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1029年04月11日
暖かな日差しの中、真新しい衣装が並ぶ姿はいつ見ても圧巻です。
魔王様!本日は街の広場で神樹祭に使用する衣装一式の展覧会が行われましたよ。
やはり今年も、惚れ惚れとする仕上げの衣装がたくさんありました!
あの素晴らしい衣装を身に着けることが出来れば、それはきっと幸せでしょうね!
さて、魔王様はなぜ神樹祭の準備を今やっているのか不思議に思うことでしょう。
神樹祭は8月の中頃に毎年行いますから、こんな時期に準備は早すぎると思うでしょう。
確かにその通りです。
しかし、商業都市「ティルファ」は毎年この時期に神樹祭向けの衣装展覧会を行っているのです。
早めに行う理由として、職人の腕を確かめるためなのです。
一般的には神樹祭向けの衣装は各家庭で繕っていると思います。
あの神樹「ギュフルエオロ」の青々と茂った葉の色に合わせた衣装を作るものです。
私の衣装も長いこと使っていますので、少し色がくすんでしまっていますね。
本当は毎年新しいものを仕立てるのが礼儀らしいですが、そんな余裕はありませんしね。
そんなことは余程信仰深くでもない限りしないと思うのですけどね。
そう思っていたのですが、実はそうでもないのですよ魔王様。
見栄えを気にする方達が世の中にはいますので、そのような人達は毎年新しく仕立てるのです。
新しく自分達で仕立てれば良いのですが、やはりより良いものを身に着けたいみたいです。
そうなるとやはり衣装を繕う職人へ任せるのが一番でしょう。
しかし、いつも懇意している職人がいるならともかく、そうでもなかった場合はどうしますか?
誰にお願いするのが良いのか分かりませんよね?
そのような方々がこの「ティルファ」に集まってくるのですよ。
商業都市ですから、なんか良いものがあるのではないかという感じですね。
衣装というものは基本的に着古したものを取り扱っているものがほとんどなので、
商人達としては精々良い職人を紹介するくらいしか出来ません。
新しい衣装は本人の身体に合うように寸法しないといけませんしね、手元に置くことは難しいことでしょう。
だけど、紹介された職人と連絡が上手くとれるかも分からないし、苦労して作って
もらった衣装が納得いくものかも分からない。
そういった不満な声が良く「ティルファ」へ訪れた方からあげられるようになりました。
「ティルファ」としてはあまり嬉しい話ではありません。
そこで、街の取りまとめ役と商業協会は相談をして、衣装の展覧会を開くことにしたのです。
「ティルファ」には腕に自信がある職人が多々いますので、彼らの腕を見せるためにこの時期に衣装一式を仕立てあげるのです。
その出来栄えを見てもらい、気に入った職人と交渉をしてもらうというものです。
基本的に依頼を受けた職人は依頼人の住んでいるところまで一緒に行き、そこで衣装を仕立てることとなります。
訪れた本人だけなら良いのですが、家族の分も用意する必要があるものですからね。
なので、職人としては大きな仕事となるのです。
力のある貴族などに気に入ってもらえれば、定期的に仕事を受けることも出来ますからね。
今後の仕事にも繋がる重要なものとなります。
特に若い職人達はみんな気合を入れていますね。
自分の工房も持っていない人がほとんどなので、ここで依頼を受けれればあわよくば専属の職人にもなれるかもしれませんので。
まさに職人のための行事と言えるでしょう。
ただ、当たり前ですがある程度腕がないと展覧会へは出品出来ません。
あまりにも綺麗とはいえない出来の衣装を出品しようとする輩もいるのです。
大体は職人見習いにも満たない若者なのですけどね。
なんとなく仕上がったので、一緒に出品してくれないかと言ってくる人が結構いるものです。
しかし、この展覧会で求められている者は質が良いものなので、そのようなものは出品の許可は得られないのです。
そこは商業協会が厳しく取り扱っています。
変なものを許可してしまいますと、他の衣装も同様に評価されてしまうかもしれませんからね。
職人としても厳しいでしょうが、ありがたいみたいですね。
私の知り合いに靴の仕立屋がいるのですが、彼もなかなか出品が出来なかったようです。
昨年からやっと出品が出来たと喜んでいました!
まずは商業協会に認められる腕というのも充分なアピールになるのでしょう。
昨年は残念ながら、声はかからなかったみたいですけど、今年はどうでしょうか?
あ、もちろん今年も出品は出来ていましたよ。
綺麗な靴でしたよ。
私の靴も大分ぼろぼろになってきましたので、今度新しいものを頼んでみようと思っているのです。
きっと快く引き受けてくれるでしょう。
あ、でも、今年声をかけられていたら大分先になってしまいますね。
それは喜ばしいことなので、ここはぐっと我慢をしましょう。
あ、そうだ魔王様!もしも衣装などが入用の時は私に聞いてくださいませ。
展覧会を見に行きましたので、良い腕の職人についての情報はバッチリですので。
ご気軽にお聞きくださいませ。
ちなみに展覧会への参加は情報機関としては重要な仕事だったりします。
今回の展覧会に訪れた場合は衣装を直接確認できるので良いのですが、展覧会に間に合わなかった方の場合はどの職人が良いのか分かりませんので。
大体5月頃に訪れる方もいますので、その時に案内が出来るように情報を収集をしているのです。
どの職人が良い衣装を繕っていたか知らなければ、案内することが出来ませんもんね。
そのために、まずは良い衣装を作っていた職人をチェックし、その後に依頼を受けた職人を確認するのです。
せっかく良い腕の職人を知っていたとしても、その職人が依頼を受けていた場合は
「ティルファ」には居なくなっていますので。
現在、どの職人が街に居るのか?依頼を受けた職人はどこに行っているのかを掴んでいる必要があります。
職人の所在については重要な情報となりますので。
本当に重要な仕事なのですよ。
さて、展覧会は3日かけて行います。
本日は1日目でしたので、後2日ですね。しっかりと調査しますよ!
展覧か終了後にまた連絡させてもらいますね。
そうそう、アルメーネに久しぶりに会いました。
魔王様は覚えておいででしょうか?
前の清掃活動で一緒に仕事をしたアルメーネ=フォロのことです。
あの時以来なので、2週間ぶりくらいでしょうか。
今回はある職人のお手伝いをしているようでした。
どうも、現在はその職人のお世話になっているとのことです。
大分賑わっていましたのでろくに話せませんでしたが、展覧会後に会う約束をすることが出来ました!
ふふ、2日後が少し楽しみになってきました!
魔王様も報告を楽しみにしてくださいね!
<追伸>
そういえば最近、組合長が良く愚痴をこぼすようになりました。
なにかと「俺は頼りないか」と聞いてきます。
いきなりどうしたのでしょうか?
まさかと思いますが魔王様、組合長にこの報告書についてなにか連絡したとかありませんよね?
信じていますからね!
もしも、組合長に連絡があったとしたら…すごく悲しいです。
なんで私に返事をくれないのかと、ちょっと嫉妬してしまいますね。
ふふ、冗談ですよ。ええ本当に。
埋もれた蛙