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1029年08月29日
眩しい程に綺麗な果実はどうしても目を惹いてしまうものです。
さらに甘い味を想像してしまうような鮮やかな赤い果実でしたら、ジッと見つめてしまうのも仕方ありませんよね!
一口でもかじれば、口の中にとろけるような甘さが広がってくることを考えるだけでも、幸せに感じてしますもの!
そんな果実がなかなか手に届かないところに見えるのです。
でも、頑張れば届きそうなら、長いあくびをしていた怠け猫だって息を止めて必死になりますよね!
ふふ、いつも以上に頑張って、やっとの思いで手にした果実はより美味しいものへと変わることでしょう。
だけど魔王様?ここまで頑張って手に入れた果実が想像していたものとか全然違うものでしたら、どう思いますか?
とろけるような甘さを感じることはできず、とてもとても苦い果汁が日の中に広がっているのです!
ああ!手にした時は、小躍りをしてしまうほどに喜んでいた姿が哀れに感じてしまいます!
それはその果実の本質を見極めることができず、みっともない姿を見せてしまった自らが情けなく感じてしまうことでしょう。
せっかく手に入れた果実を放り捨ててしまっても仕方ありませんわ。
でも、魔王様。例えそんな状況になったとしても私はそんな情けない姿はお見せしませんからね!
口にした果実が想像した味でなかったとしても、しっかりと味わってみれば思わぬ美味しさへと辿り着けるかもしれませんもの。
たった一度口にしただけでは、まだ早い判断というものです。
ふふ、誰もが苦い苦いと捨てる果実を美味しく調理することができるのも重要だと思いますの!
そしてそれができるのが、あなた様の調査員「埋もれた蛙」なのでございます!
どうぞ、今回の報告をご堪能くださいませ!
それではさっそくですが、誰もが注目している綺麗な果実についてお伝えさせて頂きますね!
賢明な魔王様なら既に予測されていることでしょう!
そうです!何度見ても飽きることのないくらいに美しい石食い鳥についてなのです!
その美しい姿を細かに観察を続けてみましたが、もう!本当にコルマシオの洞穴で語られている石食い鳥が目の前にいるように感じられますの!
この気持ちを語り合うためにも、メイズラン商隊の手伝いをしている運び人から行商を共にしている商人や職人と様々な方とも話を聞いてみました!
それが残念なことに、素晴らしい石像だという声しか聞こえてこないのですよ!
これは不思議なことだと思いませんか魔王様!
石食い鳥が本物かを考察する声が少なかったこともありますが、石像の美しさを称える声が大きいのが不思議なものなのです。
だってこれはコルマシオの洞穴で語られている石食い鳥なんですもの!
本当に捕まえたのでしたらその功労者は声を大きく出していても不思議ではありません!
それに偽物で作ったものだとしてもですよ?これだけ素晴らしい石像を作り上げているのですから、職人が表に出てこないのはおかしいと思いますの!
そうなのです!石食い鳥の真実を見極めるのに難点なのが、捕まえた者も作り上げた者についても誰も知らないことなのです!
多くの方から話を聞いてみても、それらに関する話があがってこないのが不思議で仕方ありませんでしたよ!
でも、でもですね!こんな人々の中にもなかなか面白い話をしてくれる人にも出会えるものです。
石像について聞いても反応が薄かった方ですが、コルマシオの洞穴について語っていると熱く絡んでくる人がいましたの!
そう!こういった人に出会いたかったので、とても有意義な語り合いができましたよ!
もちろん、石食い鳥だけでなく、壁を黒く浸食する影となかなか面白い考えをする方ですの!
その方は石職人だったためか、石食い鳥や壁を浸食する影はそういった特性の石があるのではないかと言いますのよ!
それらの石を使ってコルマシオが語っているような現象が起きたんじゃないかですって!
これを聞いたら、ますます胸が熱くなりますよね!
やはりコルマシオの洞穴で語られていたことは本当だったかもしれませんもの!
だけど、これだけ熱く語られてしまうと私だって負けていられませんよね!
思わず言ってしまいましたよ!メイズラン商隊が運んでいる石食い鳥に感じた違和感についてを!
ふふ、魔王様?
思わず言った言葉から相手の反応が変わるというのは、怖くもあり、楽しいものです。
好奇心に満ちた目が職人の鋭い視線へと変わってきましたもの!
石の脆さについて私が語った時の真剣な眼差しは、誇りをもった職人であることが伝わってきましたわ!
そして、顔を傾けて小さく失敗したと呟くのです…
ええ!魔王様!もうお気づきでしょうが、この時に語り合っていた石職人"イスキーン=ネンルゥ"こそが石食い鳥を作り上げた人物だったのですよ!
あぁ!この真実を掴んだ瞬間の衝撃が分かりますでしょうか!?
感じた違和感が正しかったと調査員の勘が正しかったと喜ぶ気持ちと、あの素晴らしい石食い鳥は本物ではなかったという真実を知ってしまった悲しみが入り混じってくるのです!
