さようなら、ガベジ
「ちょっとあんた! なにやってんのよ!」
目を覚ましたら、いきなりメルポメネーがいたのよ!
しかも、アタシが苦心してテコ入れした登場人物たちを勝手に観察して、物語っているの!
「あっお姉さま……ヤベッ」
神能力を使用している最中の忘我から、復活しようとするメルポメネーのわずかな隙を縫い、アタシの利き腕が閃光となったわ!
ビヒュッ! ゴォンッ!
メルポメネーの脳天に”体重の乗った垂直フック(ヘヴンズ・アンカー・フォール・ダウン)”をお見舞いよ。
いきなりのフィニッシュ・ブローは、ちょっとやりすぎかもしれないけど、緊急事態だから、仕方がなかったのよ……。
モロに食らったメルポメネーは、白目をむいてしゃがみ込んだわ。
あのバカがおとなしく失神している間に、登場人物のチェックよ。
何か、勝手なことをしてないでしょうね……?
う……。
や、やりやがった……あのクソアマァ……。
せっかくたてたフラグをまんまとブチ折りやがった!
当然アタシは超激怒。
「コラッ、メルポメネー! おねーちゃんのお話をめちゃくちゃにしてぇ!」
「だって、お姉さまが、なかなか起きないんですもの~!
うわああああああああああああん!」
意識を取り戻したメルポメネーは、大人げなくも大号泣。
そしたら、部屋の薄い壁やら、ドアの向こうから、打撃音や人のざわめきが聞こえてきたわ。
『うるせーんだよ、静かにせんかい!』
『叩きだすぞ! コラッ!』
ちっ……面倒なことになりそうね。
しょーがないから、心底いやだけど、メルポメネーの機嫌を取ろうっと。
やれやれ……。
「オメーらは一体うちの家に何をカクメイしにきたんだってんだよ。
え? スカトロ大統領くんと、チェ・ゲボラちゃんよ?」
「むん……すみません……と思う」
「ごみん……」
カーペットをどけたフローリングの床に平身低頭するガベジくんと、正座している主人公(仮名)ちゃんの前に、腕組みをした怒りの脇役(仮名)ちゃんが仁王立ちしているわ。
カーペットに大便をぶちまけたガベジくんはともかく、主人公(仮名)ちゃんも、部屋の至る所にゲロを吐き散らしてしまっていたのね。
脇役(仮名)ちゃんの怒りも仕方ないってところかしら。
部屋を三人で一生懸命掃除した結果、ハッキリ言ってもともと汚部屋だったから、見違えるようにきれいになったのね。
なんだかまんざらでもないカンジで、消臭剤をシュッシュしながら、脇役(仮名)ちゃんは、
「とにかく、ガベジはカーペット代弁償してもらうからな!
あれ、買ったばっかだったんだぞ?
うちは、これからドンキ行って部屋のコーディネイト考えないとダメだから、二人とも帰れ、かえれ!」
だって。
もう、こんなに立場になっちゃったら、脇役(仮名)ちゃんを、カレシと復縁させるように説得、なんてできないわね。
部屋を追い出された主人公(仮名)ちゃんと、ガベジくんは、春の午前中、うららかな日差しの中でそよ風に吹かれながら、無言で駅まで歩いたわ。
仏頂面の主人公(仮名)ちゃんと、落ち込みきった暗い表情のガベジくん。
あれだけときめいていた主人公(仮名)ちゃんの中には、ガベジくんへの恋心は、すでに消し飛んでしまっていたわ。
そりゃそうよね。
下半身露出した上に、おしりから隆々とした黄金の物体を排出していた光景を見ちゃったら、どんな心の広い子でも、きっとガマンできないわよ。
駅で、主人公(仮名)ちゃんとガベジくんは、そっとお別れしたわ。
「じゃ、またね。
今日のことは、ごめん。
脇役(仮名)には、わたしからも言っとくから、また一緒に遊ぼうよ」
心底からの社交辞令を言う、主人公(仮名)ちゃん。
暗い顔のガベジくんは、ハンサム顔をふせたまま、うなずくだけ。
こうして、ガベジくんはあえなく退場よ。
電車を見送りながら、主人公(仮名)ちゃんは、ため息をついたわ。
(これで、脇役(仮名)とカレシの仲は、わたしが一人でなんとかしなくちゃいけなくなっちゃったか。
え~? どーすんの?
うわぁ……考えんのメンドクサー)
ホントに大丈夫なの?
心配だわぁ。
自転車で走っていると、ときどき、蚊の出来損ないが集まって飛んでる奴があるんだけど、あれ、ほんと何とかなんないかしら? コンタクトしてるときに目に飛び込んでこられて、困ったときがあったのよぉ~。
ところで、次回の主人公(仮名)ちゃんは、どーなっちゃうのかしらね……?




