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闇に蠢く暗殺者3

クロウと名乗ったその男は、ルーナルドに対して最初に王子殿下と恭しく呼びかけた。

にも関わらず、家名を名乗らないどころか、明らかな偽名を使ってきた。

クロウとは、聖典に登場する堕ちた天使の使い魔の名前。

これらを人の子につけることは最大の禁忌とされている。

そんなこと、多少学がある人間なら誰でも知ってる。

なのにあえてその名を名乗ったということは、ルーナルドなど知識も何もないバカだと思っているか。

それとも明らかな偽名がばれたところで、罰することもできない無能者だとたかをくくっているか。

どちらにしても、明らかに見下している証拠。

いやそもそも王族であるルーナルドの屋敷に、隠遁の術でコソコソと忍び寄ってきた時点で。

ルーナルドを侮っていることは明白だった。


しかし男がクロウと名乗った時点で、身元が割れた。


聖典に登場する使い魔の名を、コードネームにつかう暗殺集団【闇夜の烏】。

世界をまたにかける大集団で、単独行動をする故に個々人の能力、得に殺傷能力は飛び抜けて高く。

単純な戦闘力は一国の将軍をも凌駕するほどだとか。

その集団の頭領が使っている名が、たしかクロウだったはず。


・・・・・・・なるほど・・・。


一時期は軍の総大将として君臨していたルーナルドの屋敷に単独で潜入してきた。

それはなにがあっても一人で切り抜けられるという、実力に裏付けされた絶対の自信あってのことだろう。

クロウと名乗り、たとえ身元が割れたとしても。

ルーナルド相手にならどうとでもなると、そう判断してのことかもしれない。


随分とナメられたものだ・・・。


けれどだからこそ、相手の警戒心はないにも等しかった。

いつでも殺せる。

そう思っているが故に、問われるがままに、いや問うまでもなく、ペラペラと口を滑らしてくれる。


そうして暗殺者が得意げに語った事実。

そしてそれを裏付ける、絶対に言い逃れができない魔法印を押された誓約書。


それを目にしたとき、ルーナルドの体は怒りで震え上がった。


誓約書に名を連ねているのは、数十人。

そのうちの一番最初のページに名を連ねる三名。


ハイエィシア第一王子、ギルバート ブラン ハイエィシア。

アルフェメラス王弟、マリウス フォン アルフェメラス。


そして・・・・。


ブランフラン国王、ゼノ ブランフラン。


・・・・・・・まさか他国の王族、しかも国王まで関わっていたとは・・・。


流石に、想定外だった。

けれど、言われてみれば確かに考えられる事象だった。

ブランフランはハイエィシアの北にある自然豊かな国。

昔ルーナルドとユフィが出会ったのもその国で、本当に穏やかな人民ばかりの国だった。

だからこそ、こんなことを水面下でしかけてくるなど思いもしなかった。


・・・・もっと慎重にあらゆる可能性を探るべきだった。


ユフィとの綺麗な思い出を汚されたくなくて、無意識にその可能性を排除していたのかもしれない。


・・・・まさか、あのブランフランがニ国の戦争を増長していたなど・・・。


けれど、ブランフランはニ国に比べて領土も小さく武力もほとんど持たない。

ハイエィシアとアルフェメラスが争っているうちは、自国に攻め入られる可能性はないとでも思ったのか。

それとも・・・。

ブランフランの特産品は、豊かな自然にもとづいた農作物。

そしてもう一つ。

鉄、だ。

戦争に使う武器の主材料は、鉄。

戦争が続く限り鉄の需要は高まり、ブランフランの国庫は潤う。


────・・・だから戦争を続け殺しあえ、と。


ギルバートと繋がっている武器商人は、ブランフランの差し金と見て間違いない。

頭の足りていないハイエィシアのバカを金で釣り。


王になることに並々ならぬ執着をみせる王弟を、「今の王を殺した後に王にしてやるから」と仲間に引き込んだ。


そうしてその王弟を使い、最大の障害となるユーフェミアを金で雇った【闇夜の烏】の毒薬で殺害しようとした。

毒殺された王女の近くに、ハイエィシアの隷属魔法がかかっていると思われる騎士がごろごろいたなら。


二度も裏切られ王女を奪われたアルフェメラスは、怒り狂ってハイエィシアに攻め込むだろう。

もう和平など夢のまた夢に終わり、ニ国は永遠に争いつづける。


