元さや
いよっしゃあああああああああああ!
やっと冥府にワープ完了よ!
すると、アタシの目の前にも、黄土色のくっさい霧を透して、巨大な建物の影が見えるわ。
あそこに、主人公(仮名)ちゃんが収容されているのね!
ダッシュで建物に向かうアタシ。
すると、門番みたいな人たちが、アタシを捕まえようとするの。
当然アタシは、逆に怒鳴りつけてやったわ。
「アタシは、オリュンポスの(B級だけど)神サマのひとり、タレイアよ!
ここの責任者を出してちょうだい!」
門番たちは、あからさまにさげすむような目つきでアタシを見たわ。
「なんだコイツ?
キ〇ガイじゃねーか」
「メンドクセーから、このまま川に捨てちまうか」
がっし、と男たちの大きな手が、アタシの肩をつかんだわ。
その瞬間、アタシの体が、なんと蛍光灯のように
ビカ―――――――――――――――――――ッ!
と光ったの。
つか、光らせたのよ!
アタシだって神のはしくれだから、この程度のお遊びは簡単なことよ!
おおっ、とどんびきする門番に、アタシは一気にたたみかけたわ。
「アタシは神よ!(←我ながら、スゲー言い草)
あんたらの責任者を出しなさいよ、CEOとか、大統領とか、総理大臣とか、総統とか、書記長とかをね!」
門番は、アタシの権威におびえつつ、イヤイヤするように頭を振っているわ。
「すんませんっ……!
オレたちには、指導者はいないんです。
みんな平等なんで」
「はぁ?
そんなんで組織なんか運営できるわけないでしょぉ?
意見が分かれた時なんかどうすんのよ」
「みんなでじっくり討論すれば、やがて一つの一番いい意見に収斂されるんです。
それがオレたちの唯一の方法です」
「そんなの、全員が同じ人間でもない限り、意見の相違が埋まらない問題なんかいくらでも出てくるわよ?
知性の差なんかどうするのかしら?」
「そういうときは、徹底的に情報を分かち合って、全員が理解するまで教え合うわけです。
まさにそれが、平等ということなんです。
作業や食事だけでなく、知識や観念も同じように、等しく分かち合うのです」
「学校とか、ここみたいにシビアな時間観念のない臨死モラトリアムだから、やってられんでしょ、そんなの。
時間だけは、ありあまってんでしょうからね。
それにしたって、利口者が知恵の足りない者を、解説の名のもとに、洗脳している可能性のほうが大きそうだけど」
「とにかく、オレたちは誰の命令も受けないし、誰にも命令しない。
つまり、われわれは全員が現場で労働しているプロレタリアートであり、ブルジョワジーは存在しないんですよ」
「もう! プロパガンダは結構よ。
とにかく、アンタらみたいな冥府のぽっと出じゃなくて、もっと年季の入った奴はいないわけ?」
「だったら、受付のジーさんだよな」
「そうか、あのジジイ、かなり昔から、ここにいたらしいし」
門番たちは、ごそごそと相談を始めたわ。
失礼しましたあ、と詫びる門番に、門の中へ入れてもらったアタシは、意外な人物を目にしたわ。
ごつごつした禿げ頭、不機嫌そうな顔、しなびつつある老いた肉体……いかにも、底意地悪そうなおじいさん。
「カローン!」
その老人は、かつて冥府の前に横たわる大河の渡し守だった男なのよ!
ぶらぶらと作業場に戻った脇役(仮名)ちゃんは、忙しげに行き来している人たちを尻目に、適当な工具がないかとあたりを物色し始めたわ。
早速発見したペンチやら、くぎ抜きやらを、ささっと自分の服の下に隠したわ。
と、そこへイケメン(仮名)くんがやってきたの。
「おい! なにやってんだよ。こんなとこでも万引きかよ」
憎たらし気に、脇役(仮名)ちゃんは口答え。
「うっせんだよ。
主人公(仮名)助けんだから、ジャマすんな。
オメーの知ったこっちゃねーだろ」
「水クセーこと言うなよ。
オレが一緒にいるのがイヤなのかよ」
「あー、そーだよ。
うざってーから、どっか行け」
「なんでだよ?
オメーのダチから聞いたぞ。
ニンシンしてるんだって?
だったらなおさら、オレが助けてやりてーんだよ」
「あ?
ニンシンしてっから、なんだってんだよ。
ビビんなくても、オメーのガキじゃねーよ」
「ガチで言ってんのか?」
「あー、ガチでな。
ここだけのハナシ、デリヘルやってたんだよ、こないだまで。
そん時、何回かアブねーって思った時があって、だから、そんときの客のガキだと思うんだよ」
「オメー、まだデリやってたのか……『ちびくろサンタ』(注1)はやめたっつってたろ!」
「店はやめたけどよ……そん時の客を直引き(注2)してたんだわ。
『オラオラぴえろ』とかでな……あそこ安いし、割チケ(注3)いっぱい持ってたし」
「なんでそんなカネが要るんだよ!」
「借金だよ!
もとはと言えば、オメーのせいだからな!
シャンペンタワー(注4)とか、ドンだけかかったと思ってんだよ、オメーをNo1(注5)にするためによ!
全部払い終わるには、フーゾクしかねーだろ!」
「じゃあ、こないだまで、オレと超いい感じだったのはなんだったんだ? おぉん?」
「まだニンシンしてるって知らんかったかんな……。
でも、こないだケンカした後に、わかっちまった。
なら、もうオメーとは会わねーほうがいーだろーが。
オヤジのわかんねーガキを押し付けるのも悪りーし、ガキを堕ろすのもあんまりだからよぉ……。
それに、うち、カーちゃんと姉貴いるし、妹も弟もいるから、一人くらいガキ増えても誰かがゼッテー面倒見てくれっから、余裕だし」
その時、イケメン(仮名)くんは、ふてくされたようすの脇役(仮名)ちゃんのほっぺたを平手打ちしたわ!
「なっ? なにすんだ? テメェ、ゴルァア?」
「バカだな、オメーは……
オレはオメーの何だ?
カレシだろーが!
だったら、困った時こそ、オレを頼れよ!
オレだったら、ゼッテーオメーを不幸にしねー!
それによ、オンナに頼られねーオトコは、ガチで不幸なんだぜ?
オメーはオレを、不幸にして―のかよ?」
「イ、イケメン(仮名)……
うち……うち、間違ってた……」
がっしり抱き合う二人。
あ~あ、くっせぇ~~~~~!!!
しかし、こんな寸劇をやっている間に、当然、二人は怪しすぎると発覚、主人公(仮名)ちゃんの閉じ込められている雑居房へと、連行されちゃったのよね。
ちょっとメルポメネーのまねして、注釈をつけてみましょうかね!
注1 「黒ギャル専門ヘルス ちびくろサンタ」のこと。流行が過ぎ去ったとはいえ、地味に人気のある黒ギャルばかりのお店よ。
注2 お店を通さずに、直接、お客と売買春することね。店にばれたら、すごく怒られるし、危険でもあるわね。
注3 駅前のホテルだと、特に利用してなくても割引チケットをもらうことがあるわね。
注4 一回当たり、100万円くらいかかるらしいわ。下手にホストに入れ込んだら、とんでもない額の借金を背負うことがあるから、要注意よ。
注5 結局、イケメン(仮名)くんは、なれなかったみたいね。