第一話 カイとヨハネ
ヨハネは小さく息をした。自分自身の存在を確かめるように。そして、薄暗いこの場所に存在する何かを見いだすように目を細くする。ほんの数メートル先に立っているカイの鋭い視線を全身に受けながらもヨハネは微動だにしない。
「今夜の気分はどう?」
腕を組んだままのカイが問い掛けると、鉄製の椅子に座っているヨハネは背筋を伸ばしてその問いに答える。
「とても落ち着いています。いつもと何も変わらないですよ」
それを聞いたカイはゆっくりと歩みを進めてヨハネに近づく。しかし、二人の間にはその接近をはばむかのように、強固で冷たい鉄格子が存在していた。
「そうかい。だけど、こんな檻の中じゃ出来ることも限られてくるってもんだ……そうだろう?」
拳でコンコンと鉄格子を叩きながらカイは言った。その顔にはなぜか笑みが浮かんでいる。ヨハネはそんなカイの態度に何を感じているのか、黙ったままその様子を見ていたが、やがてその口を開いた。
「あなたは何が言いたいんですか?」
それを聞いたカイは、灰色の天井を見上げて大きく息を吐いた。
「あんたの話を聞くようになって以来、何だか夜も眠れなくてさ……良かったらまた聞かせてくれないか?」
ヨハネはその問いに答えるように右手を自分の胸に当てた。しばらくして、左手を前に差し出し、カイにも椅子へ腰掛けるよう進めた。カイは何度もうなずきながら、木製の椅子に腰掛ける。それを見たヨハネは満足そうに目を細めて微笑んだ。その様はカイとは対照的で、見事なアルカイック・スマイルだった。
「罪を罪だと己が認識することで、罪はその形を成すことになるのです」
ヨハネはそう言うと、胸に当てていた右手を離してその手のひらで自分の視界を遮った。
「罪の名を……それでは、始めましょう」
二人の長い夜は、こうして始まった。