れりごー
…………ショックよ。
大ショック。
ここまで言われるなんて。
確かに、アタシはこのところ、ネタ切れだったし、スランプでもあったわ。
正直、自分だけで制作した作品については、面白いのって、アタシだけだろうなって自覚もあった。
でも、よりにもよって上司として尊敬するアポローンさんに、そんなにクサされるなんて……。
あ、あたしって、そんなにダメなのかしら……?
自分では、そう思っていないだけに、アポローンさんから指摘されると、なんていうか、根本的な自信が崩壊しちゃうわ……。
もう、何が正しいのかわからなくなっちゃうのよ……。
あたしってば、しばらくぼーっとしてたみたい。
気が付いたら、アポローンさんはいなくなっていたわ。
なんだか、申し訳なさそうに、給仕さんが、
「お連れ様は、急ぎの用事だそうでして、先にお帰りになりました。
お客様には、ごゆっくり過ごしてくださるように、とのご伝言です。
お代も、お連れ様にいただくことになっておりますので、どうぞ、お気に召すままに、料理を堪能なさってくださいませ」
なによ、そんな気の毒そうな目で見てさ。
別に、あたしはケンカした恋人とか、捨てられた愛人なんかじゃないわ。
今のハナシだって、別れ話とか、そんなんじゃないもの。
……ただのお仕事の打ち合わせだったのよ……。
ちくしょう……アポローンの奴、ちょっと自分が圧倒的に才能があるからって、アタシを小バカにして!
こんなのって、パワハラ、モラハラだわ!
だったらアタシは、可能な限り請求書を高額にしてやるから!
請求書(bill)ハラスメントしてやる!
ビルハラよ!
よっしゃあああ! そうと決まれば!
アタシは声を張り上げて、給仕さんに言ったわ。
「おっちゃん!
ここで一番、高いお酒ちょうだい!!
もち、ボトルでよ!!!
あと、スシ、追加ね!
やめてって言うまで、じゃんじゃん持ってきて!」
すると、奥でスシを握ってたジャパニーズ・シェフが、わざわざ顔だしてきて、
「威勢がいいねぇ、姉ちゃんよ!
ま、男なんて星の数ほどいらぁな!
ちっとフラれたくらいで気にすんな!」
と、陽気に声をかけてくれたの。
フラれたのと、ちげーよ!!!!!
でも、もー、どーでもいーや、くそったれーーーーーー!
「わたしはお料理好きだけど、エチオピア料理をみんなに食わせてあげる! ボゴォ
それがアタシの使命だと、今、わかった! プグッ」
「エチオピアってどこだよ? わからねー、ガチでわかんねーよ!
助けてくれよー! 世の中わかんねーことだらけで、こえーんだよ!
ひいいいいいいいいいい!」
「むおう!……自分が無知であることを知ることつまり無知の知とはソクラテスの思想でもあり、その死生観にまで通じる重要なものだけど、鞭でたたかれると痛い、でも気持ちいいということを知ることでもあって、苦痛=快楽という倒錯したエロスは、基督教の影響が濃いヨーロッパにおいて、ニーチェが指弾したキリスト教徒の罪悪感による自己処罰が重要なリビドーであるという、禁忌の侵犯すなわちエロスであることを証明しており、赤い航路という映画がポランスキーによってエロスを追求した果ての逃れることのできない神の復讐として作られているにも関わらず、われら日本人にはドタバタエッチコメディにしか見えないのだが、日本でも”鞭の痴”が成立する空間はもちろんあって、それは高貴と卑賤の唯一の交流の方法として設定されたときに機能するであって、つまり愛〇様にしつけられる、どやされる、もてあそばれる、そして家畜人やぷーになるという時、禁断の被虐メカニズムがわれらをQ極のエクスタシーに導くのではなかろうか? っと感ずるっ」
「インジェラの材料はむかし、どっかの海外食材がおいてあるスーパーで買ってあるしね。 ボゲエェェェ!
ケベとバレバレも調達しなくちゃ! クオォォ……
お祭りだったら、アベシャダボだな! 驚くんじゃねえよ、ククク……ボホッ!」
「右も左もお経唱えてる?
