第一話 始まり
??視点
これは戦乱の世のお話。
武士が力をもっていた時代。
1つの大陸に大小様々な国が存在し、城主がそれぞれの国を治めていた。
城下町を中心に国は栄え、農村部には田畑が広がり、行商が国と国を行き来し。
人々は日々の生活を懸命に営んでいた。
しかし、この大陸に住んでいたのは人間だけではなく…。
古の時代より妖<あやかし>の血を受け継ぐ者たちが深い森や谷、山奥に住み着いていた。
一族のつながりを重んじる者たちは、集落を作り、平穏と秩序を第一としていた。
つながりやしがらみを嫌う者たちは、群れから離れ、自由気ままに各地を巡っていた。
そして、力を誇示する者たちは、人間の前に姿を顕わし、田畑や家を襲い、彼らの生活を脅かした。
中には、人間を餌と考え、気の赴くままに殺戮を行う者もおり…。
彼らのせいで、妖<あやかし>は人間から恐れられ、嫌悪される存在となっていた。
とはいえ、人間にどう思われているかなど、彼らにはどうでもいいことで。
ただただ己の気の向くままに、それぞれの望む生き方を貫いていた。
* * *
夜明けが近い。
一刻も早く身を隠さなければ。
顔を空に向け、自分が向かうべき方角を確認した。そして、白くなり始めた空から目を背けるように、森の奥へと足を進める。
足にまとわりつく衣が邪魔で、体がひどく重かった。周りにはなんの気配もなかったが、誰かに出会うのは避けたかったので、ただひたすらに先を急ぐいだ。
そうして、どのくらい歩き続けたのか。
少し開けた場所に出た。すでに空には日が昇り、森の中にも陽が射している。
その場所も明るく照らされ、鮮やかな緑の真ん中に大きな岩が鎮座していた。
自分の身長を超える大きさの岩。ここは岩山ではなく、周りに同じような岩もない。ゆえに、人間か妖<あやかし>の誰かが運んできたものだと分かった。
けれど、長らくここを誰かが訪れた気配はなく、岩の表面には苔が生え、すでに森の一部となっていた。
静かだ。
さわやかな風が吹き、髪を軽く持ち上げる。じっとりと汗ばんでいた衣の隙間にも入り込み、はたはたと衣の裾が揺れた。
吹き抜ける風に、草花も揺れ、木々の葉や枝がさわさわと音を立てている。
森の中を移動して冷えていた身体は、降り注ぐ陽の光によって徐々に温かさを取り戻していく。
その居心地のいい空間に、ふっと気分が和らいだ。
岩にもたれかかるようにして地に腰を下ろし、足を前に投げ出した。
夜は明けたばかり。
暗き場所、人知れぬ山奥に暮らす者たちが、こんな場所に姿を現すはずがない。
私は意識を手放し、深い眠りに落ちていった。
さて、誰視点だったのか。
次話で明らかになります。