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38. クロージングパーティ

 クロージングパーティは王室所有のパーティ会場で行われた。

 参加者は皆身なりを整えて来ているが、それでもどこか野性的な熱気を纏ったままで、ホールは不思議な高揚感に包まれていた。


 定刻になると、国王王妃両陛下が入場された。国王陛下は簡単な挨拶と、狩りの参加者への労いを述べる。大会結果の集計はまだ終わっていないらしい。結果が出るまで歓談の時間が設けられることとなった。


 私は終始、落ち着かなかった。


 例によって会場前で落ち合わせたエドワードは、意外にも私と合わせたデザインのスーツを着ていた。シャーロットが愛人ではないと知れ渡ったから、もうアピールをする必要もないのだろうか。恥をかかなくて済んだことはよかったけれど、一方で、彼の顔を見ると一昨日言われた言葉が頭の中にこだました。

 私を信じることのない、私の夫。それも、一生。


 エドワードと並んでいたくなくて、私は入場後すぐに彼から離れた。そうして一人、ぼんやりと過ごす。もちろんいつまでも壁の花を気取ってもいらないのだけれど。


「グレイ公爵夫人」


 昼間話したばかりのセラーズ伯爵夫人が、私に声を掛ける。隣に立っているのは、ご息女だろう。私が礼をすると、その令嬢もぎこちなく礼をした。


「ご紹介いたします。こちら、娘のハリエットですわ」

「初めてお目にかかります。ハリエット・セラーズにございます」


 ハリエット嬢は緊張したように続ける。


「公爵夫人、本日のドレスもよくお似合いです。薄桃色のシルクが夫人の艶やかな肌を照らしていて……」

「お褒め頂き光栄です。伯爵夫人からマダム・エイダの展示会にご招待いただきましたの。ハリエット嬢とご一緒できるその時を楽しみにしておりますわ」

「はい……! 母から伺いました! 私も、楽しみにしております……!」


 ハリエット嬢とはいくつか当たり障りのない話をし、自然と別れた。


 他人といる間は平静としていられるのだけれど、一人になるとまた、思考が散漫になる。


 何か意識を逸らすものが欲しくて、給仕からスパークリングワインを受け取った。手持無沙汰にくるりと回すと、グラスの底から細かい泡が浮いてくる。シャンデリアの光に照らされたそれは妙に美しくて、なぜだか少し、切なくなった。


「公爵夫人」


 また一人、私に声を掛ける。狩猟大会初日に社交の席をともにした、カレン嬢だ。


「先日は同席いただきありがとうございました。改めてご挨拶させていただきたくお声がけさせていただきました」

「ご丁寧にありがとうございます。初めての狩猟大会は楽しまれましたか?」

「ええ、自然の中で皆様とお話することが叶い、有意義なひとときを過ごさせていただきました」


 一拍置いて、カレン嬢は続ける。


「夫人はいかがでしたか」


 彼女の問いかけに、私はこの三日間にあったことを思い出す。


 若いご令嬢たちとの会話。身の丈に合わない羨望は、どこか居心地が悪かった。


 そういえば、シャーロットは私を何かと褒めはするけれど、不思議と嫌な気持ちになったことはない。私が彼女のことを気に入っているからだろうか。

 ……シャーロット・ブレアム。夫の愛人ではない女。ランドルフ侯爵家に、命を狙われる人。


 ――私のことを信じないと言った夫の声が、登場を待ちわびていたように頭に浮かぶ。私はそれをすぐに掻き消した。


 そうして次に思い出すのは、あのかわいそうな王子様だ。私を騙し、盾にした男。王子であるにもかかわらず、襲撃直後にただ側にいただけの私に礼をすると言った。

 礼。そう、礼だ。あの男は、私の願いを叶えてくれたのだろうか。


 私の思考を読んだかのようなタイミングでトランペットの音が響いた。

 皆口を閉じ、前方にあるステージに視線を移す。ステージの隅で官吏らしき男が精一杯に胸を膨らませ叫んだ。


「狩猟大会の集計が終了いたしました! 結果発表に移りたいと思います!」


 盛り上げる音楽と、人々の期待の声。

 私の身体は鉄でできているかのように固く冷たくなり、それなのに心臓だけが存在を主張するようにうるさく響いた。


 壇上に上がる国王陛下。

 天候に恵まれただの、例年よりも皆が腕を上げただの、総評を述べる。どこか膜の向こうで話しているみたいだ。目の前がぼんやりしてくる。


 わぁっというざわめきが聞こえた。意識を戻して辺りをちらりと見渡す。どうやら前段が終わり結果発表に移るようだ。

 皆、固唾をのんで国王陛下に注目している。


 陛下がひとつ、咳払いをした。そうして会場をぐるりと一周見渡して、ゆっくりと口を開いた。


「本年の狩猟大会において、最も優れた結果を挙げた者は――」

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― 新着の感想 ―
もしかして、エドワードって、オフィリアに対してだけ《コミュ障》なの? ーーーついつい“?“を感想につけてしまうのは悪い癖で、謎解きはゆっくり話が進むのを待つつもりです。決して急ぐ気持ちはないんですがー…
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