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第3話

 歩き続けて、どれくらい経っただろうか。分からないが、ユーリの足がガクガク震えている。


 魔石は10個。あれからも何体か魔物を倒した。足以外にも、腕も震えているし、息だって荒い。しかし、引き返す気はない。


 そしてーー


 通路が途切れた。何か大層な大扉があったのだ。


「…………なにこれ?」


 これは、冒険者用語で、ボス部屋と呼ばれるものだ。迷宮の主が座する場所。しかし、ユーリには知識が無い。だが、こんなもの坑道時代には無かったはずだ。


「…………開けてみるか?」


 少しだけ休息を取り、ひとまず身体の震えは治まった。まあ、疲労は一切取れてないが。


 扉に手をかけ、いっぱいの力で押し込む。


 中には巨大な空洞。


 石柱が円形にならび、中央にそれはいた。


 白い。


 長い。


 そして、太い。




「……………は?」


 声が出たのは仕方ないと思う。


 とぐろを巻いた巨体。

 人の胴など軽く呑み込める口。

 鱗は刃のように光り、黄色の瞳がこちらを見ていた。


 迷宮最奥の主。


 大白蛇だ。


 ユーリは勢いよく扉を閉めた。


「いや………無理じゃね?」


 即答だった。

 あんなん剣がどうのこうのという話では無い。生物としての格が違う。絶対に正面から殺せる相手ではないというのがありありと伝わってきた。


「やっべえな、帰りたくなってきた」


 先ほど引き返す気はないとか思っていたのに。

その決意は規格外の相手によってバリーンと砕かれたようだ。


「だけど……なぁ、あの奥の部屋ってやっぱそうだよなぁ」


 先ほど覗き込んだ時にチラッと見えた場所があった。それは木造の扉で閉められた部屋だ。あそこは元々の坑道で見たことがあった。


「あそこだよなぁ、大金へそくりの隠し場所って」


 この坑道で働き始めてから何度も借金取りがあそこに女を連れ込むのを見た。何度も、何度も私的な用で使用してきた部屋だ。隠すならそこしかないと思っていたが、まさかあんな守護魔物ガーディアンがいるとは思うはずがない。


「………もしかしたら気付かれずに行けるかも」


 その場で出来ることで少しでも生存率を上げるために考え始めた。そして浮かんだ一つの案はおそらく有効だろうとユーリは来た道を引き返した。



『グギャ……ギィイ……!!」


 しばらく経った後、ユーリは1体の小鬼を捕まえて戻ってきた。拾ったロープでぐるぐる巻きにされている。


「迷宮の魔物同士は同種族じゃない限り敵対関係じゃない……!」


 ユーリがこの迷宮を探索して気付いた法則のようなものである。


「多分、地上の食物連鎖みたいなものなんだ。弱い奴は強い奴に食われるみたいな」

『グギャ!?ギィ!ギィ!ギィ!』


 自分がこれから何をされるか気付いたのだろう。小鬼が一生懸命首を振り出した。横に。


「だから、ちょっと囮になってくれ(死んでくれ)


 おそらくこの小鬼もあの白蛇は食べるだろう。少しでも気が引ければいい。思いっきり自分とは反対側にぶん投げて気を取られている間に部屋に入って金を取ってくればいい。

 

「足の速さには自信がある。きっとできる。俺なら死なない。俺は生きる!!」

『ギャ………』

「ーーふう、行くぞ!!」


 ユーリは扉に手を掛け中に入ると同時に手に持った小鬼を左側にぶん投げた。


『キシャァァァァァァ!!!!!!』

『グギャァァァァ!!!!』

「よし、走れ!!」


 大白蛇はしっかりと小鬼の方に向かって行った。その大きな身体をしならせ、グン!!と加速した。


「………あの速度で来られても死ぬしかないな」


 ユーリは走りながら見たままの感想を呟く。その間になんとか目的の部屋にまで来れた。まだ、大白蛇は小鬼を咥えている。まだ時間はある。


「ーーーっいや!なんで鍵掛かってんだよ!そりゃ掛けるか!金だしな!!」


 鍵を手にとりガチャガチャとしてみる。方式はよくある番号式。あと少しで大白蛇の攻撃がこちらに向くと考えると手が勝手に震えた。


「ああ、クソッ……!!切れるか?」


 手をカタナに添える。もうボロボロだが、同じくボロボロの鍵を破壊するくらいならまだできる気がする。


『キシャァァァァァァ!!』

「ーーーっ!?やっべ、時間が!!」


 大白蛇はしっかりと小鬼を食べ切ったようだ。小鬼の姿が消えた。そしてこちらに頭を向けた。


選択肢その①

↪︎ひとまず横に避けて部屋を守る。

選択肢その②

↪︎大白蛇を部屋に突進させる。

選択肢その③

↪︎潔く死ぬ。


 ユーリの中で3つの選択肢が浮かんだが、もう悩んでいる時間がなかった。大白蛇が身体をしならせ始めた。


ーーーいったん離れる!!そんでこの部屋ぐるぐる回りながら逃げる!!


