横濱カレーミュージアムの思い出
「しばらく、キミが姿を見せなければ、姉の機嫌も直るだろう。
昔のことをいつまでも、根に持つような人じゃないし。
だから、今度のピューティア大祭では、謹慎をしてもらう」
いやいや!
だから、それだけはカンベンして!
アタシの存在意義が、なくなっちゃうわ!
それに、主人公(仮名)ちゃんたちはどうなっちゃうの?
せっかく手塩にかけた登場人物のこれからを、いまさら、上司に注意されたからって、なしにするなんて、そんな冷たいこと、アタシにはできないわ!
自分の安っすいプライドなんか、クソ食らえよ!
ここはとりあえず、誠意とかを見せてやればいいってわけでしょお?
見なさいよ、ほらぁ!!!
というわけで、アタシは、神妙にアポローンさんに頭を下げたの。
「アタシのうかつな行動が、アルテミス様のご不興をお招きいたしましたことは、理解いたしました。
アポローン様にも、本当にご迷惑をおかけいたしまして、本当に申し訳ございません。
ですので、アルテミス様と、ウィルビウスさんには、きっとお詫びに伺いますわ。
それで、今回の失態はお許し願えませんでしょうか……?」
「それこそ、大失態になるのは目に見えてる。
姉は深く物事を考えるタチじゃない。
キミを目の前にしたら、また怒りが再点火するぞ。
姉が今回の騒動を忘れるまで、ここはしばらく、そっとしておくのが一番だ。
ほどなく、誤解も解けるだろう」
アタシのマジメなふりが、全く手ごたえないわ。
なら、ハートを揺さぶるような、もっとマジメな意見を提唱よ!
「そんな!
でも、アルテミス様にご不快の念をおかけしたことと、アタシの作品は、直接の関係はないと存じ上げます。
芸術は……アタシたちのやっていることは、ひいては、ピューティア大祭という芸術の祭典は、お偉い方々の好き嫌いや、その時々の政治的な力関係によって、内容までが左右されてしまうものなのですか?」
その時、アポローンさんの、いままで、どこか上の空だった目つきに、光がともったわ。
アタシにひたと視線を当てたの。
あら……。
なんだか、渾身の説得に、ついに冷淡なアポローンさんの気持ちも、動いたようね……!
かすかに眉根を寄せたアポローンさんの表情は、
(は? それ、お前が言うか?)
って言ってるみたいね。
ってオイ!
イラつかせちゃってんじゃないのよ、アタシィィィィィィ!!!
一瞬だけ見せた感情のともしびは、すぐに消えて、また元通りの淡々とした様子で、アポローンさんは言ったわ。
「こちらは、オリュンポスの政治にかかわっているからね。
キミたち、ムーサイとは立場が違うゆえに、見えているものも、全く異なる。
こちらとしては、オリュンポスの和を保つために必要とあらば、それも是とするに、やぶさかではない。
が、もう一つ、言っておく」
アタシの説得は、結局失敗したわ……。
冷徹な現実に打ちのめされているアタシに、アポローンさんは、さらに追い打ちをかけたの。
「キミの謹慎は、姉のクレームも要因ではあるが、根本的な原因は、キミ自身にある。
企画書を見たが、今回のキミの作品には、全く感心できない。
これまで、こちらがヒントを与えて制作させた作品については、多少の見どころもあったが、キミ一人に任せた本作は、鑑賞するに値しないクズだ。
むろん、制作するのは時間の無駄だから、すぐに廃棄するように。
妹の、メルポメネーの手伝いでもしながら、今後の進退について、よく考えたまえ」
ガビョーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!
あ……三人の宴は、まだまだ続いているみたい、ね……。
主人公(仮名)ちゃんは、誰も聞いていないのに、滔々と自分語りしているのね……。
「ヨコハマに、カレーミュージアムってのがあるでしょう? ゴブゥ!
子供の頃に一度だけ連れて行ってもらったの。 ェグ!」
「知ってるぜぇ~! うちもとーちゃんととかーちゃんが一緒にいたころ、行ったことある!
なんでとーちゃんいなくなっちまったんだよぉ~! うええええええええん!」
「むおう……カレーというとインドだけど、日本からの距離はおよそ6000キロメートル。
射精一回分の運動量が100メートル走と等しい。
つまり、60000回、オ○ニーすることで、日本からインドに到達する! と感ずるっ」
「日曜だったから、どこのカレー屋も人でいっぱいだった。ゴッゴッゴッ
でも一軒だけ、すいているところがあったわけ。ゲプゥ~
そこがエチオピアのカレー屋だったの。グッ、コポォ」
「あのクソおやじっ!
うちと、かーちゃんと、れいあ(←お姉ちゃんよ)と、ゆあん(←妹さんね)と、しょうだい(←弟)と、りゅうま(←弟その2)と、アユとナミエとトモミと(←ここまで、全部ネコちゃんの名前)とガンジャとダチュラ(←ワンちゃんなの)を捨てやがって!
ぜってぇ許せねえ!
コォオオオオオオオオオオオ!」
「むおう……カレーというと、カーリー女神だけど、四本から十本程度のうでに長い舌って、そりゃまさにセッ○ス専用の肉体だよ! しかもQ極の攻め側。
夫のシヴァが踏まれているっていうのも、すごくよくわかる……わかりすぎる! っと感ずるっ」
「パパやママやおねーちゃんには不評だったけど、わたしにはすっごくおいしかった。ヒクッ
まさに、夢の味、愛のお料理。ンフーッ、クカハァ
エチオピア料理が、わたしの本当のゴールであり、スタートなんだって、本当はわかってるの! ブルルルァ!
でも、モノがモノだけに、なかなか実行に移せない……。クホゥ」
ああ、みんないちおう悩みを持っているくせに、いつもはバカみたいにどうしてなれるのかしら?
でも、きっと、アタシだけ不幸って思っているのが、おかしいのよね、そうよ……。
イ○ンのワ○ンカードってのがあるでしょ。カードで支払いするときに、”ワオン!”みたいな犬の鳴き声が聞こえるアレ。でも使っているうちに、鳴き声が一種類しかないのに飽きてきちゃうのよね。一万円チャージしたときには、きゃんきゃんないて、媚びたり、残金が少なくなると、くぅ~んとか、元気なくなったりしてほしいわよね。
ところで、次回の主人公(仮名)ちゃんは、どーなっちゃうのかしらね……?