5
1029年03月18日
一昨日のことですが、待ちに待った行商が帰ってきましたよ魔王様!
毎回思ってしまうのですが、帰ってくる瞬間は少し感動してしまいます。
やはり久しぶりに会える人々が無事な姿を見せてくれるからでしょうか?
真っ赤に染まった夕暮れを背景に皆様が帰ってくる姿を目に入れた瞬間から、
少しだけ涙を流してしまいました。
少し恥ずかしいですが、ちょっとだけ涙脆いのです。
あっ、魔王様、決して泣き虫というわけではないので、勘違いはなさらないように。
ふふ、魔王様がそんな勘違いをするわけありませんね。
同僚の 絡まない蔦とかはすぐに泣いたとうるさいものでして、今回もからかわれてしまいました。
良い大人なのに、こどもみたいだとは思いませんか?
いやいや、絡まない蔦なんてどうでも良かったですね。
労いの言葉を皆様にかけて、みんなで宴会を行いましたよ!
行商が帰ってきた時はいつもそうなのですが、協会も組合もみんな早く仕事を
切り上げて町おこしでの宴会が始まるのです。
私達「シンデレ」もその日は早めに仕事を切り上げて、宴会の準備に向かいました。
「商業協会」が大きめのお店を提供してくれますので、行商が帰ってくるまでに
一通りの準備をしてしまうのです。
テーブルを並べ、料理や酒を運び入れる頃に行商が近くまで来たという合図の鐘が鳴り響きます。
後はみんなで出迎えるために街の入口へと向かうのです。
今回は東口の方面から帰ってきますので、東の出入り口でみんなで待ちわびた行商を迎えたのです。
外部から訪れている商人達は最初は何ごとかと驚いていますが、行商のことを聞く
と一緒に祝ってくれます。
街全体で宴会のようなものになりますので、早めに商売を切り上げなくてはなりません。
商人達にとってはあまり良い話ではないように思えますが、意外と快く宴会にも参加して頂けます。
行商と一緒に外の話をしてくれる商人もいます。
彼らも長く旅をしている人がほとんどなので、どこか懐かしいところがあるのかもしれませんね。
あと、積極的に情報を仕入れようとしているだけかもしれませんが。
宴会が始まれば、様々な酒や料理を口に運びながら、行商に参加していた方の話に耳を傾けます。
時々、珍しい品物を手に入れたとみんなに披露してくれる方もいましたね。
職人だと外で得た技術などを興奮気味に話していたり、質問が飛び交ったりと騒がしいものです。
私も広げない翼先輩から、行商の話をお聞きしました。
なかでも興味があったのは、大きな石がそびえる神殿らしき建物があったという話です。
どうも色々不明なところが多い神殿らしく、どこかの調査団が現在調べているそうです。
広げない翼先輩も興味を持ったみたいでして、神殿を調べようと思ったらしいのですが、その調査団が管理を主張して、神殿には入り込むことが出来なかったようです。
そこが心残りだと広げない翼先輩は言っていました。
行商の滞在期間を気にしなければ、きっと広げない翼先輩は神殿に忍びこんだかもしれませんね。
先輩はそういう人なのです。
しかし、興味ありませんか魔王様!
もしかしたら、魔王様なら神殿のことはご存知なのかもしれませんが。
もしも、調べる機会があった時は私にも声をかけてくださると嬉しく思います。
私がその神殿の謎を解き明かせて見せますので!
と、こんな感じに楽しく賑やかな宴会は夜通し続けられるのです。
次の日は大体みんな寝込んでしまいますけどね。
あ、私ですか?
魔王様ご安心ください。私はそこで酔いつぶれるなどの失態は起こしません。
お酒はほどほどにして、タイミング良く切り上げましたので。
そこの見極めも魔王様に仕えるなら当たり前ですよね。
しかし、色んな話も聞けて楽しい宴会だったのですが、一つ不満もあります。
それは、魔王様の話題があまりないことなのです。
確かに、援助金の話は話題に上がりましたが、それだけです。
私としては、もう少し魔王様の目的に気づくような聡明な方が他にもいるのでは?
と思っていたのですが、そこはいないようでした。
行商や外部の商人達から、魔王様の話題があるかと思っていたのですが、残念なが
らそれらしき話は出てきませんでした。
これも仕方ないのですよね。
魔王様はまだ表に出るための準備をしているところなのですから。
しかるべき時に魔王様が動き出したら、自然と魔王様の元へ集まることでしょう!
今は同志がいませんが、その分私が魔王様の力になりますのでご安心ください!
今まで以上に影よりご協力いたします!
<追伸>
前回の手紙に少し触れた広げない翼先輩のために用意したスープですが、さすが
に宴会では出すことは出来ませんでした。
でも、翌日のお昼には出すことが出来ました!
懐かしい味と楽しんで頂けたのは嬉しかったものです。
いつか魔王様にも味わって頂きたいですね。
これより、情報機関組合「シンデレ」は全員揃いましたので、これからの活躍に
期待くださいませ!
埋もれた蛙