第一話: ノーセーブの運命
目覚めると、柔らかな風が頬をなで、見上げれば果てしなく広がる青空が目に飛び込んできた。体を起こすと、草の香りが肺に満ちる。周囲を見渡せば、遥か彼方にそびえ立つ城塞都市と、その周囲を守るかのように広がる壮大な草原。現実離れしたその光景に、混乱と興奮が入り混じる。
「ここ…どこだ…?」
声に出してみると、自分の声が妙に高いことに気づく。驚いて両手を見ると、それはまるで少年のものだった。
「なんだこれは?」
慌てて川にかけ寄り、自分の顔を映してみる。そこに映るのは、まるで中世ファンタジーの主人公のような少年の姿だった。
「もしかして…転生ってやつか?」
混乱の中でも、その言葉が真っ先に浮かんだ。最近ハマっていたVRゲームの影響か、どこかで聞いた話のように感じる。しかし、これが現実なのか夢なのか、判断がつかないまま茫然と立ち尽くしていた。
突然、頭上から響く機械的な音声が、思考を遮った。
「ようこそ、アルセリアの世界へ。この世界では冒険と危険が共存しています。しかし、注意してください。この世界には“セーブポイント”という概念が存在しません。一度ミスをすれば、それがあなたの運命となります。」
その言葉を聞いた瞬間、心臓が跳ね上がった。
「はあ!? セーブポイントがない? 冗談だろ?」
反射的に叫んだが、返事があるわけでもなく、音声は続けて淡々と説明を始める。
「初期装備を選択してください。」
目の前に突然浮かび上がった文字。そこには剣や盾、魔法の杖といったお馴染みの装備が並んでいた。「いや、待て待て、まだ準備が…」
と口にする間もなく、目の前にカウントダウンが表示され始めた。
10、9、8…
「うわ、猶予が短すぎるだろ!」
頭の中で考えを巡らせる。剣士として力で挑むべきか、それとも魔法使いとして遠距離から攻撃するべきか。だが、どちらを選んでも一度のミスが命取りになる世界で生き延びるには、慎重な選択が求められる。
カウントダウンが3を切った瞬間、思わず目を閉じた。そして、意を決して剣を選び、目の前の“選択”をタップする。
「選択が完了しました。初期位置へ転送します。」
その言葉と共に視界が一瞬で真っ白になり、気がつくと自分は城塞都市の外れに立っていた。そこからは、確かに冒険の始まりを感じさせるような喧騒が聞こえる。そして同時に、自分の胸の中には、未知への期待と不安が渦巻いていた。
だが、この世界にはセーブがない。一度のミスが、全てを終わらせる。その重圧に耐えながらも、一歩を踏み出した。
「やってやるさ。ノーセーブだろうと、生き延びてやる!」