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「あの、俺…ユリちゃんのことが…」


「リョ、ウくん…」


「す、好き、」

「リョウたんみぃーっけっ!!」


あたしの声でびくりとする可憐な女の子。

と、またかとげっそりとした顔を向ける林中涼ことリョウたん。あたしの大大大大大好きな幼なじみ!


「あっ、私…ごめんね」


走り去るユリちゃん。

私はリョウたんの告白を阻止できた達成感で思わず笑顔になる。


「リョウた」

「お前なあ…」


一気に機嫌の悪くなったリョウたんの声に、あたしは錆びたロボットみたいにギリギリと首を動かしリョウたんの顔を見上げる。


「なんで毎回毎回邪魔すんだよ!」


怒った。

リョウたんが怒った。


「俺の恋路をお前は何回…」

「だってあたしがリョウたんのことだーい好きだもん!」


あたしはリョウたんの言葉を最後まで聞かずにリョウたんの腕にぎゅっと抱きついた。


ぎゅっぎゅって。


細いけど筋肉がついたリョウたんの腕が私は大好き。


「リョウたん好きい」


「…ったく…行くぞ」


ため息を吐きながらも、リョウたんはいつも私を本気で怒りはしない。


「ラジャー!」


だから今も腕にぶらさがったまんまの私の頭にポンと手を乗せて、中庭から校舎の方へと歩き出した。






◇◆好き好き大好きアイシテル◆◇






早片渚、17歳。

17年間の片想い継続中の149センチの女子高生!

もちろん片想いの相手は…


「リョウたーん!!」


帰り支度をしていたリョウたんにがばりと飛び付く。


「いてっ!てめぇの鞄キーホルダーだらけで凶器なんだよ!」


そう言いながら私を背中から離すと、リョウたんは私の鞄で負傷した頭を擦っている。


「えへへぇ、ごみーん」


「お前全く反省してねえだろ」


「リョウたん今からケーキ食べに行くのだ!!」


最近学校の近くにできたお洒落なカフェがある。

どうやらそこのケーキは噂ではとっても美味しいらしい。


「はあ?今から?」


「イエッさぁ!今から!」


渋るリョウたんをあたしはぐいぐい引っ張った。



そう、片想いの相手はもちろん彼、リョウたん。

身長172センチと在り来たりなスタイルに、短めの黒髪をワックスで軽く遊ばせている在り来たりな髪型、二重の目は大きすぎず小さすぎずと在り来たりなイマドキの顔。

と、まあぶっちゃけ全てが人並みなリョウたんですが、あたしの大切な幼なじみ、あたしには誰よりかっちょいいヒーローに見えてしまうのです!




二学期が始まって間もない放課後。

まだ日差しは強くて暑い日が続いている。



「おい、離れろ、暑苦しい」


カフェへ向かう途中。あたしは当たり前のようにリョウたんの腕にしがみついている。


「もお、照れちゃって、かわい」

「しばくぞ」


「リョウたんこわーい!」


「じゃあ離れ」

「やだ」


いつも通りの会話。

いつもこんな感じ。

あたしは絶対リョウたんから離れない。

暑くても、汗かいても、化粧が崩れても。


「えへへ、ケーキ楽しみぃ」


にかっと笑ってリョウたんを見ると、リョウたんは眉を少しハの字に寄せて仕方ないなあと微笑んだ。


ああ。

やっぱりリョウたん好きだなあ。




カララン…


「いらっしゃいませ」


結局腕にしがみついたまま二人で歩いて、10分くらい歩いた。駅より少し南側の筋にできたカフェ。外からはなんだかハイジの家みたいだと思った。

こじんまりとした店内に入ると可愛いウエイトレスさんがお出迎えしてくれた。

あたしとリョウたんはまず入口近くのショーウィンドーに近付き、ケーキを選ぶ。


苺タルトにオペラ、モンブランにベリーのムースケーキ…


ああどれも美味しそうだ!


「おい、決まったか?」


ショーウィンドーの端から端を行ったり来たりするあたし。


「まだ!まだ決まんない!」


「早く決めろよ」


さあ迷う。

苺のタルトか、バナナとキャラメルのタルトか…


迷う。

どっちにしよう…


「あと三秒」


「ひえ?!ちょっ」

「さーん」


「やっ」


「にいーい」


「リョっ」


待ってくれないリョウたんのカウントダウン…


「いー」

「苺タルト!!」


もう究極の選択。

あぁ…でもバナナとキャラメルのタルトも食べたかった…


「よし。じゃあ俺はバナナとキャラメルのタルトで」


え…?


