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夜明けを待つ  作者: 咲良
第一章 願い
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第六話 襲撃

宗孝視点

 今日の昼過ぎ、隣国と自国の国境を越えた我々の前に現れたのは、他国からの刺客と思われる十数人の男達だった。

 彼らは皆、顔に黒い布を巻き、面を隠していた。けれど、布の隙間から覗く目は鋭くこちらを睨み、荒事に慣れた輩であると察せられた。


 馬鹿なのか?


 私が呆れたのは、その風体のせいではない。…いや、それも少なからずあるのだが。

 今は、昼だ。傾いてきたとはいえ、太陽はまだ高い。そんな中、白昼堂々仕掛けてくるなど、よほどの策があるか、救いようのない馬鹿かのどちらかだ。

 安成らも同じようなことを考えているのか、辺りに微妙な空気が漂う。けれど、それも一瞬のことで、何かあった時のために神経を研ぎ澄ませ、私たちは相手を観察した。

 どこにでもいるような浪人のなりをしているため、どこの国の者であるかは分からない。こちらに向けられている刀も、有名な鍛冶師の作ではない。彼らを雇った者が指示役として一人でもいれば捕えて思惑を吐かせることもできたが、生憎見回した限りでは目的に沿う人物はいないようだった。

 分かるのは、彼らが雇われ者だということ。下卑た笑みを口元にのせ、こちらを見下すように振る舞う姿からは、主をもつ者特有の忠誠心や自尊心は感じ取れなかった。


 今回の訪問がよほど目障りだったようだな。


 ここにはいない、彼らの雇い主にあたりをつける。おそらく、この者たちを差し向けたのは東の国か南の国だろう。

 我が国は古き時代より製鉄が栄え、それによって力を蓄えた国だ。

 より長持ちで、扱いやすい武器があれば戦の勝敗が変わる。もちろん、どれだけの手駒をそろえ、どのような策を練るかといった要素も大事であるが、良い武器があるなら尚良い。

 武力に優れていたわけではない我が国が存続し続けてこれたのは、武器の産地としての価値があったからだった。

 我が国を武力で制圧し、その技法を手に入れるという方法もあったが、その場合は争いによって技術者を失い、周辺国から狙われる恐れがあった。それよりも公然とした『良き隣人』となり、交渉によって入手したほうが平和的で手間もかからない。

