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軽やかな音を奏でるウメバニラッタが恥じて木の枝を隠す気分です。

魔王様、先日の報告では大変失礼いたしました。

トーチャックの首飾りが完成したことに気が緩み、大切なことを伝えていたなかったことに気づいたのです。

まったくもって恥ずかしい失態です。

音を奏でることが得意なウメバニラッタが楽器でもある木の枝を壊してしまうようなものなのです。

どうぞ、見限らないでくださいませ。


魔王様に伝えたかったことですが、今回の依頼人でもあったお嬢様のことなのです。

依頼中は不本意ながらお嬢様のお世話をさせて頂きましたので、多少はどういった人物であるかは分かっています。

お嬢様の「シャリーム=ペネルギ」は、「ティルファ」の北を流れるラルグシラ川を越えた先の街からやってきたみたいです。

「ベリゲーニ」というそこそこ大きな街みたいでして、中央の広場に大きな花時計があるのが自慢のようです。

様々な花で色づく広場はそれは美しいようです。

芸を行うものや露店を開くものと、どこも一緒かもしれませんが、なかなか栄えているようです。

その広場で日傘をさして、エキャンペの砂糖漬けを食べながら談笑することが楽しみと言ってましたね。


それでですね、魔王様。

日傘を従者の方にさしてもらうようなのですが、その日傘は珍しい材質で制作されたものや、目をひく装飾品で着飾っているようです。

そして、その日傘をお互いに見せ合って、褒め称える遊びがあるようなのです。

相手の日傘に使われている材質や装飾品を見抜いて、いかに綺麗に褒め称えることが出来るかを競っているんですって。

細かいところまで注意深く観察しないと見落としてしまうことがあったり、色んなものについて勉強しないと言い当てることも出来ないので、とても勉強になるそうですけどね。

しかし、良く分からない遊びとは思いませんか?

私は様々な職人たちを見てきましたが、材料や装飾品の細工などはあまり覚えていません。

私たちが必要とするのはあくまで腕が良いかどうかなので。

何を主に制作しているかくらいは確認しますけどね。


そんな良く分からない遊びをお嬢様は楽しそうに説明してくれるのですよ。

誰も気づけなかった装飾品に気づくことが出来たなどと、成果も話してくれるのです。

お嬢様は自分の日傘を細かいところまで着飾らせて、相手が見落としてしまったところを指摘するのが特に楽しいと言っていましたね。

やはり、こんな遊びをするなんて貴族しかないと思うのですよ魔王様。

裏をとっているわけではありませんが、話を聞く限りは「ベリゲーニ」ではそこそこに大きな貴族なのではないかと思っているのですよ。


もしかしたら魔王様は、ペネルギ家を聞いたことがあったりはしませんでしょうか?

聡明な魔王様ならば、知っていても不思議には思わないのですがどうでしょうか?

もしも知らない貴族だったとしても、覚えておいても良いかもしれません。

思わぬところで役に立つかもしれませんからね。

私もお嬢様とは今回の依頼により、なかなか仲良くなれたのではないかと思っています。

少なくても日傘褒めの遊びに誘われる程度には顔を売れたと思います。

あ、日傘褒めの遊びは丁寧にお断りさせて頂きましたけどね。

あの遊びは、私では疲れるだけのような気がするのです。


ペネルギ家に何か用件があるときは是非とも私に声をかけてくださいませ!

お嬢様を介してペネルギ家へ話を持っていってみせましょう!



以上が魔王様に報告しておくべきだったことについてなのです。

こんな大事なことが抜けてしまい、申し訳ございませんでした。




さて、長くなってしまいましたが、これからが本題ですからね魔王様!

そう、先日やっとアルメーネと浴場に行ったことについてなのですよ!

とても楽しい時を過ごすことが出来ましたので、是非とも魔王様にも知って頂きたいのです。


そういえば魔王様は浴場はお好きでしょうか?

中には浴場を嫌う者や、その習慣自体があまりないところもあるようなのですが、魔王様のところはどうなのでしょうか?

