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壊滅の魔人 ~最後の一人まで、俺は人間を殺し続ける~  作者: ぶらっくそーど


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勇者アルス


 二度目の王都が見えた。


 前は丘の上から眺めて、臭い下水路を這って忍び込んだが、今回は違う。


 正面の門に向かって走っている。


「レイド、正面から行くの?」


「ああ、そのつもりだ」


「前みたいに、下水路から行った方が――」


「遅くなるだろ。フィーネが何をされているか分からない……直ぐに、助けに行かないと」


 フィーネは捕まっている、泣いている。「にいさんが来る」と信じて、ずっと待たされている。悠長に時間を掛けて、下水を這ってる暇はない。


 門が迫ってきた。城壁の上にずらりと弓兵が並んで、門の前には盾持ちが百人以上固まっている。前回の侵入で警備を倍にしたらしいが、倍にしたところでどうにもならないことを、今から教えてやる。


「そこの魔人、止まれぇ! 総員、絶対に門を開けるな! 弓を放て――」


「スキル――《スラッシュ》」


 走りながら振った。


 斬撃が門に当たった瞬間、木と鉄の塊が真ん中から裂けて爆散した。門の破片が散弾みたいに飛び散って、門前に固まっていた盾持ちの列に叩き込まれる。盾ごと体を貫かれた奴、腕が千切れて飛んだ奴、鎧の隙間から木片が刺さって血を噴いている奴。一振りで百人が地面に散らばった。


「放て――放てぇ!!!」


 城壁の上から矢の雨が降ってきた。――が、全部折れた。肌に当たって乾いた音を立てて砕ける。もう慣れた、弓矢なんて羽虫みたいなもんだ。


 門の残骸を踏み越えて、王都の中に入った。


「魔人だ! 門が破られた! 至急報告を、魔人が王都に――」


 大通りに騎士の一団が突っ込んできた……十五人くらいか。


 先頭の奴が叫びながら剣を振りかぶっている。


「スキル――《スイープ》」


 体ごと回した。衝撃波が全方位に広がって、十五人がまとめて吹き飛んだ。鎧が砕けて、中身がばらける。先頭の奴は上半身と下半身が別れて、それぞれ違う方向に飛んでいった。大通りの石畳に赤い線が放射状に走る。……全部血だ。


 止まらない、走る。


「ミラ、大聖堂はどっちだ!」


「まっすぐ、突き当たりを右だよ」


 走りながら前方に飛び出してきた騎士を《スラスト》で貫いた。鎧の胸を突き破って、背中から剣先が出る。引き抜くと騎士が崩れ落ちて、地面に血だまりが広がった。


 角を曲がった。馬鹿でかい白い建物が目の前にそびえている。塔が何本も突き立っていて、正面の扉の前に白い鎧の連中が並んでいた。聖騎士だ――ローランの部隊とは別の奴ら。


「来たぞ! 聖陣を展開しろ――!!」


「スキル――《殺気縛鎖》」


 六人まとめて殺気で縛った。白い光を展開しかけていた奴らが、一人ずつ膝をついて硬直していく。口が開いたまま声が出ない。目だけがぐるぐる動いている。意識はあるのに体が動かない――その恐怖が、顔に張りついていた。


 俺は聖騎士たちの顔を蹴り潰しながら走り抜けて、大聖堂の扉を蹴り開けた。



    ◇



 中は広かった――なんてどうでもいい。


 奥に祭壇がある。その手前に人影が二つ。


 一つは、でかい男だ。坊主みたいな格好をしていて、やたら偉そうに立っている。こいつがイグナスだろう。


 そして、もう一つは。


「……フィーネ!!」


 祭壇の前の椅子に、フィーネが縛られていた。手首に縄が食い込んでいて、顔が腫れている。泣いた跡が何本も頬に残っていた。着ている服は汚れて、裸足だ。三日間、ろくに扱われていなかったのが一目で分かる。