 長年、周辺国は互いに睨みを利かせ、少しでも他国より親しくなろうと我が国に使者を送っていた。

 けれど、その仮初の平和は10年前に亀裂が足る。

 叔母が西の国へ嫁いだのだ。それによって、西の国が一歩リードする形となった。

 西の国を特に融通してたわけではない。

 輸出している武器も、以前より少し増えたくらいの量だ。東や南の国にも、それまでと同量の輸出を行っている。とりたてて、力関係が変わったわけではなかった。

 しかし、我が国とのつながりができたことは確か。

 いつか西の国と手を組んで仕掛けてくるかもしれない。

 その可能性を潰すために、叔母との血縁である私を狙って度々、刺客が送られてきていた。

 私には兄弟がおらず、父も数年前に亡くなっているので、私が死んだ場合、家督は分家に移る。そうなれば、叔母が嫁いだとはいえ、西の国との関係も白紙に戻るだろう。

 しかし、国が倒れることはない。首謀者が見つからなければ、周辺国との関係も変わらない。

 かの2国には、そのような考え方をする者が少なからずいた。

 もちろん直接耳にしたわけではない。けれど、外交の際に交わす言葉の裏側や他国に忍ばせている間者の報告から、彼らの思惑は透けて見えていた。


 なんとも軽薄な頭に呆れるばかりである。


 国益を第一とするのは分かるが、手段が姑息すぎる。

 目の前の者たちが彼らの手先とは断定できないが、現状では最もその可能性が高く、それを否定するだけの材料が手元にない。


「何者だ! 我らが誰か、分かった上での振る舞いか!」


 男たちから目を逸らさず、ゆっくりと馬を後退させて距離を取る。

 それと同時に、安成が斜め前に歩み出て、ならず者たちに誰何した。

 男たちは顔を見合わせ、あざ笑うかのように身体を揺らす。


「あんたたちを殺せば金が手に入るんでね。」

「特に、そこの殿さんに用があるのさ。」

「大人しくしてりゃあ、すぐに楽にしてやるよ。」


 腰に差した鞘から刀を抜き、男たちがじりじりと近づいてくる。

 安成たちも刀を構え、私を挟むようにして前後に集まる。

 束の間の沈黙が周囲を支配し…。


「やれぇ!」


 大声をあげて切りかかってくる男を皮切りに、一気に場が騒然となった。

 振り下ろされる刃を弾き反す者。

 馬を操り、向かってきた者を切り捨てていく者。

 男たちはすぐに劣勢に追いやられた。これと言って、すごい剣の使い手がいるというわけでもないようだ。

 そこら中から怒声や悲鳴がひっきりなしに聞こえる。

 しかし、私の中に焦りはなく、ただ静かにその成り行きを眺めていた。


 なぜこのタイミングで向かってきたのか。


 下男を数に入れずとも、戦える者はこちらの方が多かった。今も下男たちは下がったところでこの戦闘を眺めている。

 まして、私たちは騎馬だ。位置も、機動力もこちらの方が上。地上からこちらを見上げる彼らに勝機などあるはずがなかった。

 それにもかかわらず、彼らは刃を向けてきた。


 何か狙いがあるはずだ。


 戦いに参加しなかった安成と他2名が守りを固める中、不審なところを探すべく私は彼らを観察する。

 そして、刺客たちが徐々に後退し始め、勝負はついたと思われた時。

 私の予想していなかった方向から事態は急変した。 


「うわああああああ!」

 

 甲高い馬の鳴き声の後に、味方の驚愕の声が響き渡る。

 目を向けると、そこには暴れるようにのた打ち回る馬と寝転がった状態で敵の刀を受け止める壮介の姿が。

 馬の胴体には矢が刺さっており、その痛みが馬を暴走させたようだった。

 伸介は振り落とされないよう手綱を引いたはずだが、その隙を男に狙われ、落馬したのだろう。

 辛うじて刃を止めることはできたようだが、決して油断を許さない状況だった。

 さらには…


「どう、どう!」

「落ち着け!」


 間を開けず、幾本もの矢が次々に放たれる。

 壮介の馬に矢が射られたことで他の家来たちはすぐさま状況を把握した。

 矢が当たって棹立ちになった己の馬の手綱を握り、その暴走を御しにかかる。その隙を見て、先ほどまで劣勢に立たされていた刺客たちが勢いを取り戻し、刀を振り上げて襲いかかってきた。

 さらには道の両側にある林から何人もの騎馬隊が現れる。彼らは、引き絞った弓で私たち…いや、私を狙っていた。


「宗孝様、一時お傍を離れることお許しください。」

「かまわん。行け!」


 私の傍に控えていた典秀が、刺客の方へ馬を走らせる。その手に握るのは、彼の愛刀『黒鋼』。彼の家に伝わる宝刀であり、かつて私の先祖が忠義の対価として彼の家に下賜したものだった。


「安成、忠光! 俺たちが足止めをするから、宗孝様を護れ!」

「分かった!」

「宗孝様、こちらへ!」


 典秀の指示を受け、私の傍に残った2人が動き出す。目を向ければ、典秀が他の家来を庇い、刃を退けているのが見えた。窮地に陥っていた壮介も、今は立て直し、弓をもつ騎馬をかく乱している。


 これ以上ここにいるのは得策ではない。


 この者たちは、私を狙っているのだ。私がいれば、戦闘が長引く。

 今の戦力でも負けるとは思えないが、敵が増えたことで明らかに下男を守る余裕がなくなった。

 いたずらに終わりを待つよりも、先にこの場を離れ、敵を撒く方がいいだろう。


「典秀! 列を整えて、後から追いかけてこい!」


 典秀も幼馴染の1人だ。その腕を信頼している。

 「はっ!」という返事を聞いた後、私は安成らを連れて一足先にその場を離れた。




 そうしてひたすら馬を走らせ、たどり着いたのは例の森。3か月前に妖の娘と会った森の西側だった。

 空は俄かに朱色を帯び、日没まであと少し。

 ここから必死に馬を走らせようと、夜までに城につくのは不可能だ。

 今のところ追手はいない。けれど、私たちの離脱を黙って見ていたとは到底思えなかった。どれほどかはわからないが、騎馬のうち何人かは追ってきているはず。


「安成、森に入る!」

「はっ!」


 いるかどうかもわからない妖を警戒するより、今は目の前に迫った刺客を何とかする方が先だ。

 それに、何となくではあるが、先日偶然にも対面した娘は争いを好まないように見えた。むしろ人間に関心がないというか。

 何の根拠もないが、自分の勘は結構当たる。

 今日も自分の勘を信じることにし、安成と忠光を連れて、私はここ3か月、警戒し避けていた森の中に身を隠すことにした。

幼馴染三人衆の安成さん、忠光さん、典秀さん。

宗孝にとっては兄的存在で、頼れる臣下です。

ちなみに、家格が近く、年が近いのが安成さん。

馬術に優れているのが忠光さん。

一番強いのが典秀さん。

幼いころは、みんな一緒に剣の練習をしていました。

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