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冷遇され続けた聖女は、隣国で王太子付き侍女になって人生謳歌します  作者: 甘寧


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10.遭難と救出

「お待ちください!」

「離せ!」


 止める手を振り払い、城の外へ向かうマティアスにディルクが必死になって声をかけ続けている。


「心配なのは分かります!ですが、貴方に何かあった時の方が大変なんですよ!」

「僕のことはどうでもいい!」

「──殿下!」


 まったく聞く耳を持たず、一心不乱に外へ向かうマティアス。ディルクが声を荒げるが、足を止める気配はない。


 マティアスとて、自分の身になにか起これば面倒なことになるのは分かっている。だが、ジッとしてなんていられなかった。


(こうしている間にも彼女は……)


 護ると誓ったはずだった。僕なら護ってやれる。そう思っていたのに……


 今まさに、命の危険に晒してしまっている。


「お待ちください!」


 ディルクの悲痛な声が耳に届くが、振り返りもしない。


(悪いな)


 胸の内で謝罪すると、降りしきる雨も気にせず馬へ飛び乗ろうとした。


 ──が、その時。


 後ろ袖が勢いよく引かれ、マティアスは倒れるようにして地面へ叩きつけられた。


「いっ…」


 痛みで顔を歪めていると、ジャリッと足音がした。


「どういつもこいつも手がかかるヤツばかりだな」

「本当ですね」


 顔を上げると、アルベルトとオリヴェルが不敵な笑みを浮かべながら見下ろしていた。


「ここからは騎士(俺たち)の仕事だ。お前は大人しく(ここ)で待ってろ」

「貴方の仕事は城に残り、的確な指示を出して国と民を護ること。いっときの感情に流されてはいけませんよ」


 正論過ぎる言葉を向けられ、グッと歯を食いしばった。こんな時、王太子という身分が酷く憎い。自分は護られてばかりなのに、いざと言う時に頼りにならない。


(好いた女性すら、自分の足で助けに行けない)


 悔しくて、情けなくて、死にたくなる。


「必ず無事に連れ帰ってくる。俺たちを信じろ」


 いつの間にか馬に跨ったアルベルトが強い口調で説き伏せてきた。


「……あぁ、頼む……」


 僕に言えるのは、その言葉しか無かった。



 ***



 一方、その頃……──


「……しまった。完全に帰り道を見失った」


 あれだけ強かった雨風も、木々が茂る森の中では威力が少しだけ弱まってくれた。

 これ幸いと、森の中を歩き回った結果、帰り道を見失ってしまった。

『森で迷った際は、動かない方がいい』そんな事を前世で聞いたような気がしたが、こんな嵐の夜にジッとしている方が危険だと、更に歩き回ってようやく雨宿りが出来そうな洞窟を見つけて、今に至る。


「ジルさんも見当たらないし、このまま嵐が過ぎるの待つしかないか」


 森には人の気配は無かった。やはり嵌められたのだろう。それならそれで良かった。人の命の方が大事だもの。そんな事よりも、久しぶりに向けられた敵意の方がよっぽど堪える。


 フゥと息を吐き捨てた。


 何となく一息付けそうな感じだったが、全然そんな事はない。


「……さむっ」


 雨に濡れた身体が冷え、寒さに全身が震える。膝を抱えて暖をとろうとするが、ひんやり冷える洞窟の中では、むしろ体温はどんどん失われていく。それに加え、昼食も摂らずに走り回っていたので、空腹で腹の虫がうるさいほどに鳴いている。


(少し前までは空腹なんて感じたこと無かったのに……)


 それもどうかと思うが、あの当時はそれが普通だった。


(この国に来て、随分変わったと感じる。身も心も……)


 感じたことの無い感情に戸惑うこともあるが、知る喜びも覚えた。その知ってしまった感情は、時に私の心を苦しめる事がある。


「……寂しいな……」


 いつまでこんな所で足止めを食らってなきゃならないんだろう……マティアスやディルクは心配しているだろうか……


 そんな事を考えると、急に心細くなってしまった。


 孤独には慣れているはずだったのに、いつの間にか賑やかな日常が当たり前だと思ってしまっていた。


「弱くなっちゃったなぁ」


 顔を膝に埋めながら呟いた。


 疲れからか、目を閉じただけでスゥと意識が遠ざかりそうになる。


『~~~~!』


「ん?」


 遠くで声が聞こえた気がした。雨音が強く、気のせいかと思ったが、徐々にハッキリとした言葉に聞こえてきた。


「お~い!いたら返事をしろ!」


 その声はアルベルトの声だった。


「アルベルト様!?」

「おっ!良かった!無事か!?」


 洞窟から出て顔を見せると、安堵した顔のアルベルトが駆け寄って来た。

 外套も羽織らずビショ濡れで、助けられたコチラが心配になってしまうほどの装いだった。


 アルベルトは私が無事なのを確認すると、空に向かって「ピーッ!!」と指笛で合図を出した。


「シャリー嬢!」


 しばらくすると、オリヴェル率いる騎士たちが群がるようにやって来た。


「良かった!貴方にもしもの事があれば、私は悪魔に魂を売るところでしたよ!」


 凄い心配してくれたのは分かるけど、言動が物騒過ぎてどう応えていいか分からない。


「さあ、無事に見つかった事だし、さっさと戻るぞ」


 雨脚はまだまだ強い。


 アルベルトの号令に全員が移動を始める。私もアルベルトの馬に乗せられ、その場を離れた。


「……何故、シャリー嬢が団長の馬に乗っているんです?」


 アルベルトの腕の中にいる私を見て、不満そうに文句を口にしている。


「お前に預けると、()()後々面倒なんだよ」

「貴方の都合など聞いてないんですよ。私は、何故貴方なんですかって聞いているんです」

「……お前さぁ、そう言うとこだぞ?」


 気怠そうに言い返すアルベルトと、険しい表情で説明を求めるオリヴェル。そんな二人の会話を愛想笑いしながら聞いていた。その時──


「!!」


 全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。


「嬢ちゃん?どうした?」


 急に体を強ばらせ、険しい顔付きになった私を心配して声をかけてきた。


「アルベルト様……今すぐ全員を高台へ避難させて下さい」

「は?」

「急いで!川が決壊します!!」

「──!?」


 胸ぐらを掴まれ、鬼気迫る顔で迫られたら従わない訳にはいかない。すぐに前を行っていた騎士たちを引き戻し、高台へと急いだ。


 全員の避難が済み、ホッと一息つく間もなくゴゴゴゴ……と地鳴りのような音を合図に山津波が発生した。

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