を開くとそこには、見たこともないおっさんが自分を両腕で持ち上げている姿が飛び込んできた。
「(どちらさまですか?)」
声が出ない。
眠い‥‥。
俺は先ほどからの眠さに我慢ができずおっさんに抱かれながらそのまま眠りについた。
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半蔵と楓は婚姻して、今年で10年目を迎える。
楓が病弱であったこともあり、いまだに子供ができないままであった。
しかし、今日は念願の子供が誕生した記念すべき日であった。半蔵にとって初めての子供。立会いだけにとどまらず、なんと自分が取り上げると言い出す始末。村の助産婦さんに止められ、楓の手を力強く握る半蔵。楓も半蔵の手を力強く握り返す。
ふっと、楓の手から力が抜ける。
助産婦が段取り良く生まれたばかりの赤ん坊を取り上げ産湯で洗う。それを見ていた半蔵は、楓の手を離し、我先にと言わんばかりに助産婦の方へと駆け寄り、赤ん坊を抱き上げた。
「よく生まれてきてくれたな、我が息子よ。」
半蔵はとても嬉しそうに我が子を見つめる。
「お?見ろ楓。今目があったぞ。」
「産まれたばかりの子が目を開けれるはずありませんよ。ふふふ」
「そ、そうか‥。気のせいか。」
この時に誕生した子が、後の世に大きな影響を与えることをこの2人は知る由もなかった。
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どれくらい眠っていたのだろうか?
俺は意識を取り戻したがどうにも身体の自由がきかない。痛みはないが何かで拘束されているように身動きができない。ほんの少し開く目には古家の天井が映っている。周りからは聞きなれない話し声。しばらく様子を見るか‥。
それから数日が経過した頃、俺はようやく自分が置かれている現状を理解することができた。どうも俺は赤ん坊の姿になってしまっているようだ。
薬を飲まされ、気づいたら身体が赤ん坊。どっかで聞いたフレーズだな。
見た目は赤ん坊、頭脳は大人。動けないし喋れないので推理どころではないのである。
特にできることがないので、今までのことを記憶を遡って整理してみた。
仕事はクビになったな‥‥。
次の日にハロワに‥はまだ行ってないな。
先にお祖父ちゃんの家に来て、蔵に入った。
よしよし、記憶は鮮明だ。
蔵で巻物を見つけたんだよな。たしか、転生の書【下】だったかな?
ん?転生?
まさか‥身体が小さくなったとかではなく転生?生まれ変わったってことか?ということは、俺はあの蔵で死んでしまって、別の夫婦の子供に生まれ変わったということか。
なるほど。それなら、不自由な身体も聞きなれない言葉も辻褄が合うな。そして、ここは俺のいた時代より先の未来?いや、周りを見るからに近未来的なというより過去の時代な気もするなぁ。過去に転生したということか‥。
父さん母さん、さくら、親孝行もしないまま別の人生を歩む俺をどうか許してくれ。
そうして、新たな身体を手にしてから3年の月日が流れた。
区切りがいいので短めですいませんm(_ _)m