異世界への旅立ち-前日-の巻
男の子なら誰しも一度は憧れる職業、それは"忍者"。
俺も生まれが違ったら、名前が違ったらそうだったかもしれない‥‥。
俺の名前は甲賀忍(dddこうがしのぶ)。
父方の性が"甲賀"なのは仕方ない‥‥。
かと言っdて、息子の名前に"忍"とかつけちゃうだもんなぁ〜、そりゃ子供の頃はよくいじめられたもんだ。
『甲賀忍という者だ、略して甲賀忍者だ。ニンニン』とか、"分身の術"使えだとか、『今のは"変わり身の術"で避けるところだろー』と言って急にどついてくるやつとか、伊賀の里に許嫁がいるとか、いるわけねぇだろ。どこのアニメ影響だちくしょー。
と、俺が忍者嫌いになるには十分すぎる過去があるのだ。親になんでこんな名前付けたんだと聞いたことがあったが、『かっこいいじゃん』だそうだ‥‥。ちなみに5つ下の妹の名前は"さくら"‥‥‥普通だ‥。
そんな俺も今年で三十路を迎えるわけだが、噂の許嫁はまだ現れていない‥。30って言ったらそろそろ焦りを感じる頃じゃないか未来の嫁よ。と、彼女いない歴=年齢の俺が言うのもおかしいがな。
そして今俺は、かっこいい名前をつけてくれた親父の前で正座中である。なにかというと、昨日5年間勤めた会社をクビになったのだ。クビと言うかこっちから辞めてやった?みたいなノリでいるわけだが、親にしてみたらこれからどうするんだ?的な感じなのだろう。
辞めた理由も、しつこく『忍者、おい忍者』と俺を呼ぶ上司のうざさにカッとなって強烈なローキックを上司に‥ではなく自分のデスクに一発。『やってやれるか、こんな会社』を捨て台詞に早退。翌日、解雇通知とともに自主退社申請書やら凹ましたデスクの修理代請求書やらが届けられた。俺が出社するよりも早くに‥‥。
辞めるつもりはなかった、などと今更言うことも出来ず、怒鳴りつける親父のズボンの裾に収まりきらないスネ毛を見つめる。
「聞いてるのか?」
「ああ、聞いてるよ」
「これからどうするんだ?」
「どうするもなにも、明日からハロワ行って就職先探すつもり」
「お前なぁ、このご時世そんなに簡単に仕事が見つかると思うなよ。資格とか手に職持ってるならいいが、お前はなにもないんだろ?前の会社だって父さんが口聞いてやったから‥」
「わかってるよ。そんなこと言われなくても十分感謝してるし、これからのこともしっかり考えてるつもりだから‥‥。」
自分でも理解してることをグチグチと言われるのはこれ以上ごめんだ。とばかりに痺れる足に耐えながら俺は親父の言葉を背に部屋を出て、自室に戻り不貞寝した。
とりあえず明日ハロワに行ってみるか。