 腹の底から、熱いものがせり上がってきた。


 怒りじゃない。もっと奥の、もっと黒い何かだ。腕の刻印が一斉に灼けて、体から黒いモヤが噴き出した。大聖堂の空気が歪んで、床の石が軋みを上げる。


「に……にい、さん……?」


 フィーネが顔を上げた。


 全身に赤く脈打つ刻印、赤い目、体から漏れ出す黒い圧――あの夜と全く違う姿の兄を見て、目が震えている。


 怯えているのか……そうだろうな。こんな姿で来て、怯えないわけがない。死んでいる人間が立っていて、怖くないわけがない。でも、それでも俺は、にいさんだ。


「ああ――俺だ、フィーネ。約束通り、迎えに来た」


「にい、さん! にいさん……にいさん!!」


 フィーネは堰を切ったように泣き出した。縛られた手を必死に伸ばそうとしているが、縄に引かれて届かない。


 ――俺が走り出そうとした瞬間、イグナスが動いた。


「止まれ、魔人」


 でかい声が大聖堂に反響した。こいつ、声だけは立派だな。


「お前が動けばこの少女に何が起きるか、分かっているのだろうな」


「……離せよ、フィーネを解放しろ」


「まあ聞け。お前は聖なる犠牲を否定し、王国の秩序を破壊した。だが、考えてもみろ。お前がこの国を滅ぼそうものなら――」



 俺は地を蹴って走り出した。イグナスの話なんか聞いてる暇はない。フィーネが泣いている。あいつの縄を切る。


 だが、その時――。


「スキル――《ホーリージャッジメント》!」


 イグナスの手から、白く輝く光の柱が落ちてきた。


「っぐ――!」


 ()()。ローランの聖陣より、更に熱い。《殺気強圧Ⅱ》で削っているはずなのに、肌が焼けるような熱が体を突き抜ける。腕の刻印が白く灼けて、皮膚の表面で血が蒸発する音がした。


 でも、止まらない。足を前に出す。一歩、二歩……光の中を歩いている。


「馬鹿な……《ホーリージャッジメント》の直撃を受けて、歩いている……だと!?」


 イグナスの顔がぐにゃりと歪んだ。初めて余裕が消えた、いい気味だ。


「にいさん……にいさん!!」


 あと十歩……あと五歩。手を伸ばせば、フィーネに届く――


 と思ったその刹那、横から何かが飛び出してきた。


 反射的に練習用の剣で受けた。金属と金属がぶつかる衝撃が腕を走って、体が横に吹き飛んだ。石の柱に叩きつけられて、柱にひびが入った。口の中に血の味が広がる。


「がっ……!!」


 何だ――今のは、何だ。


 大聖堂の入口から、誰かが歩いてきた。


 そいつは……同い年くらいのガキだった。


 白っぽい鎧を着て、光る剣を片手に持っている。こいつの周りだけ、空気が違う。俺の魔力が漏れ出しているはずの空間が、こいつの近くでは()()()()()。黒いモヤが、こいつの周りから消えている。


 何だこいつ……何だ、この圧は。


 イグナスやローラン、グレイスにもない――もっと根本的に、存在の質が違う。こいつが一歩踏み出すたびに、大聖堂の空気が震えている。


 ミラが言っていた――『世界の合意』の中心にいる存在、俺とは正反対の力。三百年生きてきた悪魔でさえ、一度も近づきたくなかったもの。


 ローランが言っていた。


 勇者に挑めば、お前は死ぬ。


「――『勇者アルス』。大司教の要請で馳せ参じた」


 ガキの声は静かだった。敵意はない、恐怖もない。むしろ、悲しそうな目をしている。とても人殺しに来た奴の目じゃない。


 だがさっきの一撃は――あれは《殺気強圧Ⅱ》のしきい値を軽く超えていた。低減すら追いついていなかった。体の芯まで衝撃が通って、口の中が切れている。


 一撃で、これか。


「悪いけど、ここで君を止める。それが『勇者』としての、僕の役目だから」


 勇者の剣が、赫々(かっかく)と光り輝いた。


 体が叫んでいる――逃げろ、と。頭じゃない、体が。《殺気強圧》が、《殺気爆発》が、刻印の全部が、こいつの前では意味をなさないと告げている。


「にいさん!!」


 フィーネの声が聞こえる。あと十歩先にフィーネがいる。


 けれど目の前に、勇者が立っている。


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