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78. リオデアラ

 リオデアラはエスピナ王国の端にある小さな村なんです。さっき、私は領主の娘だった、なんて言いましたけど、ブリジア王国の貴族みたいに着飾ったり王宮のパーティに参加したりなんてものではなくて、村のリーダーの娘くらいのものでした。


 それに娘と言っても……一応、私には父母と兄がいましたが、まあ、なんていうか、酷い人たちでしたよ。あの人たちのことなんて話したくもない。大した人間でもないくせに、勝手な都合で税を上げては無駄遣いをし、機嫌が悪ければ暴力を振るう。あんな人たちと血がつながっているなんて思いたくもない。


 ……私は運がよかったんです。女として生まれた時点で要らない子だと思われたみたいで、まともに面倒を見られることなく放置されていました。


 あ! 違います! あの人たちに放置されたことこそが幸運だったんです。誰にも面倒を見られない赤子の私を憐れんで、村の優しい人たちが交代で育ててくれました。おかげであいつらみたいにならなくて済んだんですから。本当に、私は運がいい。


 まあ、村の人たちにも下心はあったみたいですけどね。下心というか、思惑? どちらでもいいんですけど。


 村の人たちは、文字が読める人を、計算のできる人を一生懸命集めて、私にものを教えてくれました。

 それで、確か、十三歳の時だったと思います。私にある程度の知識や判断力がつき始めた頃、皆んなの思惑を叶えるときが来ました。私が村の運営をするようになったのです。


 父母は反対しませんでしたよ。あの人たちは怠惰な人ですから、自分たちの遊ぶ金だけあれば文句は言いませんでした。むしろ、面倒なことをしなくてよくなったから、喜んでいたくらい。


 ただ、父母と同じやり方をしていても意味がありませんからね。村の人たちと必死で金策を考えました。


 私は本当に、運がいい。

 ちょうどその頃、王都から植物学者の方が訪ねてきました。なにやらリアデアラの植生は少し変わっているらしくて、研究したいそうで。


 もう、村の人総出でもてなしましたよ! 絶対にこの機会を流すものか、と! 学者さんの研究の手伝いをして、頭が使える者は研究内容を覚えて。忙しくもありましたが、楽しかった。


 そこで、どうやらリオデアラの植物は薬草に使えるぞということが分かったんです。加工方法を教えてくれる職人さんを紹介してもらって、数年で商品化に辿り着きました。普通よりも高いマージンを取られましたが、そんなの、小さなことです。リオデアラが生き延びる道を見つけられて、本当に良かった。


 ……戦争の話、ですね。


 リオデアラは碌な戦力も持っていませんでしたから、シェルヴァ公国との戦争に徴兵されることもありませんでした。エスピナ軍に向けて薬を供出することはありましたが、そのくらいです。宣伝になればいいねと、村のみんなで話していました。


 それなのに、突然あんな通牒が届いたんです。私が受け取ればよかったんですが、通牒は運悪く父の元に届きました。

 父は村の人なんてどうでもいいですから。戦争に巻き込まれないよう全て従おうと……それだけじゃありません。ああ、言いたくもない。お前も良かったな、公国の跡取りの子を身ごもれば将来、なんて。……最悪。


 村の女たちにそんなことさせるもんですか。村のみんなで話し合って、女たちを守ることにしました。私たちは武装して……武装なんて言っても、鎌や鍬なんですけどね。とにかくできるだけの武器を持って、シェルヴァ公国軍が来るのを待ちました。


 夕方、シェルヴァ公国軍がやってきました。私は揉み手で迎える父を押し退け、食糧は持っていけ、その代わり女は一人として差し出さないと言いました。


 ……おかしいんですよね。なんか、シェルヴァ公国軍の人たち、ぽかんとしてて。女? 何の話? みたいな。


 そこで、先代公爵様……今の公爵様のお父様ですね。先代公爵様が出てきて、話をしようと言ったんです。聞けば、そんな手紙は出していない、ただ食糧と寝床を貰えないかと書いただけで、女を差し出せなんて一つも書いてないと言うんです。


 疑いましたが、先代公爵様は……私なんかより、公妃様の方がお詳しいですよね。先代公爵様はあのようなお人柄ですから。私はいつの間にか信用してしまいました。それで数日、シェルヴァ公国の当初の予定通り、食糧と寝床だけを差し上げました。乱暴をされた者は、誰一人いなかった。


 リオデアラの薬も幾つか差し上げました。今は戦時中ですが、戦争が終われば商売相手になるかもしれませんからね。

 先代公爵様は効能を褒めてくださいました。私を領主に指名してくださるならシェルヴァ公国の土地になってもいいなんて冗談半分、本音半分のことを言ったりもしました。先代公爵様は私の父が村の人を簡単に差し出す姿も見ていましたから。この戦争が無事に終われば、なんて、こちらもまた半分は冗談だったんでしょうね。そんなことも、話しました。


