異世界へ転生-当日-の巻
翌朝、下の階でバタバタと忙しなく鳴る足音で目が覚める。いつもならそのまま起き上がり出社の準備を始めるのだが、今日の俺は一味違うぜ。なんせ誰もが憧れる夢の職業NEETに転職したのだ。なので、もう一眠りだ。と思って恋しい布団に潜り込んだのだが
「おにーちゃん起きてるー?」
妹の声で冷たい現実に引き戻される。
「お母さんが降りてこいって呼んでるよー。」
俺は渋々、愛しの布団ちゃんに別れを告げ、下の階にいる母親の元へ。
「忍、あんた今日ハローワーク行くんでしょ?帰りついでにお祖父ちゃんとこ行ってきてくれない?先週蔵の整理手伝って欲しいって言われてたんだけど、母さん忙しくて行けてないの。よろしくね。」
俺の家がある場所は、見た目は田舎。中身は、都会まで車で30分、近くの駅には特急電車が止まる。近所には大型スーパーやコンビニもある。都会と田舎の中間くらいに位置する特に不便を感じさせない好立地な一軒家だ。
ハローワークは都会方面、お祖父ちゃんの家は田舎方面‥‥。ついでにしては方向が真逆なのだが、特に予定もないので俺は快く引き受けた。
時間はちょうど正午のサイレンが鳴り響く中、俺はお祖父ちゃんの家の庭先にいた。先にこっちの用事を済ませて、ゆっくり職探しをするつもりだ。
「じーじー?いるー?」
先ほどから何回呼んでも返事がないので、勝手にお邪魔することにした。
田舎の人は物騒だよなー。玄関鍵空いてるし、っていうか誰もいないし‥‥。蔵の方かな?と思い、一度玄関に戻り家の裏手にある無駄に立派な蔵と歩いていく。
蔵にはいつもごっつい南京錠がいくつも掛けられているはずだったが、今日に限ってはすべてはずされ、大きな木製の扉が口を開いていた。
まったく人の気配がしない。こんな状況あんまり好きじゃないけどなんかワクワクするんだよね。なんて思いながら少し蔵の中を覗きながらじーじを探す。
日中なのに中は冷んやりと薄暗く、奥まではよく見えない。恐る恐る中へと入り辺りを見渡す。蔵の中には色んな物が置いてある。鬼の仮面をした鎧兜、人が2.3人入れそうなデカイ壺、山のように積まれた巻物。などなど、売れば結構な財産になるんじゃないだろうかと思うような物で溢れかえっている。そんな蔵の最奥に古い机と椅子が置いてあった。机の上には30センチ程の開かれた巻物と、まだ開かれてない巻物が置いてある。
開かれた巻物にはなにも書いていない。白紙である。今からなんか書くのかな?てか、じーじ自分で巻物作ってじゃね?とか思ってしまった。
閉じられた巻物を手に取りよく見ると、「転生の書【下】」と書かれてある古紙で封がしてあった。なんか胡散臭さがプンプンである。
開けちゃうか?値打ち下がるかなぁ?まぁどうせじーじが書いたやつだろう。などと見当はずれなことを考えていた俺は、この選択が人生の分岐点になることなど知る由もなかった。
封印の古紙をぺりぺりと剥がし、机の上に転生の書を広げる。中には何語かよくわからない文字がびっしりと書かれていた。その文字の真ん中、ちょうど巻物を広げた中央辺りには文字ではなく実寸大くらいの右掌の絵が描かれている。
ちょうど俺と同じくらいの大きさの掌だなぁ。と思い絵に自分の掌を合わせてみた。
と、その瞬間
ビッシリ書かれていた文字が中央の絵に渦を巻くようにあつまりだした。びっくりして、手を離そうとするが離れない‥‥。
「ちょっ‥‥え?ぇ?えぇぇ!?」
俺の右手が巻物に吸い込まれている。正確には巻物は開いたままでピクリとも動いていないので、吸い込んでいるのは絵の方なのだが、そんなことを考えている暇もなく俺はほんの数秒で全身丸ごと巻物に吸い込まれた。
そこで俺は意識を失った。
次回より異世界の話になると思います。