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1029年08月13日
急ぎ足で神樹の元へと向かう旅人は、何かと焦った視線で街を眺めていくものです。
すぐにでも神樹の元へと足を進めたい旅人は、最低限なものだけの商品を求めて街をまわるようにしているのでしょう。
無駄に立ち止まらないようにと注意して商品を探す彼らの目は、大体は落ち着きを失ってしまっているものです。
そんな彼らを狙って黒い布に並べられる商品が、この時期では良く目にしますね。
落ち着いて商品を眺めれば、それらを手にすることなんてないでしょうに、求めぬものを買い取ってしまう旅人の姿を良く見かけるものです。
せっかく手に入れた商品を歪んだ表情で見つめる様子を見るのは、なかなか気持ちの良いものではありません。
そんな姿を薄ら笑みで嘲笑うのは、黒い商人や三流の調査員といったところでしょう。
落ち着きを失った彼らにこそ救いの手を差し伸べ、道しるべとなってあげることが一流の調査員というものですもの!
道しるべを得た彼らは、街中で多くの足跡を残すもなく先へと進めることができますからね!
影から差し伸べられた手により、歪んだ表情を和らげることが私達、情報機関組合「シンデレ」の活動というものです!
一人での活動は寂しくも感じますが、多くの足跡が「マッカーニア」へと続くこの時期は慌ただしくも活動をしています!
神樹祭が終えても祈りを捧げる旅路へ向かう方々が多くいらっしゃいますからね。
魔王様は今頃も「マッカーニア」で様々な方と交流を深めていると思いますが、もう溢れるほどの人波に晒されてはいないでしょうか?
優秀な付き人がいらっしゃいますので、大丈夫と思いますが、お怪我をしていないか心配となってしまいます。
人が多くなればそれなりに危険にもなりますものね。
ああ、私も近くに居ることができればそんな心配もしなくて済むのに!
本当に残念に感じてしまいます…
と、お傍に居れないことを嘆いているだけでは、魔王様の力になることなんてできませんよね!
そこで、やはり魔王様の力になるために、いつも通りにお役の立てる情報をいち早くお伝えさせて頂きたいと思います!
早めに報告書を送りますが、実際に魔王様が目に通すのは「マッカーニア」での交流も終えて、長い長い旅路から帰ってきた頃となっていることでしょう!
大体6日後あたりになっているのかしら?
もう!本当にお疲れ様なのですよ!
きっと、帰り着いたばかりで疲れを感じる身体でも、お優しい魔王様はこの報告書へ目を通してくださっているのでしょう!
そんな魔王様のためにも!旅の疲れを癒すとっておきの情報からお伝えさせて頂きますね!
この情報はとても自信がありますので、是非ともご期待くださいませ!
さて、疲れを癒すためには暖かい食事や安らかな睡眠が良いものと聞きます。
あの凛々しい付き人でしたら、それらを用意していることでしょう。
ただですね、旅も終えて落ち着ける場所でしたら、さらにマッサージをするとより疲れも癒されるというものです。
浴場で旅の汗を流した後に、身体全体へマッサージをするとですね!それはもう!気持ち良くて仕方ないくらいになりますもの!
誰かにやってもらうのが本当に気持ち良いですので、それらを生業とする方を雇うと良いでしょう。
あっ、魔王様でしたらマッサージの得意な従者の方もいらっしゃるかもしれませんね。
魔王様の命であれば、皆さん気合を入れてマッサージをすることでしょうから、気持ち良いに決まってます!
ああ!想像しただけでも心地良さを感じることができるのではないでしょうか!
もう!私も誰かにマッサージをしてもらいたいものです。
人を雇う余裕なんてないので、普段は広げない翼先輩とお互いをマッサージしたりするのですが、今は居ませんもの…
やはり、少しばかり寂しく感じてしまいますね。
と、いけませんね!気持ちを切り替えて、続きの情報をお伝えさせて頂きますね!
ここまでの情報でしたら、それなりに高貴な方であれば当たり前に知っているので、これがとっておきなのかとお疑いを得ていることでしょう。
ええ、もちろん魔王様!あなた様の調査員である「埋もれた蛙」がこの程度の情報で終えることなんてありませんからね!
普通にマッサージを受けるだけでも疲れは癒されるでしょうが、さらに一工夫をすることでより心地良さを感じることができるようになるのですよ!
ふふ、とても気になりますよね?
それはですね、特別な香油をマッサージに合わせて利用して頂くことなのです!
マッサージには欠かせない香油ですが、魔王様は良いものを利用しているでしょうか?
失礼かもしれませんが、あまり良いものを使ってないかもしれません。
そこで!勝手ながら「埋もれた蛙」があなた様にとっておきの香油を送らせて頂きました!
今回の報告書と合わせて送っていますので、今頃は魔王様の手元にあるのではないでしょうか?
その香油ですが、とても滑りが良いものでして、「ティルファ」でもそれなりに人気のあるものとなります。
急ぎ足の旅人も落ち着かない目で探してしまうほどの商品でして、旅の疲れを少しでも癒そうと求めているのですよ。
「ティルファ」で豊富にとれるフェジールから煮出した油で作られた香油ですので、他では手に入らないのもあるでしょうけどね。
少しばかり生臭く感じるのが難点ですが、活気を与えてくれるフェジールが含まれているので、身体はとても楽になります!
