表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/49

第十八話 ガラクタの心臓、理系の眼

「……本当にここにあるの? マナ」


レンが不安げに声を潜める。

 学園の北端、結界の影にひっそりと存在する広大な空き地。そこは、実技演習で大破した魔導具や、流行に敏感な貴族の子弟たちが「旧式」として投げ捨てた備品が山をなす、通称『魔導の墓場』だ。


「あるはずよ。というより、ここ以外に私たちがタダで手に入れられる場所なんてないわ」


私は泥よけの作業着(といっても、古い制服を改造したものだ)の袖をまくり、月明かりに照らされたゴミの山を見上げた。

 隣ではカイトが、ヴァレン家の防犯知識を駆使して、学園の監視魔法が届かない「死角」を懐中時計で計測している。


「あと十五分で警備のゴーレムが回ってくる。急ごう」


「了解。さあ、宝探し(ジャンクハック)の時間よ」


私は一歩、ガラクタの山に足を踏み入れた。

 カイトやレンには、これらはただの「壊れたゴミ」に見えるだろう。けれど、私には違う。


(……あそこにある出力安定器、外装はひどいけど中の『共鳴石』はまだ生きてる。あっちの魔導回路は断線してるけど、物理的な並列接続に組み替えれば十分使えるわ)


前世。予算のない研究室で、古いPCを分解してはパーツを使い回し、秋葉原のジャンク屋で数時間を過ごしたあの感覚が、11歳の身体の中で疼く。


「マナ、これを見て! 綺麗な石がついてるけど、割れちゃってる……」


レンが拾い上げたのは、高価そうな杖の残骸だった。先端の魔石には大きなヒビが入っている。


「レン、それ捨てないで。ヒビが入ってるのは表層だけ。中の『芯』さえ取り出せれば、私たちが作るデバイスの微細演算用ユニットとして、世界で一番贅沢なパーツになるわ」


「えっ、これがお宝なの?」


「ええ。科学ロジックの目で見れば、魔法の壊れ方なんて計算通りよ」


私は泥に膝をつき、夢中でガラクタをかき分けた。爪の間に泥が入り、顔にオイルが跳ねる。けれど、不思議と嫌な気分ではなかった。

 

 そして、山の奥深くから、鈍い銀色の輝きを放つ塊を見つけ出した。


「……見つけた。高密度魔力安定器レギュレータ!」


「それ、三回生が演習で暴走させて、完全に焼き切れたって噂のやつだぞ?」


カイトが驚いたように覗き込む。私はニヤリと笑って、その銀色の箱を抱え上げた。


魔法陣ソフトが焼き切れただけよ。中の物理構造ハードは無傷。これがあれば、カイトの魔力が暴走しても、一定の『魔圧』に変換して回路に流せる。私たちの『ロジック・グリモワール』の心臓部になるパーツよ」


泥だらけの私の手の中で、その銀色の箱は月光を反射して、まるで鼓動を始めたかのように見えた。


「マナって……本当にすごいね」


レンが感心したように呟く。カイトも呆れたように、けれどどこか楽しげに口角を上げた。


「……ゴミの山から未来を拾い出すなんて、魔法使いには一生かかってもできない芸当だな」


「褒め言葉として受け取っておくわ」


私たちはゴーレムの足音が聞こえる前に、獲物を抱えてその場を後にした。

 図書室の隠れ家へと戻る道すがら、私は確信していた。

 この泥だらけの手で拾い上げた一つ一つのパーツが、四年後、世界を驚かせる「福音」に変わるのだと。


11歳の春の夜。私たちの「秘密基地」に、初めて本物の鼓動が宿った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