ナイスなアイデア
ところかまわず、大声で泣きわめくメルポメネーに、アタシは血相を変えて詰め寄ったわ。
だって、この部屋は、寝床でほとんど占有されていて、二人だと体を動かす余地もあんまりないのよ?
うるさいったらありゃしない!
なにより、他の客が騒音に怒って、文句を言っているし、このままだと、暴徒にリンチされちゃうわ!
「静かにしなさい! お姉ちゃん、本気で怒るからね?」
ブチギレ寸前で迫ると、メルポメネーはしれっと泣き止んだわ。
ちょっと気まずそうに、アタシから目をそらすの。
「なんで、人のジャマするの?
お姉ちゃんの作品にイタズラすることは、死を意味する! と何度も言ってるでしょお?
あんた、地獄にぶち込まれたいわけ?」
「でも、お姉さまだっていけないんですのよ。
アポローン様の言いつけをお守りにならないから……。
なかなかお姉さまが、目を覚ましてくださらないから、退屈シノギに、つい、お姉さまの作品を鑑賞しただけですわ」
ちっ……言い逃ればっかりうまくて、イヤになっちゃうわ。
普段、マジメぶってるから、周りの奴はあっさり騙されてコイツのカタをもつのよ。
でも、アタシはだまされないからね!
「そのことだけどね、メルポメネー。
かわいい妹のあなたに、少しだけお願いがあるんだけど」
「心にもないお世辞を言う時のお姉さまって、たいてい、相手にとんでもない迷惑をかけるときでらっしゃるわよね」
「うるさい!
あんただって、アタシの作品に茶々入れたでしょ?
責任とってもらうからね!」
「はあ……わたくしでよければ、人々の血涙を搾り取る、超ド級の悲劇に仕立て上げて見せますわ。
そう、余命一か月の花嫁みたいな。
とりあえず、どなたを死なせてみますか?」
「それ、いいわね! 死ぬはあんたよ!」
苛立ちが頂点に達したアタシは、思わず、メルポメネーの首を絞めようとしてしまったわ。
「きゃーっ!
くすぐったい!
ちょっと、お姉さまァン!
イヤだァ!
変なとこ、さわらないでェ!!!」
「コ、コラ!
なに、バカなこと言ってんの!」
ふと、室外に聞き耳を立てると、さっきは苦情とか壁ドンでうるさかったのが、ウソのように静かになっているわ。
いや……なんか、ハァハァ息を荒くしている音が、代わりに聞こえてくるわね……。
なんにしても、ヤバい。
とりあえず、チェックアウトしよ。
主人公(仮名)ちゃんは、自宅でゴロゴロしながら、考えたわ。
(いちいち口出ししても、脇役(仮名)は、素直に言うこと聞くわけないし、まー何となく彼氏と会わせて、元サヤにおさめるように持っていけばいいよね。
とゆーと、あれだ。
結婚式、ケッコン披露宴にゲストとして呼んで、でも実は、脇役(仮名)のケッコンでした!
となったら、サプライズで、ググッとくるよね。
いや、ガチでさ。
おお、我ながら、ナイスなアイデア。
ひょっとして、わたしって天才かも! ってウソウソ)
なんかいい加減にもほどがあるわねぇ。
こんなの、本当にうまくいくと思ってるのかしら?
でも、さっそく、主人公(仮名)ちゃんは、スマホのアプリで脇役(仮名)ちゃんに通話を開始。
「久しぶり~、何やってんの」
『なにが久しぶりだよ、今日の朝、うちにいたじゃねーかよ。
ドンキで、ショッピング。
で、休憩中。
クレープ食ってる。
カルボナーラ照り焼きチキン』
「あ! いいな~
わたしも食いたい」
『ツレと一緒にいるけど、主人公(仮名)も来れば?
MEGAドンキだから、JRで来れんじゃん』
「キップ買うのがめんどくさい。
クルマで、迎えに来て」
『ふざけんな。
うちらもう、昼前から来て、疲れてんだよ』
「もう、夜中だよ。
居過ぎ」
『こないだ、客のおばーちゃんに、ラジカセあるところ聞かれたけど、超詳しく教えてあげた。
店員並みだよ』
「住めば?」
『ガチで、考えてる』
ちょっとした雑談のあとに、主人公(仮名)ちゃんは、とうとう本題を切り出したわ。
朝晩の気温差が激しいわよね。なんだか早朝は肌寒いのに、お昼は汗ばむくらいの陽気なんだから、ちょっと疲れちゃうわよね。
ところで、次回の主人公(仮名)ちゃんは、どーなっちゃうのかしらね……?