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ユーフェミア11

毎日食事を用意してくれたこと。

毎朝花を生けかえてくれたこと。

薬を飲んで倒れたユーフェミアを介抱してくれたこと。


一つ一つ塗り潰していくのに、ルーナルドからはその全てにはっきりとした否定の言葉がかえってくる。


なのに言葉とは裏腹に、彼の目が応と答えている。


ほとんど動いていないはずの彼のその表情が。

否と答える度に、とても苦しそうに歪んで見える。

自分を見つけてくれ、と。

そう泣き叫んでいるように見える。


「・・・・・本当はもうずっと前からあなたがエトだと気がついていました」


なのに、ユーフェミアは何ひとつとして行動を起こさなかった。

ルーナルドこそがエトなのだと、知っていた、分かっていたのに。

ただ守られるだけで、彼に事情を聞こうともしなかった。


本当は、あの夜に。

ルーナルドが倒れてしまったあの夜に、二人で話をしようと思ったのだ。

けれど、きっとそれでは絶対的に遅すぎた。

もっと早く、もっとちゃんと彼の話を聞いていれば。


そうすれば彼がこんな風に・・・・・。


ツゥッと音もなく、美しい金色の瞳から涙が流れ落ちた。

引き結ばれた口元から噛み殺したような小さな嗚咽が漏れ聞こえてきて。

堪えきれなかったようにくしゃりと顔が歪んだと同時に、両の目から涙がポタポタと流れ始めた。


もっとユーフェミアがしっかりしていれば。

もっとちゃんと彼の話を聞いていれば。

もっと早くに彼を見つけだしてあげていたなら。


そうすれば少なくても彼がこんな風に、全身を奮わせて声を殺して苦しそうに泣く、なんて事態にはならなかったはずなのに・・・。


ここまでルーナルドを追い詰めたのはユーフェミアだ。

だからこそ、ちゃんと向き合わなければ。

小さく息を吐き出して覚悟を決める。


「・・・・・・わたしは、身内から命を狙われていたのでしょうか・・?」


あの時。

ユーフェミアの体を蝕んでいたのが、病であったなら。

薬で完治した時点で、ユーフェミアは解放されていたはず。

なのに、そうはならなかった。

それは、問題がまだ解決していない証。

つまり、ユーフェミアの体を蝕んでいたのは病ではなく毒。

あの薬は、病を治す薬ではなく、毒を抜く解毒剤だった。

そうして毒であるならば、それをユーフェミアに飲ませた人物がいる。

誰にも気付かれず、ほんの少量づつ毒を飲ませ続けられる。

そんなユーフェミアのごく近い位置に、ユーフェミアの死を望んでいる人物がいた。


問い掛けと同時に、ルーナルドの体がわずかに揺れた。

驚いたようにその美しい瞳が見開かれる。

めったに動かない彼にしては、とてもよく表情にでていたと思う。

その彼の反応が全てを物語っていた。


「・・・・・・そう・・ですか」


ユーフェミアは近しい誰かに死を望まれ、実行に移されるほどに憎まれている。

周りとは良好な関係を築けていると思っていただけに、衝撃も悲しみも大きかった。

けれど、そんなユーフェミアよりも・・・。

ルーナルドの方こそが、真っ青な顔をしてみせた。

美しい金の双眸が気遣し気に頼りなく揺れる。


「・・・・・すまない、ユフィ・・・俺は・・・」


何故彼が謝るのか。

何故彼がこんなにも苦しそうな顔をするのか。

何故彼が・・・。


・・・・・・ああ、そうか、とストン心が理解した。


だから彼は何も話せなかったのだ。

毒を盛られている。それも近しい誰かに。

その事実をユーフェミアに気付かせないために。

そのためだけに、自分が一身に悪行を引き受けた。

あんな風に声を殺して泣くほど辛かったはずなのに。

ユーフェミアのためだけにずっと堪えてくれていた。

ずっとずっと。

ユーフェミアが思っていたよりも沢山の想いで守ってくれていた。


「・・・・・ばかです、あなたは!」


こんなユーフェミアのために。

彼はユーフェミアの体だけではなく、心まで、その身を呈してずっとずっと守ってくれていた。

切なくて、苦しくて。

どうしようもないほどに愛おしくて。

ユーフェミアはルーナルドにしがみついて声を殺して泣いた。












やっとルーナの気持ちが報われました。


自話からは今度こそ本編に戻ります。

クロス一族の呪いと、ユフィの暗殺犯、ルーナの病。

同時に進行していきますので、三人の視点が入り乱れます。

よろしくお願いいたします。

読んでくださりありがとうございました。

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