四冊目・赤毛のアン ルーシー・モード・モンゴメリ
M・モンゴメリ作 「赤毛のアン」
赤毛のアンというのは邦題で日本で一番最初に翻訳出版した村岡花子によるもの。以来数多くの訳者もこれに倣って「赤毛のアン」 としている。というかこの邦題でないと日本の読者はこの作品を認知できないのだ。ウラを返していえばいかに村岡花子の訳が偉大であったかわかるということだ。そう私も熱心な読者の一人です。
原題は赤毛のアン、ではなく「Green Gables」 というそっけないもの。(グリーンゲイブルス=緑の屋根)
今でこそシリーズ通して、すそ長く息長く永遠の子供たちの支持を得てベストセラーとなっているが、最初の最初モンゴメリはこの作品の売り込みにすごく苦労したらしい。ようやく見つけた出版社に安く買いたたかれて契約を結び、結局はベストセラーになった。傑作はみんなそんな過程を経ないといけないのかなと思うぐらい最初は恵まれてない。世間的に認知されているベストセラーでみれば、ローリングのハリー・ポッターもS・キングのキャリーもそうだったのだ。どこの出版社も相手にされなくて、やっと見つけところで契約を結ぶ。作者にとっては金額は問題だが実は問題ではない、本になっただけでうれしい。そっくり同じだ。
モンゴメリも赤毛のアンが出版される、と契約を結んだだけで喜んでいたのだがベストセラーになってもうちょっと賢い契約を結んでいればよかったと後悔しまくったらしい。どういう本でもベストセラーになったら肝心の作者が一番儲からないようになっていて出版社丸儲けになる仕掛けになっている。でも出版社の目からみればベストセラーって予測がつきにくいものなのかもしれない。特に無名な人には厳しいよね。世の中はそんなものだが、一旦認知されてしまえば名誉は後からついてくる。といっても当の本人は書くことが好きだからこそ書く。だから生活の心配をしないで書けるという環境が手に入ることが一番うれしいことだったに違いない。お金よりも名誉よりも書いて皆に喜んでもらえば作者はそれで幸せなのだ。だから名前が売れてお金持ちになっても書き続けている。書く人は生きている限り書くものだよ。一生涯かけて。よかったね、モンゴメリ。私は貴女が大好きよ。
私は当然シリーズも全巻もっていて、若い時から繰り返し読んでいる。聖書からの引用も多くそしてそれをカナダの自然の光景と豊かにリンクさせる。登場人物の思考と言語のやり取り、ストーリーの組み立て。よく考えなくとも個人的にはモンゴメリには私はものすごい影響を受けています。
一番おもしろいのは、やはり一番最初に出版された「赤毛のアン」 になる。巻を重ねるにつれてアンは成長し結婚して子供を産み育て老いていく。結婚相手は最初の出会いがケンカ相手のギルバートで彼は医師になる。結婚前にも結婚にいたるまでにアンはいろいろあって(彼も彼女もモテるのだ) それでも人生うまくいって子供にも恵まれる。なんというかそれなりにいろいろあっても、アンは女性としては一般的に理想とされる人生を歩むのだ。最初の方では誰にも好きになってもらえない、みっともないそばかすだらけのコンプレックスだらけの孤児が最後には完璧な美人で博識な理想の女性になっている。母としても妻としてもとても立派。モンゴメリはアンをどうでも幸せにしたかったに違いないし、当時の読者もアンが不幸になることを許さなかったに違いない。林真理子はこれを「アンが私たちを裏切った」 というおもしろい言い方をしている。確かに話がすすむにつれて人生うまくいきすぎておもしろくなくなっていく感はある。彼女の洞察力は本当にすごいが、私はまたちょっとだけ違う感触を得ていて、アンという一人の人生をはたで重ねて一緒に生きていくうえで成功していくというのはうれしいことなのだ。しかも最後は文章を書いてお金ももらえる。これって超いいですねって言いたいわ。私はアンの成功を喜びたいです。
アンの娘リラまでいくと赤毛のアンと同じ人が書いたのか? と思うぐらい筆が落ちておもしろくなくなってはいるが、それでも当時の戦争によって引き離された恋人たちの嘆きがわかる。
シリーズで全巻読破する人はどのくらいいるのか皆目不明ですが、最初の一冊は必読です。これも大好きな本なのでUPしました。