第十八話 ガラクタの心臓、理系の眼
「……本当にここにあるの? マナ」
レンが不安げに声を潜める。
学園の北端、結界の影にひっそりと存在する広大な空き地。そこは、実技演習で大破した魔導具や、流行に敏感な貴族の子弟たちが「旧式」として投げ捨てた備品が山をなす、通称『魔導の墓場』だ。
「あるはずよ。というより、ここ以外に私たちがタダで手に入れられる場所なんてないわ」
私は泥よけの作業着(といっても、古い制服を改造したものだ)の袖をまくり、月明かりに照らされたゴミの山を見上げた。
隣ではカイトが、ヴァレン家の防犯知識を駆使して、学園の監視魔法が届かない「死角」を懐中時計で計測している。
「あと十五分で警備のゴーレムが回ってくる。急ごう」
「了解。さあ、宝探し(ジャンクハック)の時間よ」
私は一歩、ガラクタの山に足を踏み入れた。
カイトやレンには、これらはただの「壊れたゴミ」に見えるだろう。けれど、私には違う。
(……あそこにある出力安定器、外装はひどいけど中の『共鳴石』はまだ生きてる。あっちの魔導回路は断線してるけど、物理的な並列接続に組み替えれば十分使えるわ)
前世。予算のない研究室で、古いPCを分解してはパーツを使い回し、秋葉原のジャンク屋で数時間を過ごしたあの感覚が、11歳の身体の中で疼く。
「マナ、これを見て! 綺麗な石がついてるけど、割れちゃってる……」
レンが拾い上げたのは、高価そうな杖の残骸だった。先端の魔石には大きなヒビが入っている。
「レン、それ捨てないで。ヒビが入ってるのは表層だけ。中の『芯』さえ取り出せれば、私たちが作るデバイスの微細演算用ユニットとして、世界で一番贅沢なパーツになるわ」
「えっ、これがお宝なの?」
「ええ。科学の目で見れば、魔法の壊れ方なんて計算通りよ」
私は泥に膝をつき、夢中でガラクタをかき分けた。爪の間に泥が入り、顔にオイルが跳ねる。けれど、不思議と嫌な気分ではなかった。
そして、山の奥深くから、鈍い銀色の輝きを放つ塊を見つけ出した。
「……見つけた。高密度魔力安定器!」
「それ、三回生が演習で暴走させて、完全に焼き切れたって噂のやつだぞ?」
カイトが驚いたように覗き込む。私はニヤリと笑って、その銀色の箱を抱え上げた。
「魔法陣が焼き切れただけよ。中の物理構造は無傷。これがあれば、カイトの魔力が暴走しても、一定の『魔圧』に変換して回路に流せる。私たちの『ロジック・グリモワール』の心臓部になるパーツよ」
泥だらけの私の手の中で、その銀色の箱は月光を反射して、まるで鼓動を始めたかのように見えた。
「マナって……本当にすごいね」
レンが感心したように呟く。カイトも呆れたように、けれどどこか楽しげに口角を上げた。
「……ゴミの山から未来を拾い出すなんて、魔法使いには一生かかってもできない芸当だな」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
私たちはゴーレムの足音が聞こえる前に、獲物を抱えてその場を後にした。
図書室の隠れ家へと戻る道すがら、私は確信していた。
この泥だらけの手で拾い上げた一つ一つのパーツが、四年後、世界を驚かせる「福音」に変わるのだと。
11歳の春の夜。私たちの「秘密基地」に、初めて本物の鼓動が宿った。