 数日でシェルヴァ公国軍は去りました。……地獄が始まったのは、そのあとなんです。


 父母はあの通牒をきっかけに、最悪な商売を思いつきました。つまり、私や村の女を近くの領地の豪族に売れないか、と。……最悪。本当に余計なことしかしない。それに、兄も村の女に暴力を振るうようになって……止めましたよ、もちろん。止めましたけど、止められないことだって、ありました。


 地獄でした。こんな地獄があっていいものかと思いました。私は所詮、父母の代わりに経営していただけ。権力なんてなかった。村の人を守れると思っていましたが、そんなのも、勘違いだった。


 さらに数ヶ月後のことです。戦争はシェルヴァ公国の勝利で終結した、という話が入ってきました。


 私はシェルヴァ公国軍の元に急ぎました。その頃はまだ先代公爵様がご存命でしたから、先代公爵様に事情を話し、必死にお願いしました。リオデアラをシェルヴァ公国の領土にしてほしい、リオデアラには以前紹介したものよりも有用な薬品がたくさんある、きっと役に立てる。その代わり、領主を……父母を、兄を追い出して、代わりに私を領主にしてほしいと。


 先代公爵様は同情してくださり、必ずそうしようと約束してくださいました。


 実際、後日結ばれた講和条約でリオデアラはシェルヴァ公国に割譲されました。これでやっと地獄から抜け出せると思ったんですけど、……いつまで経っても私が領主に指名されることはありませんでした。父母兄の横暴は続きます。


 約束が違うと、私はグレイ公爵家の本邸まで乗り込みました。


 そこで……先代公爵様は亡くなったと聞かされたのです。代わりに出てきたのが、今の公爵様で。公爵様は……以前見た時は優しそうな青年だったのに、なんていうんですかね、獣みたいな顔をしていて、驚きました。それで、今は些事に構っている暇はないから帰れと。


 帰れるわけないじゃないですか。私はリオデアラとの約束を守れと喚きました。ほんと、喚いてよかったです。リオデアラと聞いて、公爵様は思い出したんでしょうね。急に目の色を変えて、あの通牒はまだ残っているかと聞くんです。

 あーもう、これは、簡単に渡してはいけないな、と。私、商売人ですから。うまく出し渋って条件を呑ませよう、と。


 交渉をしようとした時です。私、襲われちゃいまして。え!? いえ、違います違います! 公爵様じゃないです! そんなわけないじゃないですか! グレイ公爵家に潜んでいた反逆者ですよ!


 私がリオデアラの通牒を持っているからか、公爵様のところに女が訪ねてきたからかは分かりませんけど、多分後者です。リオデアラ自体に襲撃はありませんでしたし、その頃には公爵様と公妃様の結婚の話も出ていましたから、公爵様に近寄る女を消そうとしたんでしょうね。


 反逆者は公爵様が捕らえましたが、猿轡を噛ませる前に服毒自殺しました。

 その時私はまだ事情を知りませんでしたから、異様な光景でしたよ。私を殺そうとした男が、次の瞬間には自ら死んでいる。恐ろしかった。


 恐ろしかったですが、恐ろしがっている場合でもありませんからね。必死で状況を観察しました。周りの人たちの話に耳を傾けます。通牒を狙ったのだろうか、いや違う、であればここに着く前に処理されているだろう、では女が訪ねてきたからか、やはりランドルフが、証拠はどうだ、やはり今回も。襲撃が続けば、証拠も出てくるかもしれない。


 ピンときました。いや、事情は分かりませんでしたが、通牒が鍵を握っているかもしれないこと、この人たちは何らかの証拠を探していることくらいは分かりました。


 だから私は、私を囮にしろと言ったんです。通牒も差し出すし、必要であれば今みたいに襲われてだってやる、だから今すぐ、私を領主に指名しろ、と。


 まあ、怪しまれましたよ。そりゃ怪しいでしょう。でも、シェルヴァ公国も手詰まりでしたから。最終的に了承させました。私の勝ちです。


 それで、私は無事リオデアラの領主になりました。一応、男爵位なんてもらっちゃいまして。父母兄を追い出すことに成功したわけです。もう一生、あの人たちが村に戻ってくることはありません。一生です。私がそうしましたから。


 それで、領主に指名される代わりに通牒を差し出し、証拠を集めるために公爵様の愛人という囮をすることになりました。約束もありましたが、通牒が残っていることが知られればリオデアラも危険に晒されますし、ランドルフへの抵抗は私のためでもあるんです。


 公妃様は心配してくださりましたが、私、囮になってよかったと思いますよ。リアデアラから父母兄を追い出せて、薬や化粧品をブリジア王国の貴族たちに売れるようになったからリオデアラもさらに潤って、いいことばかりです。私は本当に、運がいい。

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