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第二十一話 見えない糸のコネクタ

「……ダメ。これじゃ、ただの『高級なメトロノーム』だわ」


私は、自作の検流計が刻む一定のリズムを眺めながら、深いため息をついた。

 プロジェクト『ロジック』の心臓部である演算ユニットは、確かに動いている。カイトから供給された魔力を、私が刻んだ論理ゲートが正しく処理している。

 けれど、決定的なものが足りなかった。


(演算機(CPU)はできた。でも、命令を入力する『キーボード』も、結果を表示する『モニター』も、この世界には存在しない……)


前世の感覚で言えば、OSも入っていないベアボーンPCを前に、指一本触れられずに立ち尽くしているようなものだ。

 この世界の魔導端末は、曖昧な音声入力や、直感に頼ったスライダー操作が主流。一字ずつ正確な「命令コード」を叩き込むためのインターフェースなんて、どこにもない。


「マナ、さっきから『きーぼーど』がどうとか言ってるけど……それって、やっぱり楽器のこと?」

 レンが首をかしげる。

 「あ、ええと……私の故郷の言葉で『意思を正確に伝えるための、鍵盤みたいなパネル』のことよ。今のままじゃ、この石に『火を出せ』とか『風を吹かせ』っていう細かい命令をリアルタイムで送れないの」


「……物理的な接触で、魔導回路に干渉したいっていうことか?」

 それまで黙って回路を観察していたカイトが、不意に口を開いた。

 「もしそうなら、僕に策がある」


カイトは懐から、奇妙な形状の金属棒を取り出した。細く、しなやかに曲がったそれは、魔法で開ける「正規の鍵」ではなく、物理的な構造の隙間を突くための道具――ピックツールだった。


「ヴァレン家の書庫に忍び込むために、独学で練習したんだ。魔法の封印は解けなくても、物理的な『鍵のシリンダー』なら、この手先の感覚だけでハックできる」


カイトが、廃棄物の山から拾ってきた古いスイッチ機構にピックを差し込む。

 カチ、カチリ。

 彼がわずかに指先を動かすたびに、機械的な感触が「入力」として伝わってくる。


「これだわ……!」

 私は叫んだ。

 「カイト、その指先の感覚をスイッチにするのよ。魔力を流す・流さないの二択バイナリを、物理的なボタンに置き換える。……この世界に初めての『打鍵式入力装置』を作ってやるわ!」


私たちは、備品庫の隅で見つけた「導魔の繊維」――魔力を通すと過剰に熱を帯びるせいで捨てられた欠陥品を、ピックツールで細かく加工し始めた。

 本来なら「熱暴走」でしかないその特性も、私の論理回路で「0.1秒だけ通電する」と制御すれば、それは立派な『点火プラグ』になる。


(ナツイ……。前世の名前を少しだけ弄ったこの名前に相応しい、熱い仕事をしてみせる)


私は心の中でそう呟き、マニピュレーターを握り直した。

 数時間後。ガラクタを継ぎ接ぎして作った、不格好な「ボタン」が一つ。

 私がそれをパチン、と叩く。


――シュッ。


共鳴石から伸びた金属繊維の先端から、小さな、けれど鋭い火花が散った。

 魔法の才能でも、イメージでもない。「ボタンを叩いた」という物理的な命令が、演算を経て現象に変わった瞬間だった。


「……魔法が、僕の指に反応した」

 カイトが、自分の指先を信じられないといった様子で見つめる。


その時。

 隠れ家の外、暗い廊下の向こうで、カツン、と硬い靴音が響いた。

 私たちは反射的に装置を隠す。

 扉の隙間から見えたのは、月明かりを反射する金色の髪。

 セイカ・ルシアは、何も言わずにその場を通り過ぎていったが、その歩みはいつもより心なしか遅かったように見えた。

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