なぜだか、キースズ
アタシたちはアポローンさんの道具。
忠実な家臣。
それゆえに、頼りにされても、好き嫌いのような感情は与えられないのよ。
メルポメネー、あんたは、そんなこともわからないの?
無邪気なエラトーのように。
それとも、謙虚なカリオペー大姉さんのように、道具として愛でられているだけで満ち足りることができるの?
子供や家庭に生きがいを見出した、家庭的なクレイオー大姉でも目指すの?
確かに、あんたはセイレーンを生んだものね。
楽天家のエウテルペー姉みたいに、いつかきっとと待ち続けるの?
あるいは、自分の仕事だけに誇りを持っているお堅いポリュムニアーのように、アポローンさんの思惑など一切関知せずに、いられるの?
故なき情熱に燃えているテルプシコラーさながらに、常にアプローチすることが、手段から目的になってしまったの?
哀れなウーラニアーみたいに、じぶんの気持ちにも、仕事にも欺瞞に欺瞞を重ねた結果、正気を失ってしまったの?
じゃあ、アタシは?
……アタシは、どうするつもりなのかしら?
って、な~にマジメになってんのよぉ!
あたしは、道化よ!
気まま、目立ちたがり屋、ひねくれもの、おっちょこちょい、自己中、いいかげん、節操なし、無責任、愚か、落ちこぼれ……それが、アタシ。
だーから、アポローンさんに迷惑かけたって、屁とも思っちゃいないわ!
ホーホホホ!
それはともかく、アタシの掟を破ったメルポメネーにはキッツイ仕置きが必要のようね。
こいつ、またしてもアタシのテコ入れタイミングを外したりして!
いくらアタシらが神とはいえ、一度起こってしまったことを簡単に変えることはできないんだからね!
とりあえず、主人公(仮名)ちゃんは、集まった中では、割と仲がいいほうだった中学時代のお友達、キースズ(女子)に話しかけたわ。
「おっ。
キースズ、元気?
ひさしぶり~」
「およ。
お久ひさ。
脇役(仮名)さんは、どこなのさ?
まだ来てないけどさ」
「それが、一番早く来るはずだったのに、来てないの。
なーぜだか」
「なーぜだか」
二人は、独特のイントネーションで「なぜだか」と発音してから、顔を見合わせて、
「「んひひひ」」
と笑ったわ。
主人公(仮名)ちゃんは、申し訳なさそうに、大きな体を折りたたむように、キースズに手を合わせてお願いよ。
「ごーめ!
ちょっとわたし、急用で、すこしだけ、席はずすから!
その間さぁ、親水広場まで移動しててくんない?」
当然、キースズはびっくりするとか、いやがるとか。
「えー。
やだやだ。
あたし、ここの人たちほとんど知らないし。
しゃべったことないし。
主人公(仮名)は、幹事だし。
困るし」
「ほんと、ごめ!
わたしも、困ってんだよね。
でも、なんとしても脇役(仮名)を連れてこないとダメなんだよ!
頼みまするぅ~」
「もー。
すぐ帰ってきてよ。
でないと、アタシも帰るよ。
早くしてよ」
そして、主人公(仮名)ちゃんは、すぐ近くにいたもう一人の知り合い、高校時代の同級生、山田さんに声をかけたわ。
「久しぶり、山田さん!
悪いんだけど、ちょっと荷物を持っててくれないかなぁ?」
「あー、あんまり変わらないねー!
どう? 今年こそ、どっか受かった?」
「え? あ? う、うん。
ぼちぼちね。
まあ、どこかは後で、教えるよ。
で、ちょっとこの荷物持っててくれるかな? お願いだから。
中身、お料理だから、ちょっと重いかも」
何とかまとめ役と荷物を、他人に託して、主人公(仮名)ちゃんは、ガベジくんに連絡したの。
「どーゆーこと?
脇役(仮名)来てないけど?
あと、その元カレも!」
『むん……そんなこと言われても……実は、すぐ近くまで来てるんだ。合流して、対策を練ったほうがいい。と思う』
連休中、近所のスーパー行ったら、お客さんがあんまりいなかったわね……。みんないったいどこから来て、どこに帰ってるのかしら。まったく、不思議な現象よ、帰省ラッシュだとかいうものはね。
ところで、次回の主人公(仮名)ちゃんは、どーなっちゃうのかしらね……?