「バイトはつらいよ」の巻
チンドン屋?
アタシの格好が?
いいこと? これは、せ・い・ふ・くッ! ユニフォームッ! なのよぉーーーーーーーー!
おおお……。
お。
「お、お気に召しませんでしたか……」
なんて言っちゃうアタシ。
アポローンさんは、アタシの返事には全く反応せずに、さっさと歩き始めたわ。
アタシはその後に、あわててついて行くの。
なんなのこいつ!
いっつもこうなのよ。ほとんどしゃべらないんだから。
完全マイペース。
っとに、どこいくつもりなんだか。
でも、部下のアタシとしては、黙ってついてくしかないのよねぇ……。
じゃ、歩いているうちに、残りをちゃっちゃと話しちゃうわね。
……
燃え上がるイーリオスを、アルテウスは母、アイトラーを探して駆ける。
城門からなだれこむアカイア軍と、なすすべもなく逃げ回るイーリオスの人々が入り乱れ、混迷の極みに陥るなか、ついにアルテウスは、ヘレネーを連れて逃げ落ちようとするアイトラーを発見したのだった。
母と出会い、互いの生存を喜ぶアルテウスとアイトラー。
さらに、アルテウスの手引きによって、ヘレネーを無事にイーリオスから脱出させる準備もできていた。
が、その前に、父、アルテウスを仇とするクリューソテミスが立ちはだかる。
クリューソテミスの斧が、アルテウスを屠った。
しかし、仇敵を倒すと勝利の凱歌を上げるはずの、魔法の斧は、依然、沈黙を守っている。
動揺するクリューソテミス。
そこへ、かつての愛人、ネオプトレモスが現れる。
クリューソテミスは、ヘレネーを渡すことを条件に、その身を匿ってもらうように、約束していたのだった。
が、すでにヘレネーは逃げ去り、アルテウスの遺骸と、そばで悲嘆にくれるアイトラーが残されているのみ。
ネオプトレモスは、約定を違えたクリューソテミスに、剣を振り下ろす。
崩れはじめた城内に置き去りにされたクリューソテミスは、しかし、死ななかった。
仇を討ち果たすまでは、命を保つ魔法の武具によって、傷は癒え、生きながらえてしまったのである。
イーリオス落城後、クリューソテミスは、レームノス島へと戻り、自らの命を絶った。
一説には、その時初めて、魔法の斧は、勝利の凱歌を上げた、とも言われている。
しかし、別の言い伝えによると、いまだクリューソテミスは、魔法の斧とともに、いずこかをさまよっているとも言う。
クリューソテミスの本当の敵とは、なんだったのか?
彼女は、今も、斧を片手に、仇を求めて、夜の闇を歩いている。
手当たり次第に、人を殺めながら、己が解放される瞬間を、渇望している。
もしかすると、ほら、あなたのうしろに……。
(END?)
……
……………ってなんなのよ!
ラストがいきなりホラー風味になっちゃって、いままでの歴史譚がぶち壊しじゃないの!
エンド・はてなって、ふざけんじゃねーよ!
きちんと終われ!
あかんわ。こりゃー消えるわ。
神話なんだったら、もっとデルポイの神託とか入れて、運命感を出さなきゃ、盛り上がらないのに、伏線を全然考えていないのが、にじみ出ているわね。
……これは、もう、忘れましょう!
まあ、それはともかく、アポローンさんが、アタシをひきつれて入ったのは、なんだか服屋さんのようね。
Kiton……?
うわぁ、なんか、ぜんぜん場違いなところに来ちゃったってカンジ。
アタシ、どうすればいいわけ?
バイト中の主人公(仮名)ちゃんは、くすんでいるわぁ。
個人経営のカフェレストランでウェイトレスをやってるんだけど、明らかに浮いているもの。
無表情な大女が、のしのし店内を闊歩する様は、お客様に、自分は一体、どこに来たんだっけ? と疑問を抱かせるには十分なインパクトを与えてしまっているわ。
しかも、まだ日が浅いせいで、あいさつすら、かなりトチっているわね。
さっきも、いりゃっちゃいまへー、とか言っちゃっていたのよ。
「オーダーはいるマース、三番テーブルのふたりさん、生姜焼き定食と麻婆丼でーっす」
「どっちもメニューにねえよ!」
さらに、メニューを未だに全然覚えていないせいか、オーダーを間違えまくっているわ。
「あ、スマセン」
何をやらかしても、一見、鉄面皮な主人公(仮名)ちゃんだけど、本当はこっぱずかしくて、声を上げながらダッシュで店から逃げ出したいくらいなのよ。
でも、ここでのバイト代が入らないと、来月は残金二千円で暮らすという、不可能を強いられるから、耐えないとね。
「そろそろ、あがっていいよ」
声をかけてきたのは、ここのやとわれ店長、マリオさん。純粋な日本人だけど、本名よ。
いつも困ってるような顔をした、白髪頭のおじさんなの。
「やった! 上がりマース!」
それまで仏像のようだった主人公(仮名)ちゃんは、満面の笑顔で、さっさと店内から撤収よ。
今日は、ガベジと脇役(仮名)ちゃんと、一緒に三者会談の予定なの。
時間ぎりぎりだから、駅に急がなくっちゃ。
あたたかくなると、たまーに、小っちゃい赤い虫が出てくるわよね。色はきれいなんだけど、虫ってゆうのが、たまらなくイヤだわ。つぶしたら、赤い汁がつくし……。ほんと気温が上がるのも、良し悪しよね。 ところで、次回の主人公(仮名)ちゃんは、どーなっちゃうのかしらね……?