独り芝居(三人用/男女比2:1)和風コメディ風
小染(お染)♀ 照剛の幼馴染
照剛 ♂ 憧恋の夫、お染とは「お知り合い」
恋憧(お恋)♀ 照剛の妻
小染「照剛さま。やはりわたくしが申し上げた通りでございました。
あのお恋と申す者はあなた様以外に恋人がいたのです」
照剛「我が妻に恋人とは? 」
小染「見てしまったのでございます。照剛さまのお宅に沢山の生垣の端に文のような物がございました。
それを嬉々としながら読んでいるお恋の姿をです」
照剛「お恋!お恋! 」
恋憧「照剛さま。お呼びでございますか。あら、お染さま。お久しゅうございます。
このような軒先ではなく、どうぞお入りになさってくださいまし。
大したものは出せませんが」
小染「あなたに、もてなしを受けるいわれはございません。
なによりも、照剛さまのお宅でありながら、大したものが出せないですって!? 」
恋憧「照剛さま、失礼を致しました」
照剛「謝罪ならわたしではなく、お染さんに言いなさい」
恋憧「左様でございすね。お染さま失礼を申し上げました」
小染「それよりも、あなた帯の中の文とやらお出しなさい。それに先日も生垣に置いてあった文もよ」
恋憧「なぜ、そのことをご存じで……? 」
小染「そんなことは良いから、お出しになって照剛さまにお見せするのよ」
恋憧「それは」
小染「出来ないということですか。照剛さま、ほうらご覧くださいまし。わたくしの申し上げた通りでございましょう」
照剛「本当にそのような文が存在するのなら、わたしに見せなさい」
恋憧「お恥ずかしゅうございますが、承知いたしました。帯を少し解きますから、少々お待ちくださいまし」
小染「恥ずかしいだなんて、なんて破廉恥なもの言いでしょう。わたくしの方があなたの態度に恥ずかしく思います」
恋憧「照剛さま、こちらにございます。……もし、先日の文もということでございましたら、仰ってくださいまし」
照剛「うむ、先にこちらを……。この紙や筆遣いは。
あ、お染さんっ!!まだわたしが見ているではないか!? 」
小染「まぁ、なんてよこしまな。
『お恋と離れていると昼でさえ暗闇に閉ざされたような』
『夜もあまりに長く二度と夜が明けることが無いような気がする』
『愛おしいお恋』それに随分と陳腐な表現の羅列とはしたない文言」
恋憧「お声に出されては、更に恥ずかしゅうございます」
小染「どのように思われますか。照剛さま。この者はあなた様の妻にふさわしい者だとお思いですか」
恋憧「と、仰いますと?お染さまはこの文をご覧になって勘違いなさったのでしょうか」
照剛「はぁ、二人とも。やめてくれないか」
小染「では、この文をお認めになるのですね」
照剛「お染さん、この文の内容を知っていたのか? 」
小染「詳しくは存じでおりませんでしたが、内容は薄々」
恋憧「照剛さまにだけではなく、お染さまにも読まれてしまうだなんて。本当に恥ずかしゅうございます」
小染「なんて不遜な態度」
照剛「お染さん。この紙をすかしてよく見て御覧。そしてこの筆遣いもゆめゆめ改めるのだ」
小染「照剛さまのお宅の御紋の透かし……?しかもこの文字の癖は少しばかり照剛さまと似ている様な。し、しかし照剛さま。あなた様のお書きになった文字では無いように思います」
照剛「そうだな。書いたのはわたしではない。内容を考えたのもわたしではない。
しかし、我が家からそなたに文を送るような男は誰もいない。お恋これは一体どういうことだ」
恋憧「申し上げても、お叱りになりませんこと? 」
小染「ほうら、照剛さま。お認めになっていらっしゃるようです」
照剛「叱るかどうかは、まず釈明を聞こう」
小染「ふんっ」
恋憧「その、つまり、わたくしはずっと昔から恋文というものに憧れておりました」
小染「ほら」
照剛「最後まで聞け」小染「申し訳ございません、承知致しました。照剛さま」
恋憧「愛しく思う殿方から頂戴したいものの、照剛さまのような不器用なかたにお願いするのは差し出がましく思い……わたくし自らが、照剛さまのふりをして書いたのでございます」
小染「自分で書いただなんて。そ、そんな言い訳が通じるとでも!? 」照剛「その文を見て何となく察した」
恋憧「本当に、恥ずかしゅうございます」
照剛「お染さん、これで理解してくださいましたか。われらに対し心を配って下さるのは有り難い。しかし、いや、なんでもない。あなたも早く夫を持つが良いだろう」
小染「……。騒ぎを起こしました、本日はこれで失礼いたします」
恋憧「お染さま、また近いうちにいらっしゃいましね。
ところで照剛さまその文を返して頂いても宜しゅうございますか」
照剛「どうせまた自分で勝手に書くのであろう。なら返しておこう」
恋憧「お返し下さりありがとうございます、うふふ♡」