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必ずそこに行くから待っていて

クロウと名乗った暗殺者。

さっさと首を落としてしまえばよかったのに、生け捕りにして証言をさせればより都合がいいのでは、と欲がでてしまった。

だからルーナルドは致命傷を与えないように加減しながら足元ばかりを狙った。

けれどそれが間違いだった。

相手はルーナルドが思っていたよりもずっと強かった。

ルーナルドの攻撃を全てギリギリのところでかわして見せたのだ。

いやあるいはそれは、ルーナルドが自覚しているよりもずっと、体が動かなくなっていたせいかもしれない。

どちらにしろ、これ以上時間をかけるわけにはいかない。

ルーナルドはすぐに考えをあらため、男の命を取りに行った。

心臓を、頭を、臓器を。一撃で致命傷になる場所に迷わず剣を振り下ろした。


けれどその頃にはもう全てが遅すぎた。


あれほど大量に打ったにも関わらず、もう薬の効果が切れはじめている。

霞む目では標的を正確に捕らえられず、少し動くたびに苦しさの余り意識が飛びそうになった。

かつてないほどの強烈な目眩と痛みがルーナルドを襲う。

けれど尋常ではないそれらを、強靱な精神力だけで抑え込み。

徹底的に相手を攻撃していく。


もうこれで抵抗する気も起きないだろう。


さっさと終わらせる。

そう思って一歩踏み出した。

そこで。

今までとは明らかに違う、激烈な痛みが胸に走った。

同時に堪える暇もないほどの強烈な吐き気に襲われ、吐き出せば床一面が赤く染まった。

吐き出しても吐き出しても、おさまることなく血が溢れ出す。

もともと足りていなかった血をさらに吐き出したためか、体が尋常じゃなく寒かった。

空気が吸い込めず、目の前が暗くなっていく。

必死で目を開ければ、グラグラと視界が揺れた。

これは今までのものとは桁が違う。このまま意識を失えば、おそらくもう二度と目覚めることはない。


それではだめだ。

まだだ・・・。

まだ、問題が残っている。

まだ・・・・もう少しだけ・・・。


そう思うのに、どれだけルーナルドが命じてもボロボロの体はもうピクリとも動かなかった。

ただ九の字に体を折り曲げて、惨めに汚らしく血を吐き出して。

着々と、絶対に覆らないその結末にむけて進んでいく。


視界がゆっくりと狭まっていく。

押し上げても鉛のように重い瞼が、覆いかぶさってくる。

今まで必死で抗い続け、戦い続けたその身に。

絶望的で暴力的な闇が覆いかぶさり、全てを奪い去っていく。

 

ここまで・・・なのか・・・。


ルーナルドが思っていたよりもずっと残りの時間は少なかったらしい。

もはや自分の力ではどうしようもない。

心残りなのは間違いないが、もう指一本動かせない。

 

視界が闇にのまれる。意識さえも全て飲み込まれる。


そう思った時。


バキリと。

胸に入れていた魔法具が音を立てて割れた。


ふわりと微かに感じる魔力波に、ルーナルドははっと目を開けた。


全身の毛が総毛立ち、止まりかけていた心臓が再び強く打ちはじめる。


今も確かに感じるそれをルーナルドがわからないわけがない。

ユーフェミアだ。

微かに感じるこの魔力はユーフェミアの魔力波。


結界がある限りユーフェミアの魔力は外にはでない。

そして、胸に入れていたのはその結界を維持するための魔法具。


二つの事実が意味することなど明白だった。


結界がこじ開けられた。

おそらくルーナルドの意識が弱まったその隙をついて。

なぜ場所を特定された?

わからない。

けれど今重要なのはそこではない。


────・・・ユーフェミアを狙ってきた誰かがいる。


ユーフェミアがまた命の危険に晒されている。

もしかしたら今こうしている間にも・・・・。


ダメだ、それだけはどうしても許せない。

例え体が動かなくなろうと。全身の血を吐き出して干からびようとも。

ユーフェミアだけは・・・・!!


冷えきって、暗いところへ落ちつづけていた心に再び炎が宿る。

そうしてその火はそのまま激しい感情へと変わっていく。

愛しい、だとか、大事だとか。そんな単純な言葉ではとても言い現せないほど強烈な何か。

得体の知れないその感情は、しかし動かなかったはずのルーナルドの体を突き動かしていく。


クロウと名乗った暗殺者が動く気配がする。


察した瞬間、持っていた剣を横にふりぬいた。


確かに伝わる手応え。

首ははねた。

もう何百もはねてきたのだ。

間違いない。


あとは・・・・・。


ユーフェミアを狙ってきた奴らを屠るだけ。


【約束】した。

困ったときは必ず助けにいく、と。


あの日、死にたいといったルーナルドを叱り付けてくれた。

毎日ルーナルドを探し出してくれ、側にいてくれた。

会いたかったといって泣いてくれた。


────・・・彼女だけは絶対に守りきってみせる。


その強い意思は、ルーナルドの心を、そして魂を奮い立たせる。

力を失い崩れかけた体が再び闘気を纏っていく。

そうして、魂を燃え上がらせ、ルーナルドはゆっくりと立ち上がった。


「ユフィ・・・・」


必ずそこに行くから、


待っていてくれ。


今、助けにいく。











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