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クロス公爵2

キリがいいところまであげます。よろしくお願いします。


「さて、自己紹介もすんだことだし。こんなところで立ち話もなんだから屋敷に帰ろうか」

「え・・・?」


クロス公爵はニコニコと穏やかに微笑みながら、ユーフェミアをエスコートするように右手を差し出してくる。

ちょっと待ってほしい。

今の会話の流れで、どうしてあの屋敷に戻ることになるのか。

そもそもユーフェミアはそこから逃げてきたのであって、それは状況からも先ほどの会話からも公爵はわかっている。

なのに、こんなに穏やかに笑いながら帰れというのか。

そもそもあの屋敷は無理矢理連れて来られたのであってユーフェミアが帰る場所などでは絶対にないのに。

クロスの家名により溶けかけた警戒心が、また一気に膨れ上がる。

目的がわからない。この人は一体何がしたいんだろう?


「さっきも言ったけど、ここ。すごく強力な結界が張られてて君の魔力に反応してる。君は絶対に外にはでられないみたいなんだ」

「え・・・・」


そういえば先ほど確かにそういっていた。

けれど絶対にでられないって・・・。

ではルーナルドが鍵をかけていかなかったのは、最初から逃げられないと分かっていたからなのだ。

わずかな希望を与えておいて、あっさりそれを取り上げるとは。

余りにもやり方がえげつない。


「では、クロス公爵様は・・・?」

「うん? 僕は出られるよ? 出られないのは君だけ」

「え・・・!?」


まるで明日の天気の話でもしているかのように、気楽な様子で告げられた重大案件に、ユーフェミアは思わず声を上げた。

でられない、ってことはここに軟禁状態になったわけで。

しかも対象者は自分だけ。

わざわざそのように術式を組んで術を展開しているということだ。


なぜそんな面倒なことを?


確かに対象者を絞った方が、発動に必要な魔力も労力も格段に少なくできる。

そこは理解できる。

けれどどうして自分を留めるためにそんな手間をかけるのかが分からない。


捕虜にしたいのであれば地下牢にでも入れて鎖に繋ぐなりすればすむ。

邪魔なら殺してしまえば間違いない。

隷属魔法をかけるのも手だ。


なのに、わざわざユーフェミアにだけ反応するよう結界をはる。

面倒この上ない、とても非効率なやり方に思える。


考え込むユーフェミアを置き去りにして、クロス公爵はのんびりと告げる。


「ルーナにも困ったもんだよね。君をさらって奴隷にしたんだって?」

「・・・・えっと・・」


状況が整理できない。

どう答えるのが正解かわからない。

視線を反らして返答に窮するユーフェミアに、公爵は構わず話しつづける。


「大丈夫、ルーナならここからでる方法もちゃんと知っているはずだから」


こんな馬鹿なことはやめて一日でも早く君がここから外に出れるように僕がちゃんと交渉するから。

僕が絶対に守るから。

だから安心してね、と。


公爵はユーフェミアの手を取り誘導するように歩きながら、穏やかに笑う。

ルーナとは、あの第二王子ルーナルドのことだろう。

やはりユーフェミアの見立てどおり、あの男は第二王子ルーナルドで間違いなさそうだ。


そして何より、今の口ぶりだと・・・。


「クロス公爵様は、わたしを助けるために来てくださったのですか?」

 

ルーナルドがユーフェミアをさらったのを知って。

ユーフェミアを解放するために、来てくれたのだろうか?

先ほどの口ぶりからすると、そうとらえられる。


「うぅ~ん。そうだといえばそうだし、違うといえば違う、かな・・・?」

「???」


どういうことだろう?

困ったように眉をあげている公爵をまじまじと見つめても、さっぱり意味がわからない。


「僕はね。この戦争をどうしても止めたいんだ。そしてそのためには絶対に君の存在が不可欠なんだ、ユーフェミア王女殿下」

「・・・・はい」


その考えはユーフェミアも同意だった。自惚れではなく、事実として。

ずっと和平を訴え続けてきたユーフェミアの存在は今や平和の象徴とも言える。

だからこそ、無事に生きて帰る必要があるのだ。


「でも僕の場合は、世界平和のためとか、人命のため、とか。君と違って、そんな立派な思考によるものじゃない」

「・・・・はい?」

「極めて利己的な、個人的願いによるものなんだ。だから君を助けるのも君のためじゃない。僕自身のためなんだ」


幻滅した?と。

穏やかに笑うその顔が少し悲しそうに見えたのはきっとユーフェミアの気のせいなどではない。

彼には彼の思いがあるのだろう。

その思いのために、戦争を止めたい。

大層な思想を掲げて、和平を叫んではいても。

結局それは自分のためでしかないのだ、と。

そういって彼は悲しそうに笑う。


「それはいけないことですか?」


みんなそれぞれ自分の人生を生きている。

大事なものは人によって違うし、感じ方だって違う。その中で、自分の目的のために和平を臨むことの何がいけないことなのか。

それがいけないとうのなら、ユーフェミアだって・・。


「わたしも、極めて自己中心的な目的のために和平を望みつづけています」

「へ・・・? 友愛の女神と言われている君が・・・?」

「・・・・・・なんでしょうか、その恥ずかしい呼び名は。初めて聞いたのですけど。」

「こっちの国では有名だよ? 国を問わず負傷者を癒す友愛の女神ユーフェミア王女殿下」

「・・・・・・・・・やめてください。非常に嫌です・・・」

「はは。 似合っていると僕は思うけどね。・・・・でもそうか。 君もそうなのか」

 

楽しそうに笑っていた公爵がふと真面目な声音をだした。

それにより、ユーフェミアも顔を引締める。


「はい、わたしはわたしの望みのために和平を望みます」

「・・・うん。 じゃあ僕も、僕の望みのために君を助けるね」

「はい、よろしくお願いします、クロス公爵様」



穏やかに微笑んで差し出された手を、ユーフェミアは戸惑いつつも握り返した。







ユーフェミアは一筋縄ではいかないタイプ

クロス公爵は、割と、というかだいぶ裏があるタイプです。

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