表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/49

第十七話 未完成の地図を広げて

「……ダメだ。これじゃ話にならない」


放課後の図書室。カイトが手元の魔石を放り出した。カチリ、と乾いた音を立てて机を転がったそれは、表面に細かい亀裂が入っている。

 学園の演習用として配備されている低純度の魔石では、マナの提示した「並列演算」の負荷に耐えきれず、わずか数秒で熱暴走を起こしてしまうのだ。


「私の計算が重すぎるんだわ……。今の私たちの技術じゃ、これ以上回路を微細化するのも限界があるし」


私は自分の小さな掌を見つめた。(――前世の知識があっても、物理的な『素材』と『工作精度』という原始的な壁は超えられない。今の私は、ただの11歳の子供なんだ)

 脳内にある設計図は完璧なのに、それを形にするための「手」も「材料」も足りない。そのもどかしさが胸を刺す。


「マナ、そんなに悲しい顔しないでよ。僕にできることがあったら、なんでも探してくるから!」


レンが励ますように肩を叩いてくれるが、彼が操れる「風」の出力では、大型の冷却装置を回すこともまだ難しい。


「……一つだけ、方法がある」


それまで黙って数式を睨んでいたカイトが、重い口を開いた。


「ヴァレン家の地下深くにある禁忌書庫だ。そこには、かつて魔法評議会が『異端』として没収した、魔力の数値化に関する古文書が眠っているはずだ。それがあれば、演算効率を劇的に上げるヒントが掴めるかもしれない」


「禁忌書庫……。でも、そこってカイトさんのご実家ですよね? 勝手に入ったりして大丈夫なんですか?」


「……今の俺には立ち入る権限さえない。だが、あと四年。卒業して家を出る準備を整えるまでの間に、必ず隙を見つけて情報を引き出す。マナの理論を、理屈だけで終わらせたくないんだ」


カイトの瞳に宿る、静かで、しかし消えることのない信頼の炎。

 私は深く息を吐き、机の上に広げた設計図をゆっくりと畳んだ。


「……そうね。焦って中途半端なものを作っても、結局誰も救えないわ」


私は二人を見回し、真っ直ぐに告げた。


「作戦変更。このデバイス、プロジェクト『ロジック』は、今日から四年の長期計画に移行します。私たちが卒業する十五歳までに、最高精度の『ロジック・グリモワール』を完成させましょう」


「四年……。長いけど、マナと一緒に研究してたら、あっという間かもね!」


レンが屈託のない笑顔を見せる。

 私たちは、マギ・リンクの匿名アカウント『理系の端くれ』を一時凍結することを決めた。表向きは「魔法の練習に励む、少し熱心なだけの落ちこぼれ三人組」を演じ続けるのだ。


放課後の廊下。夕焼けに染まる窓の下で、私たちはノートを一つに重ねた。

 一見すれば、テスト勉強に励む11歳の子供たちの微笑ましい光景。

 けれど、そのノートの裏表紙には、この世界の「才能」という理を解体するための、緻密な数式が隠されている。


(待っててね、世界)


私は心の中で、まだ見ぬ未来のデバイスに語りかけた。


(四年の月日をかけて、私はあなたを、最高の『福音』に書き換えてあげるから)


窓の外、校門の方へと歩いていくセイカ・ルシアの背中が見えた。

 彼女はこちらを振り返ることはなかったが、その足取りはどこか、以前よりも慎重に、何かを確かめるようなリズムを刻んでいた。


私たちの、本当の意味での「青春」が、今静かに動き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