鎮魂歌はなりやまない
「~~~~~~♪」
教会の中に、僕の讃美歌とオルガンの音だけが響く。
数年前、世界は大きく変わってしまった。
異界の神を名乗る強大な存在たちが、僕たちの世界で宗教戦争を始めたのだ。
なぜ僕たちの世界なのか、なぜ宗教戦争をするのか、僕たち人類に説明は一切なく、いずれかの神の信者になるよう人々は選択を迫られた。
その中で既存の宗教はすべて淘汰された。不自然なほどきれいに。
異界の神たちは宗教戦争を有利にするために、敬虔な信者たちに「祝福」を施すようになった。「祝福」とは異能力のようなものであり、宗教戦争をより苛烈に激しくした。
僕が信仰するのは「死」を救いとする女神様だ。
「死」を救いとするといっても、そう悪いものではない。
人間の苦しみは「死」によって等しく取り除かれる。
故、生前は善を成すべし
尊重される「死」とは老死、事故死などの自然死、偶然死のみであり、自死はこれに該当しない。
これが僕らの教義だ。
僕らと言ったが、この表現は誤りである。実際に信者は僕しかいない、「死」という響きに人はマイナスイメージを持つ事はもちろん、信者になってからでないと、教義を知ることができないのも一因だろう。
信者が1人の宗教の朝は早い、目が覚めたら、教会で祈祷を行い、讃美歌を奏でる。次に掃除などの雑務をこなし、再び祈りを捧げる。
一通り責務をこなしたら
ナイフで自分の首を掻き切る。
目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。目が覚める。首を切る。
僕に施された「祝福」は「自己犠牲」、とても綺麗で美しい言葉だ。
僕が死ぬ度に、善人の誰か1人が幸福になるという「祝福」だ。
生き返るのは、教義に
尊重される「死」とは老死、事故死などの自然死、偶然死のみであり、自死はこれに該当しない。
という文言があるからだろう。少なくとも、教会の中では自死する事はできないようだ。
今日も人の幸福のために自分の首を切る。
今日も人の幸福のために自分の首を切る。
今日も人の幸福のために自分の首を切る。
今日も人の幸福のために自分の首を切る。
今日も人の幸福のために自分の首を切る。
今日も...
「おめでと~ございま~す!」
自分しかいないはずの教会に声が響く。
「こんにちは、女神様、ご機嫌麗しゅうございますね。」
「そりゃそうだよ!なんと君が救った人が遂に1万人を突破したんだから!」
無邪気な声で女神様は言う。
「それは、僕もうれしい限りです。」
「そういえば、女神様にお尋ねしたい事がごさいます。」
「敬虔な信者の頼みとあらば、聞こうじゃないか!」
「そう、大した事ではないのですが、1人で良いので僕の救った人の話を聞きたいです。実際に自分が人を救ったという実感が欲しいのです。」
「おっけー!」
女神様は「そうだなぁ」と呟くと物語を話すように話はじめた。
「ここの東隣の国に、身体が弱い女の子がいました。
女の子はよく、窓の外で走り回る、同じ年齢ほどのこども達を見て、羨ましがっていました。
でも、女の子の身体はどんどん悪くなっていきます。女の子は絶望して、死にたいとさえ思うようになってしまいます。
そして、信者君が祝福で女の子を救います!
女の子は、願い通りに
死にました!」
「えっ?」
脳が理解を拒んでいる。
「だーかーらー。女の子は願い通りに死んだの!」
「死...ん....だ?」
「そう!あっ!そういう事か!女の子だけじゃないよ、ちゃんと1万人、君の祝福でみんな尊く死ぬ事ができたよ!」
「そんな、だって、殺すなんて酷いこと...」
「違うよー!みんな君の祝福による事故死で絶望から救済されたんだよー」
「あ.....ああア亜アあ唖あアあア亜唖あ婀ああアあ唖婀亜亜唖あ婀ああアあ亜唖あ婀ああアあ亜唖あ婀ああアあ亜會唖あ婀ああアあ亜唖あ婀あ婀あアあ亜唖あ婀ああアあ亜唖會あ婀ああアあ亜唖あ婀ああアアあア亜あ唖あアあア會唖あアあ亜唖あアあ亜唖あ婀アあ唖あアア婀あ唖あアあ婀唖あアあ會唖あ亜唖唖ぁぁぁ!」
ナイフを手に取る
首を切る
「1万1人目♪」
目が覚める。