 逃げながら鍵を何回か叩き破壊する。それを選んだユーリはすぐさま横に走り出した。


「ーーーこっちに、来い!!」

『シャァァァァァ!!!!』


 ブウン!!という音が聞こえるとユーリのすぐ後ろで大きな音がなった。まるで、何かを爆速でぶつけたような、そんな破壊音がした。


 大白蛇が壁に激突した音だった。


 その勢いで首とかへし折れてないかな?とか思うけれど、思考の隅の隅で折れてたら不味いのではとも、思った。


「………生物って骨折とかすると、パニックになって暴れるんじゃ」

『シャルルルルルルルル!!!!!!!』


 これまでより、数段大きい鳴き声が空洞に、迷宮に響き渡る。白いその身体をグネグネと激しく動かしている。


「…………おお、こっわ」


 ユーリは思わず走る足を止めてしまった。



『…………シャルルルルルルルル………』

「………あら?今の鳴き声?は何処からでしょうか?」


 銀の髪を揺らして周囲を警戒する彼女はその後も何回か響く鳴き声と破壊音に集中して耳を澄ます。彼女の聴覚Ⅳのステータスが火を吹く。


「………この下?」


 ちょうど彼女は自分の真下から微弱な振動を感じた。おそらくこの迷宮の最奥部がこの下にあるのだろうと彼女は考えた。


「………なるほど。使わせていただきます。ベンジャミン様」


 彼女は自身の懐から筒状に丸まった羊皮紙を取り出した。その羊皮紙には中級多重属性《《魔術》》【岩盤破砕】が刻まれている。所謂、魔術巻物マジックスクロールだ。


「たしか、使い方は広げて魔力を流し込む。で合っているのでしょうか?」


 彼女に答えてくれる者はその場にはいなかった。そして、いまから彼女がやろうとしていることを止める者もまた、存在していなかった。


「これして、こう」


 ペラペラと地面に広げた魔術巻物に手を当て魔力を流し込む。


「私はまだ、初級魔術しか扱えませんから、親切なおじさまに譲ってもらってよかったです」


 魔術巻物が妖しく光り輝く。


「あら、もしかしてこれ」


 次の瞬間地面に向かって大爆発が起きた。魔術巻物を起動した張本人は逃げることは叶わず爆発に巻き込まれた。



「だぁぁぁ!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅ!!!!」

『シャァァァァァ!!』


 ユーリは死にかけていた。すでに5周ほどこの部屋を走り回り、3回ほど鍵をカタナでぶっ叩き破壊することに成功した。引き換えにカタナ(長い方)が壊れたが。大白蛇が凶暴になり、動きが単純になったのが助かった。


「破壊っ出来たはっいいが!!」

『シャルルルルルルルル!!!』

「入る、ほどのっ隙がっ無い!!」


 その通りであった。鍵を破壊して扉が開くようになったが、入れるほどの、扉を開けて、入り、閉めるほどの動作をする余裕まで距離を離せないというのがユーリを悩ませていた。

 これまで円形に並んでいる柱を回ったり、間を通ったりして生き延びてきたが、大白蛇の突進が何回も当たったからかもうほとんどがへし折れてきている。もうちょうどいい障害物ではなく、こちらの走行を邪魔する障害物になったのだ。


「こうなりゃ、一か八かだ」


 残ったカタナを大白蛇の頭に投げつけ少しでも怯ませる。傷一つつけれずに弾かれたが、どうでもいい。ユーリは覚悟を決めて扉に向かって走り始めた。


「はあ、はあ、ま、にあえ……!」


 扉に届き、手を掛けた瞬間。突如凄まじい轟音と衝撃がユーリの身体と耳に伝わる。


「っなんだ!?ーーーっはぁぁぁぁ!?!?!?」


 突然の衝撃に驚いて背後を向く。ユーリの目に映ったのは土煙を上がりこちらに落ちてくる岩石たちだった。


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