もう!少しばかり涙が溢れ出てしまうのも仕方ありませんよね!
本当…なんともいえない気持ちでしたのよ…分かりますか魔王様?
まったく、二人してうつむいてる姿は少しばかり滑稽な光景だったかもしれませんね。
ただ、こういう状況だからこそ聞ける話なんてものあるのですよ。
魔王様も気になっていると思いますが、"イスキーン"が石食い鳥を作ったことを伏せていた理由についても聞けましたのよ。
それは熱いコルマシオの洞穴に対する想いが伝わってくるものでしたの!
そう、彼は自分の石職人としての力を全力で表現し、コルマシオの洞穴で起きた現象を再現しようとしていたのです。
誰もが石食い鳥が居ると信じてもらいたかったため、自分が作り上げたことを黙っていたようなの!
自分が作った石像も自信があったのでしょう!作ったことを伏せていれば本物の石食い鳥と信じてくれると思っていたようですね!
確かに彼の熱い思いが詰まった作品は、本物の石食い鳥が目の前に居ると感じてしまうものでした。
でも、コルマシオへの想いは私の方が強かったのでしょう!
彼も気づいてなかった欠点に気づきましたものね!
さて、失敗したと嘆いたとしても、その目はまだ諦めていないというのは見ていて嬉しくなるものです。
苦い果汁が口の中に広がっていたとしても、近くの草花を噛みしめてみると思わぬ味へと変化するかもしれませんしね。
どうも、石食い鳥の脆さを表現するものに心当たりがあるようなのですよ。
元々目をつけていた石だったみたいなのですが、ただ加工が恐ろしく難しい性質を持っているのですって。
ものすごく壊れやすい石みたいなのですが、日を浴び続けると薄い色から濃い色へと変わっていく珍しい材質みたいなのですよ!
ねぇ、魔王様?どこかで聞いたことある材質だと思いませんか?
そう!魔王様が知りたがっている"ドルペトロス"ととても良く似た材質なのですよ!
その石は"ドルペトロス"とは違って、薄らと赤い色から濃い赤へと分かっていくみたいですが、同じような材質は結構あるのかしら?
どうやらその石はシェロームでは昔から外の仕事をする人達が使うんですって。
丸く加工した石を頭に巻きつけておいて、色が濃く染まったら外の仕事を終えるようにするみたいですの。
確かにずっと働いていると気持ちが悪くなる時もありますものね。
なかなか考えられているもののようです。
さて、"イスキーン"は色が変わる材質と割れやすいほど脆さから、これを加工する技術があれば今回の違和感も解消できると言っていましたね。
ただ、あの石食い鳥と同じものを作るのに、割れやすい石はかなり厳しいみたいですけど…
でも!そんな熱い想いを伝えられたら、私も協力してあげたいと思いますもの!
彼が作ったものが私の目から見ても本物と感じるのであれば、それを本物として語るのも良いかもしれません。
まぁ、そのためには石食い鳥に相応しい石を見つけないといけないのですけどね。
シェローム付近にある石は赤色なので、綺麗な青色の石食い鳥には使えませんもの。
これは情報を集めていかないといけませんね!
どうでしょうか魔王様!なかなか有益な情報を得ることができたのではないでしょうか!
今回の報告は以上となりますが、他の調査員には掴むことができなかった真実をお伝えさせて頂きました!
優秀な石職人である"イスキーン"とも出会うこともできましたし、今まで謎だった宝石時計についても少しずつ先へ進めるかもしれません!
是非とも今後の報告も楽しみにしてくださいね!
埋もれた蛙
<補足>
・コルマシオの洞穴ほらあな
嘘吐きコルマシオが不可思議な体験をした洞穴の
出来事をまとめたもの。
石を食べる鳥や、小指ほどの大きさで悪さをする
不細工な犬に、黒い影に浸食されていく壁などの
話がある。
嘘吐きコルマシオの話では特に現実的ではない話
ばかりなので、存在しないものという意味でも
"コルマシオの洞穴"という言葉が使われている。
・石食い鳥
コルマシオの洞穴で語られる生き物。
石を食べる世にも珍しい鳥であり、食べ続けて
いると青く綺麗な羽を生やしていく。
調子に乗ったコルマシオが大量の石を食べさせ
たところ、とても綺麗な姿の鳥となったが、
石を食べ過ぎたことにより自らも石となって
しまったという。
青く綺麗な鳥の石像を街の人々に見せびらか
そうと持ち運んでいる最中に、手を滑らせて
落としてしまい、粉々に壊れてしまった。
その様子を涙ながらに語るコルマシオの語りは
好評だったとのこと。
・メイズラン商隊
ラルグシラ川周辺で幅をきかせている商隊。
メイズラン家が主に融資している商隊である。
ウネクワとスラームアサを主に扱っている。
・シェローム
ラルグシラ川の上流に位置する街。
鉱石が採れ、鉱石を加工する職人が多くいる。




