第三十一話 脆弱性の露呈(ライブ・デバッグ)
エドワードの白銀の杖から放たれた『絶対零度の審判』。それは美しく、冷酷な氷の刃となって隠れ家の空気を切り裂いた。
この世界の常識では、魔法の威力は「才能(出力)」と「イメージ(固定)」で決まる。学年次席である彼の魔法は、並の生徒なら防ぐことすら許されない完成度を誇っていた。
「……セイカさん、右から三番目のスイッチをホールド。魔力を15%まで絞って」
マナの声が、極寒の空間に響く 。
「絞る!? この威力を前にして、正気なの?」
セイカの指が、リミッター付きの手袋の上で震える 。彼女の「低出力制御の欠如」というバグが、本能的な恐怖を呼び起こしていた 。
「信じて。彼が重んじている『伝統的な手順』には、致命的な周期性があるわ」
マナの瞳には、エドワードの術式が「欠陥だらけの古いコード」に見えていた。
「彼の魔法は、美しさを優先するあまり、術式の接合部に一定のリズムで『魔力の空白』が生まれている。……そこを突くの。最小限の魔力を、ピンポイントでその『隙間』に流し込んで」
セイカは唇を噛み締め、マナの指示通りにリミッターを操作した 。
過剰な魔力は装置によって熱へと変換され、排気口から陽炎となって立ち昇る 。
「――実行!」
セイカの手のひらから放たれたのは、針のように細く、鋭い一筋の魔力光だった。
それはエドワードの巨大な氷の刃を真っ向から受け止めるのではなく、その「核」となる術式の結節点を見事に貫いた。
パリィィィン!
鼓膜を震わせる音と共に、エドワードの魔法がガラス細工のように砕け散る。
「……バカな。私の、ブランシュ家の魔法が……こんな貧弱な光に……!?」
エドワードは呆然と立ち尽くした。
彼は「出力」で負けたのではない。自分の信じる「完璧な手順」の隙間を、理屈によって暴かれたことに戦慄していた。
「エドワードさん、これがあなたの言う『芸術』の正体よ」
マナは解析ノートを閉じ、冷ややかに言い放った。
「中身を理解せず、ただ先代のコードをコピペしているだけ。……そんなの、ただの『動いているだけのレガシーシステム』でしかないわ」
隠れ家に静寂が戻る。
カイトとレンは、自分たちが作り上げたデバイスが、ついに「天才の特権」を打ち破った光景を、その目に焼き付けていた 。
だが、屈辱に震えるエドワードの背後で、新たな影が動く。
「――面白いな。魔法を『システム』と呼び、欠陥を突くか」
現れたのは、学園の教師陣ですら直立不動になる男――魔法評議会の調査官だった。
マナたちの「異端の科学」が、ついに世界の支配層に観測された瞬間だった。