確か魔王様は「ティルファ」よりも西の方に住んでいると思いますので、浴場が比較的にある地域だったと思います。

西には神樹を祭ってあるところがたくさんありますので、体を清めるための浴場が多いと聞きましたので。

あー、これはアルメーネから聞いた話なのです。

アルメーネは西の方から旅をしてきたようですので、こういったことも詳しいのですよ。


東の方はあまり浴場がある街は少ないと聞いたことがあります。

ある大きな葉を棒に巻き付けてから、その棒で体にこすりつけて汚れを落とすようなのです。

慣れても痛いと 広げない翼先輩が言っていました。

前回行った行商では、そんな風に体の汚れを落とすことも多々あったようです。

私としては、西の方に行きたいものですね。



えーと、それでですね、「ティルファ」は浴場にはこだわっているところが多少あるのですよ。

実は「ティルファ」の誇るものの1つかもしれませんね。

浴場は2つありまして、中央区と一般生活区に1つずつです。

商業協会と清掃協会が管理していますので、なかなか立派なものですよ。

特に中央区の浴場は大きく、広くて気持ちの良いものです。

清掃協会の方が定期的に湯の張り直しもしていますので、清潔感も他では感じられないかもしれません。

中央区の浴場は宿に近いこともあって、貴族や商人などの外から訪れる方が基本的に利用しているのですけどね。

魔王様が「ティルファ」に訪れた時もおそらく中央区の浴場にはいったのではないでしょうか。


広々としているし、フユズの実やトロヤシの実も大きなものが取り揃えられていますので便利なのですよ。

しかし、少し高いので私はいつもは一般生活区の浴場を利用していますけどね。

中央区と比べると狭いし、夕方からしか開いてなかったりと不便なところもありますが、普段の生活では十分なのです。



アルメーネと一般生活区の浴場で楽しく語らい合おうかと思っていたのですが、丁度その時はお嬢様のお世話をしていた時でもありましたので、3人で中央区の浴場に行くことにしたのです。

ええ、お嬢様とも交流を深めることが出来るので、実に都合が良いとも思いましたので。

魔王様、私「埋もれた蛙」はただ言われるままにお嬢様の世話をするだけではないのですよ。



しかし、見知らぬ地を出身としている方との交流は驚きや発見があるものですね。

ここよりもずっと西から旅をしてきたアルメーネの話は刺激的なものなのです。

浴場の話題だけでもこことの違いを教えてくれるのです。

体を洗うのにフユズの実を使わずに、別の何か布のようなもので体を洗う地域があるようなのです。

少しゴワゴワとしていますが、甘酸っぱい香りのするフユズの実を使う方が良いと思うのですが、アルメーネはその布のようなものの方が良いみたいです。

初めてフユズの実で体を洗っている姿を見た時は驚いたとも言っていました。

不思議なものですね。


でも、一番驚いたのはトロヤシの実でみんなが喉を潤していたことみたいなのです。

どうも、西の方では浴場に飲み物は持ち込まないみたいなのです。

喉が乾いてしまったらどうするのかと少し不思議に思いましたね。

トロヤシの実を飲みながらの会話が楽しいというのに、もったいないことです。

まだ慣れないようでして、一緒に浴場へ行ったときもトロヤシの実は買っていませんでしたね。

私はお嬢様と2人で飲みましたけどね。

やはり一般生活区の浴場で売っているものよりは質が良いみたいで美味しいものでしたね。

火照った体に染み渡りますね、口の滑りもよくなりますし。



そういえば、お嬢様はいきなり湯に花を浮かべたいなんて言ってくるのです。

花が浮かんでいる湯に浸かるのは落ち着くからと言ってましたね。

どれくらいの花を浮かべるつもりなんでしょうね。

あ、でもお嬢様が住んでいる街「ベリゲーニ」は花が自慢みたいでしたので、そういうものだったりするのかもしれませんね。

その時は気づけなかったので、少しお嬢様を笑ってしまいましたが、きっと気にしていないと思います。

少し睨まれてしまいましたけどね、やっぱり怒っていたかもしれませんね。



といった風に浴場の交流で心を深めて、情報も獲得していたのですよ。

浴場は様々な方が訪れますし、長く話出来る場でもあるので私は結構重宝するのです。

情報を取得する良い場所だったりもするのですよ。

もちろん、単純に会話が楽しいのもありますけどね。

ほとんどそちらがメインだろとか言わないでくださいね魔王様。




魔王様も「ティルファ」に訪れることがありましたら、是非とも浴場も楽しんでくださいませ!




<追伸>


 シャリームお嬢様ですが、ちゃんと従者の方がいるのになぜか私に世話をさせていたのです。

 基本的に私に用を言いつけるのですが、ドレスの着付けなど私が対応できないような用事の時は従者の方を呼ぶのです。

 最初から従者の方を利用してくれれば、私も楽だったような気がするのですけどね。


 しかしですね、その従者の方は呼ばれるまでは、まったく気配を感じないのです。

 呼ばれればすぐにどこからか現れるのにです。

 何となく同業者のようなにおいを感じますが、少しかないませんね。

 あの身のこなしは凄腕ですよきっと、私でも気配が読めませんからね。


 魔王様の調査員としてもっと腕を磨かなくてはいけないと感じました。

 負けっぱなしで終わる気はありませんので、魔王様も安心してくださいね!



                                                                     埋もれた蛙



<補足説明>


○ウメバニラッタ

 ネズミのような生き物、中が空洞になっている木の枝を使って音を奏でることが好き。

 1つの木の枝を大事に使う習性があり、早くに壊したり亡くしたりすると落ち込む。

 普段は人懐っこいが、木の枝がないと素早く逃げてしまう。

 その姿が何だか恥ずかしがっているようにも見える。

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