ヤベーこれゼッテーバッドだよ! うちバッド入ってる???
おああああああ!
空が! 空が割れていくうううううううう!」
「むおう……鞭打ち苦行者は終末的世界観に支配された乱世に隆盛を極めたが、今が果たしてそうでないと誰が言えるだろうか? 世界を股にかけるやり手ビジネスマンが、実はどMで女王様にいたぶりまわされることが趣味であることなどごくごく当たり前に存在する現代、さらに古今未曾有の大量消費を是とするこの世界の最先端では、生産性を至上の価値として人間性を自らすりつぶす自己虐待のチキンゲームが至る所で行われているのであり、だから、ムチでたたかれて気持ち良いことこそがエボリューションのエッジであり、個人の改革によって世界を革命する行為であり、自己犠牲であり、神の御子を模倣することすなわちジャッジメントをサバイバルし、三位一体となることであり、だからどんどん叩いてください! っと感ずるっ」
あーら! みんな楽しそうね!
せっかくだから、アタシも一緒に混じっちゃおうかしら?
アタシはカラオケボックスにワープ、実体化したわ。
「チョリーーーーーーッス!」
突然、暴風のごとくドアをブチ開けたアタシに、一瞬、三人は目を丸くしたわ。
でも、次の瞬間、みんなの顔は大歓迎の笑顔に輝いたの!
「「「せんぱ~い!!!」」」
ほーほほほ!
記憶操作など神にとっては、たやすいことよ!
あっという間に、三人に混じって、アタシもカラオケに飛び入り参加!
♪♪♪
すのう ぐろうずわい らん まんとぅない
なら ふっぷりん とぅびしーん
あ きぐもばーい それーしょん あん るっくすらいく あいむくいん
ざうぃんじ はーりんらいくでぃす すうぉーりんすとーみんさーい
くでぃきーぴんでぃん はびんのーざん ちゅらーい
どれでんみー どれでんしー
びだぐがーる うぉえい はふとぅびー
かんしる どんふぃーる どれでんのー
うぇな ぜいのー
れりごー れりごー
けん ほでぃばっく えにもー
れりごー れりごー
ちゃーなれぇい あ すらんざどー
あいどんけー わっぜー ごいんとぅーせーい
れざすとーん れいじょーん
あ こーねばー ばだみー えにうぇー
いつふぁに はうさん でぃすてんす
めいくす えーぶりしん しーすもー
えんざ ふぃーざわんこんちょーみー
きゃん げっちゅーみーあーろー
いっつたいむとぅしー わらいきゃんじゅー
とぅ てすざ りみぜん ぶれーくるー
のらい のーろーん のーるーずふぉみー
あいん ぶりー
れりごー れりごー
あいわん うぃざ うぃんだすかーい
れりごー れりごー
ゆー ねばーしーみーくらーい
ひーらいすてーん ねー ひーらいすてーいん
れっざすとーん れいじょん
まいぱーわー ふろーりーず するーじ えーりんちゅーざ ぐらーうん
まいそーりず すぱーらーりん いん ふろーぜんふぁっくた ざーろるらーう
えんわんさん くりすたらいじ らいけん ないし ぶらーす
あいねばーごーいんばっく ざぱす いじんざ ぺー
れりごー れりごー
えな らいずらい ざ ぶれいくぉ どーん
れりごー れりごー
ら ぱーふぇく がーりる ごーん
ひーらーいすてーん いんざ らい おぶ でーい
れっざすとーむ れーいじょーん
あ こー ねば わだみー えにうぇ
♪♪♪
ああ~! いい歌ね~!
ハラスメントで思い出したけど、最近、スメルハラスメントってのがあるようね。でも、どんなスメルがダメなのかしら? アタシの職場で、汗のにおいがすごい人がいるんだけど、もはやヘドが出るレベルなのね。でもそれって、本人は気づいていないし、かといって指摘するのもねえ。それに、香水がまずいって言う意見もあるし、どうなのかしらね……困ったわぁ。
ところで、次回の主人公(仮名)ちゃんは、どーなっちゃうのかしらね……?