匂いも他の香油やフユズの実をこすりつければ、気にならなくなる程度のものですしね。
怪しいものはではありませんので、是非ともご利用くださいませ!
この時期は神樹祭で疲れた方から、良くマッサージの依頼を受けることがあるのですが、この香油を利用しますととても喜んでくれるものです。
旅に慣れてない方は足も痛めていますので、合わせて塗り薬もつけてあげたりもします。
神樹祭が終わったからと、街の人々へのフォローも終えるわけではありませんからね。
良い商品を作ってもらうためには、身体は大事にして頂きたいですもの!
それにですね、精いっぱいの気持ちを込めたマッサージで心地良くなる姿を見るのもなかなか楽しいものもありますからね。
ただ、そんな心地良い姿を見たせいか、色んな方からマッサージの依頼を受ける羽目になってしまうのですよ!
香油を利用するから浴場でマッサージしているのですが、それがいけなかったのかしら?
どうも、私がマッサージを生業にしていると勘違いしている方が多いようなのです。
貴族の方などに偉そうに依頼されると嫌になることもありますが、手を抜いたりなんかはしませんからね!
依頼を受けた以上はしっかりとそれをこなすのが、立派な調査員というものでしょう!
それですね、私の作った香油を楽しみにしてくれて、マッサージをしていくと心地良い姿を見せてくれるのは、とてもとても嬉しく感じてしまいますもの!
そこで、ついつい疲れ切ってしまうほどに依頼を受けてしまうのですよ…
あー、思い出したら何だか眠気がしてきましたね。
えーと、魔王様の気持ちもマッサージへと大きく傾いてしまっていると思いますが、まだお伝えしたいこともありますので、もう少しお付き合いくださいませ。
魔王様の気持ちが冷めないうちに報告を終わらせたいと思いますので、少しばかり駆け足とさせて頂きますね。
現在「ティルファ」では、神樹への祈りを捧げるための信仰者が多く訪れています。
とは言っても、早く祈りを捧げたいためか、早々に駆け抜けていく方々ばかりですけどね。
「マッカーニア」までの旅路はそれなりに長いのですから、ここでゆっくりしても良いと私は思うのですが、熱心な神樹信仰者にはそういった方はいないのでしょう。
ただですね、すぐに先に進めたいとしても、旅には必要となるものが出てくるものです。
必要なものを急いで探そうとするのですが、商品へと目を向けた瞬間に心を奪われてしまうことなんて想像に難しくはありません。
だって魔王様、ここは商業都市「ティルファ」なんですもの!
魅力的な商品に引き付けられてしまってもおかしくなんてありませんわ!
「ティルファ」としては、多くの商品を買い取ってくれるかもしれないこの状況は喜ばしいことと言えるでしょう。
でもですね、私としてはせっかく買い取った商品を前に途方にくれた顔なんて見たくはないのです。
それに神樹への祈りを理由に初めて「ティルファ」へ訪れる方も多くいます。
そんな目利きができない彼らを狙って、粗悪な商品を掴ませようとする商人も中にはいるものです。
本来は質の悪い商品を扱う商人に場所なんて提供しないのですが、商業協会も人手不足なのでしょうね。
この時期にはそれを狙ってなのか、そんな商人が少しばかり現れてしまうのですよ!
このままにしておくと「ティルファ」の質だって落ちてしまうかもしれません!
そこで私達、情報機関組合は必要なものを彼らから聞き出し、素早くその商品が手に入る場所へと案内をしているのです!
全体的に人手不足となっていますので、他の組合とも協力しての活動となります。
慌ただしくもありますが、重要な仕事ですのでやりがいもあるというものです。
それに案内した旅人から感謝もされますので、やる気だって溢れてきますもの!
そうなのですよ魔王様!マッサージするだけが私の仕事ではありませんからね!
ふふ、既にお分かりのことでしたね。
失礼いたしました。
さて、今回の報告はここまでとさせて頂きます。
それでは魔王様、マッサージを存分にお楽しみくださいませ!
<追伸>
そういえば書き忘れていたのですが、香油以外でも塗り薬を
合わせて送らせて頂きました。
こちらもフェジールが含まれているので、良く効きますよ。
魔王様は大丈夫かもしれませんが、旅慣れていない方もいる
と思いますので、是非とも皆さんでご利用くださいませ。
埋もれた蛙
<補足>
・黒い布に並べられた商品
「シンデレ」の隠語。
意図的に並べられている粗悪品のこと。
・フェジール
危機に達すると油を分泌して身を守る魚。
ラルグシラ川で良くとれる魚であり、珍しくもない。
特別美味しくもない魚だが、昔から食べると活気を
得ることができると信じられている。
疲れた時にはスープにして飲むよいという。
・特別な香油
「ティルファ」では良くとれるフェジールを上手く
利用できないかと考え、試しに香油へ含めてみたら
心なしか滑りが良くなったような気がするもの。
実際に効果が向上するかは怪しいところ。
・特別な塗り薬
香油と同様にフェジールの油を加えられたもの。
元々は軟膏みたいな薬だったが、油を加えたことで
多少塗りやすくなっている。
少し生臭く感じるため、あまり好まれてはいないが、
良く効くと信じられている。