・・・・・解けてみれば簡単なパズルだった。

ただルーナルドがブランフランの存在を見落としていただけで。

もっと注意深く、もっと賢く立ち回れていたなら。

こんなに時間はかからなかったかもしれないのに。


─────・・・けれどそれでも、絶対に動かせない証拠を手に入れた。


魔法印は、その血と名を持って押されるもの。

他人が名を語ることなどできないし、他人の印を押すこともできない。

つまり、その名で魔法印が押されている限り絶対に言い逃れはできない。

しかもご丁寧に、今クロウが得意げに語った事実が記された書類まである。

これ以上の証拠はない。

ルーナルドは、持っていたそれらに完璧な『保存』の魔法をかけ懐にしまい込んだ。


後はこの暗殺者を捕らえ、書類を相応しい場所に提出するだけ。

そうすれば、ユーフェミアの身の安全は保証される。


・・・・・・・絶対に許さない・・・。


ルーナルドは、ゆっくりと椅子から身を起こした。

身を震わすほどの怒りが、体の不調を押さえ込む。

余りにも自分勝手な連中の、余りにも陳腐な理由で、大事な人の命は奪われかけた。

もう後数ヶ月、情報を手に入れるのが遅かったら。

アッシュがその情報を手に入れ事実関係を探ってくれなかったら。

今ここにユーフェミアはいなかった。

誰にも気づかれることなく、夢半ばにして倒れるところだったのだ。


・・・・彼女がどれほど険しい道を進んできたのか、やつらは想像すらしないのだろう・・・。


ルーナルドが和平に賛同したときには、もうハイエィシアはそちら側に傾きつつあった。

けれどそれでも、ここまで来るには並々ならぬ労力と我慢を強いられたのだ。

胸くそが悪くなる思いも山ほどした。

先導していたアッシュは、途中参加のルーナルドよりもさらにしんどい思いをしていたはずだ。


けれど、それよりも。


最初にそれを提唱し、叫びつづけたユーフェミアは自国でどれほどの顰蹙をかったことだろう。

この戦争は明らかにハイエィシア側に過失がある。

なのに正論を掲げているはずのアルフェメラスの、蔑ろにされたエリンティア王女と同じ立場である王女が。

武器をおいて、話し合えと。

そう声を上げ続ける事がどれほど大変なことだったか。

どれほど苦しい思いをして、ここまでの道を作ってきたのか、やつらは考えもしない。

だから簡単に誰よりも尊いその命を奪おうと思える。


体が震えるほどの、こんな激しい怒りを覚えたのはいつぶりか。


実の親から暗殺者を差し向けられたときか。

・・・・いいや、そんなもの怒りにすらならなかった。


では父ゲイルが、理不尽に命を奪われたときか。

・・・・ああ、あれは確かに怒りが混み上がった。

けれど悲しみの方がずっと強かった。


では、大事な【ユフィ】が毒殺されかかっていると知ったとき・・・?

・・・・・いいや、あの時よりも遥かに腹立たしい。


感情の起伏が乏しいルーナルドが、これほどの怒りを感じたのは産まれて初めてだった。

めったに動かないその端正が顔が、怒気に歪む。

ギリ、っと。

噛み締めた歯が音を鳴らした。

目の前に立つ暗殺者の下衆な笑みが見えた瞬間、怒りで視界が赤く染まる。


「・・・・・・・・っ!!」


そうして怒りのまま、椅子に立てかけてあった剣を鞘から抜き去り、横にふりぬいた。

首を落としてやるつもりだった。

なのに、その暗殺者は寸前のところで回避行動を取った。

空を切る刃先。

後に飛び退る暗殺者。


・・・・なるほど、確かに対した実力者だ。


判断力、瞬発力、跳躍力、そして並々ならぬ危機管理能力。

確かにどれを取っても一流だ。

あれほど自意識過剰だったのも頷ける。


けれど・・・。


「・・・・絶対に逃がさない・・・・」


そうしてルーナルドは暗殺者にむけて剣をふるった。









本文最初の方に、多少の学があればみんな知っている、とルーナは言っていますが、学者レベルの知識です。

アッシュとルーナは共に学んできましたがお互いがずば抜けて優秀すぎて、普通の基準がおかしなことになってます。

ちなみに勿論、ハイエィシアのバカはなにも知らずに踊らされてます。

そのうち出てきます。


また読んでくださると嬉しいです。

ありがとうございました。

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