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第四十三話 バイパス開通(中継用ブローチのデプロイ)

「……酷い有様ね」


翌朝、学園の廊下を歩く私の目に飛び込んできたのは、静まり返り、活気を失った学園の光景だった。

 いつもなら朝の調理魔法の香りが漂う食堂は、コンロが点火せず閉鎖。温水魔法が止まったシャワー室からは、冷たい水に悲鳴を上げる生徒の声が漏れている。公式マギ・リンクの「遅延ラグ」は、もはや生活を維持できないレベルまで深刻化していた。


「マナ、部室はあんなに快適なのに、一歩出るとこれか……。まるで世界から切り離されたみたいだ。マギ・リンクの『繋がり』を全く感じないよ」


レンが力なく肩を落とす。私のグリモワールのモニターには、公式サーバーからの応答待ちを示す「404 Not Found」のエラーログが、無慈悲に積み上がっていた。


(……まさに**『圏外』**ね。公式の魔導インフラが完全にキャパオーバーを起こしてるんだわ)


「ゼノスの言う通り、公式の回線はもうパンクしてる。でも、私たちは昨日、回避路バイパスを見つけたわ。……なら、それをみんなにも配ればいい」


私は部室のテーブルに、昨夜から急ピッチで仕上げた試作品を広げた。カイトが持ってきた安価な真鍮のブローチ。その裏側には、私が設計し、セイカさんが精密に焼き付けた特殊な術式が刻まれている。


「名付けて、『デストラクタ・ブローチ v1.0』。……建前は魔力消費を抑えるお守りだけど、実体は部室の親機と繋がるための**小型受信機ノード**よ」


「これを配るって……マナ、正気!? 評議会の許可も得ていない非公式のデバイスなのよ。もし見つかったら……」


セイカが不安げに眉を寄せる。私は彼女を真っ直ぐに見つめた。


「セイカさん、あなたは魔法が使えなくて泣いている生徒を放っておける? これは、公式が直せないバグを、私たちが現場で無理やり修正するためのパッチ(継ぎ当て)なの」


「……っ。わかったわよ。書き込み精度が甘いと文句を言ったのは私なんだから、最後まで付き合うわ」


そこからは、まさに「深夜のハッカソン」だった。

 セイカさんに術式の書き込みを、カイトに外装の加工を、レンに魔力の校正を依頼し、私は全個体の通信テストを行う。不合格品を容赦なく弾く私の姿に、カイトは「マナ先生、厳しいなぁ」と苦笑いしていたけれど、エンジニアとしてのプライドが妥協を許さなかった。


そして翌朝。私たちは「魔法の調子が良くなるアクセサリー」として、まずはクラスの困っている友人たちにブローチを配り始めた。


半信半疑でブローチを胸元に付けた女子生徒が、震える指で小さな火を灯そうとする。

 パッ、と。

 今までは何度詠唱しても火花すら出なかったはずが、指先に鮮やかな火が灯った。


「えっ……出た。ラグがない……!? 魔法が、ちゃんと私の言うことを聞いてる!」


周囲から歓声が上がる。ブローチが周囲のノイズをカットし、部室の「親機」を経由して、パンクした公式回線をバイパスする。一人、また一人と、ブローチを手にした生徒たちの間で「魔法の復活」が広がっていく。それは学園のインフラを、私たちの手で静かに、けれど確実に塗り替えていく瞬間だった。


「……マナ、成功だね。ネットワークが広がってる」


レンが嬉しそうに言う。私の画面には、学園の地図上に小さな光の点が次々と点灯し、メッシュ状の網が形成されていく様子が映し出されていた。


だが。その光景を、冷徹に監視する場所があった。


学園の来賓用別棟、その奥に設えられた監視室。

 学園の全トラフィックを傍受できる魔導モニターの前で、ゼノス・グレアムは、手元に表示される「異常なパケットログ」を眺め、銀縁の眼鏡を押し上げた。


「公式の帯域は枯渇しているはずだ。なのに、特定のエリアだけで、異常に最適化されたパケットが流れている……。……『例外(Exception)』の処理が必要だな」


ゼノスの呟きは、冬の冷たい風に溶けて消えた。

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