「リョウたん…?」


「お前これも食べたかったんだろ。仕方ねえからちょっと分けてやるよ」


「畏まりました。席までご案内させていただきます。」


係のお姉さんが私とリョウたんの前を歩いていく。

あたしはリョウたんに抱き付かずにゆっくり付いていって。

その間ずっとリョウたんの顔を見ていたら、リョウたんが視線に気付いてこっちを向いた。


「ん?どうしたんだよ?」


あたしは何も言わずに首を横にふる。


「変なやつ」


そう言って笑ったリョウたんの顔はすごく優しかった。



リョウたんは小さい時からずっとあたしの側にいた。


幼なじみよりももっと深い仲で、あたしのことはなんでも知ってるんだ。

誰よりもあたしのことをわかってくれていて。


あたしはやっぱり

リョウたんのことが大好きだと感じた。





美味しいケーキを食べて、帰り道を並んで歩く。

夕陽で伸びた影は、あたしがリョウたんの腕にまたしがみついていたからなんだか怪獣のような歪な形になっていた。


「ケーキ美味しかったね!」


「ああ、そうだな」


「リョーウたん」


「ん?」


「あたしたちカップルに見え」

「見えない」


もおー相変わらずリョウたんはシャイボーイだなあ。


「リョ」

「林中くん?」


え?


立ち止まり声のした方を振り返る。

そこには夕陽を背に、華奢なあたしたちの学校とは違う制服姿の女の子が立っていた。


「ああ!やっぱり林中くんだあ!」


嬉しそうに駆け寄ってくる彼女。

ミルクティー色の長い髪がふわりと揺れた。

スカートから見える足が細くて、チビでぽっちゃりなあたしは羨ましいなって思った。


「佐々木?」


「うん!覚えててくれたんだ?嬉しい」


そう言って笑った佐々木さんの顔があまりにも可愛くて、嬉しそうで、私はなんだか面白くない。



「リョウたん…誰?」


「あっごめんなさい。妹さん?」


妹…


優しい笑顔を見せた彼女には何も悪気はない。

わかってる。

でも妹って…


「違います。恋び」

「ただの幼なじみだから。」


私の言葉をすかさず遮るリョウたん。

ちぇ、

別に恋人って言ってもいいじゃん…。


「あ、そうなんだあ。良かったあ」


ん?

あたしは佐々木さんの方を見た。


なんで、『良かった』なの?


相変わらず可愛い笑顔の佐々木さん。

どうしてかわからないけど、嫌な胸騒ぎがする。


「私、佐々木絵美子って言います」


「前のバイトで一緒だったんだ」


「…あ、あたしは早片渚っていいます」


名前を言いながら、あたしはリョウたんの制服のシャツをぎゅって握った。


「佐々木はまだバイト続けてんの?」


「うん、まだ頑張ってるよ。それが店長がね…」


夕焼けが段々と焼けるように目に入ってくる。

うっすらと紫に傾きかけた空には、ちらちらと弱い星が見え始めてる。


リョウたんと佐々木さんは楽しそうに前のバイトのことを話し始めた。


あたしの知らない話。

あたしの知らないリョウたんの話。


あたしはなんだかリョウたんが急に遠くに行ってしまうような感覚に襲われて、ぎゅっと掴んでいたシャツを引っ張った。


ぎゅっ。

ぎゅっ。


だけどリョウたんは全くそれには気付かずに、

佐々木さんと楽しそうに笑い合っていた。



「メアドも番号もそのままだから、また良かったら連絡してね」


「オッケー。俺も変わってないし」


「じゃあまたメールしていい?」


「おう。」


そうやって最後に手を振りあって、佐々木さんとは別れた。

別れる時に佐々木さんは私にも会釈をしてくれて、

良い子なんだなって、素直にそう思った。


だけど…


「何機嫌悪くなってんの?」


「…別に悪くないもん」


「…そおですか」


歪な怪獣だった影が、今はひょろりひょろりと二本並んでいる。

それはそろそろ暗くなってきたコンクリートに飲み込まれてしまいそう。


「…リョウたん」


「何だよ?」


「佐々木さんのこと…好き?」


「は?別に嫌いじゃないけど」


「…あたしは、リョウたんが好きだよ」


「はいはい」


「…リョウたんのばぁか」

「はいっ!?」


リョウたんは前を向いたまま軽く流した。



あたしは毎日言ってる。


好き。

大好き。


リョウたんが好き。


だけどリョウたんは、絶対に言ってくれない。


好きって。


あたしはいつも気にしないフリをする。


リョウたんはシャイな男の子だからなんだ。

リョウたんの告白は、あたしの気を引きたいからなんだ。


そう

自分に言い聞かせる。


だけどね、本当はすごく不安なんだよ。


あたしのことは、どう思ってるの?

ずっと幼なじみのまんま?

あたしは女の子にはなれない?


佐々木さんのこと、

好き?


あー駄目だ。

あたし完全におかしくなってる。

佐々木さんのこと、気にしすぎだ。


今はまだ、何も分からないんだから。

あたしはリョウたんの想いを貫いていくしかない!



その後は、お互いテレビやテストの話をしながら、家に帰った。

家に着いた時には、もう空には大きなお月様がゆったりと光っていた。





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