表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/49

第十話 魔法観察ノート

 翌日から、私は小さなノートを持ち歩くようになった。

 表紙に「魔法観察記録」と書こうとして、やめた。

 誰かに見られたときに面倒だ。

 結局、何も書かずに使うことにした。

 最初のページを開いて、ペンを走らせる。

 日付。天候。気温。

 そして、今日の実技授業で観察したこと。

 A:炎系。発動前に右手の人差し指が微妙に曲がる。呼吸は浅く速い。成功率高。

 B:風系。発動前に目線が上にずれる。息を止める。出力は小さいが安定。

 C:水系。発動前に肩が落ちる。深呼吸一回。ムラがある。緊張すると失敗しやすい?

 (こうして並べると、面白いな)

 一人ひとりの「癖」が見えてくる。

 魔法は才能だと言われているが、発動の瞬間には確かに個人差がある。

 その差は、才能の大小だけでは説明できない気がした。

 昼休み、レンがまた私の席にやってきた。

 「ノート、書いた?」

 「書きました」

 「見せて見せて」

 (早い)

 ノートを差し出すと、レンは食い入るように読み始めた。

 「A ってあの炎の子か。確かに指動いてるよね。俺も気になってた」

 「気づいてたんですか」

 「なんとなく。でもこうして書き出すと、はっきりわかるな」

 レンがページをめくった。

 「B の目線が上にずれるのは……魔力を頭に集めようとしてるのかな」

 「魔力が頭に集まるという根拠は?」

 「ない。なんとなく」

 (なんとなくか)

 「でも面白い仮説ですね。検証する方法を考えてみます」

 「検証? どうやって?」

 「Bさんに協力してもらって、目線を変えて発動してもらえれば……でも怪しまれますね」

 「確かに。『魔法発動するとき目線変えてみてください』とか言ったら絶対変な顔される」

 二人で少し笑った。

 こういうとき、笑えるようになったのはいつからだろう。

 「ねえ、俺にも書かせていい?」

 「何を?」

 「俺が観察したやつ。マナが見てないところも記録しておきたい」

 (この人、本当に前のめりだな)

 「どうぞ」

 レンはペンを受け取って、さらさらと書き始めた。

 D:雷系。発動前に歯を食いしばる。肩に力が入る。出力は大きいが疲弊も早い。

 E:炎系。Aと似ているが指の動きが逆。左利きだから?

 「左利きだから動きが逆になるのか……利き手と魔法の発動に関係があるかもしれない」

 「もしあるとしたら、左利きを矯正された人は魔法の効率が下がるかもしれませんね」

 「それ、あの子に言える?」

 「言えません」

 「だよね」

 また少し笑った。

 ノートが、少しずつ埋まっていく。

 放課後、図書室で古い本の続きを読んだ。

 昨日の続きのページには、こんなことが書いてあった。

 「魔法の発動パターンを数値化することで、適正のない個体でも魔法に近い現象を引き起こせる可能性がある」

 (適正のない個体……つまり私みたいな人間でも、ということか)

 手が止まった。

 「どうした?」

 レンが覗き込んできた。

 「……ここ」

 レンが声に出して読んだ。

 「『適正のない個体でも魔法に近い現象を引き起こせる可能性がある』……マナ、これ」

 「わかってます」

 「すごくない? 魔法適正がなくても、魔法みたいなことができるかもしれないって話でしょ」

 「もしこれが本当なら」

 「本当かどうか、確かめたくない?」

 (確かめたい。すごく確かめたい)

 でも、慎重にならなければいけない気もした。

 この研究は消されていた。著者の名前も、続きも。

 それには理由があるはずだ。

 「……慎重にやりたいです」

 「うん、それはそう。でも可能性としては追いかけたい」

 「同じ気持ちです」

 レンがニヤッと笑った。

 「じゃあ、俺たちの研究も始めよう。ノートに書いてあるデータ、続けて集めよう。いつか使えるかもしれないから」

 (研究、か)

 前世では、研究室で夢を折られた。

 何も残せなかった。何も証明できなかった。

 でも今は、レンがいる。

 消された本がある。

 そして、確かめたいことがある。

 「……やりましょう」

 「よし、決まり」

 レンは満足そうに背もたれに寄りかかった。

 窓の外はもう夕暮れで、空が橙色に染まっていた。

 図書室には私たちしかいない。

 (前世の私が見たら、驚くだろうな)

 友達と放課後に残って、研究の話をしている。

 青春みたいだ。

 「ねえマナ」

 「なんですか」

 「楽しい?」

 唐突な質問だった。

 少し考えてから、答えた。

 「……楽しいです」

 「だよね。俺も楽しい」

 それだけだった。

 それだけなのに、なんだか十分だった。

 ノートの最後のページに、今日の日付を書いた。

 まだ半分以上、白いページが残っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