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駆け巡る走馬灯13

どうやら伝染病が蔓延しているらしい。

そう報告を受けたのは、アルフェメラスの砦を3つ程落とした時だった。

ここより程近い場所にあるリトスという村で、原因不明の伝染病が起きているらしい。

村人のほとんどが感染していて、致死率はかなり高い。

伝染病、か。

戦場近くの町や村で伝染病が蔓延するのは珍しい話じゃない。

戦死した兵士達のそれらが腐敗して菌やウィルスの温床になるのだろう。

無関係な村人達には悪いが、俺にはどうしようもできない。

そう思っていた。


その時だった。


ふわりと、風が運んできた懐かしい魔力の波動。

絶対に間違えることなどありえない、その感じに俺の心は跳ね上がった。


・・・・・・・・・・ユ・・フィ・・・・?


まさか・・・本当に・・・?


今までどれだけ探しても、君を見つけられなかった。

何度ブランフランのあの夫婦に問い合わせても、一切の情報を教えてもらえなかった。

何年も探したんだ。

持てる力全てを使って。

使える時間は全て使って。

なのに、どうしても君に辿り着けることが出来なかったのに・・。


まさか、こんなところに・・・?


けれど俺がユフィの魔力を間違えるはずがない。

この感じは間違いなくユフィだ。


期待で胸が膨れ上がる。

心臓が早打ちして痛いくらいだ。


魔力が流れて来る方向の先には、つい先ほど報告に上がったリトスの村がある。

そこにユフィがいる・・・?

そこがユフィの故郷なのか・・・?

まさか、こうしている今もユフィも病に倒れて苦しんで・・・?


頭の中に、綺麗な死に装束を着せられた父の姿が思い浮かんだ。

死に顔を見ることも出来なかった母の、優しく微笑む姿も。


さっと血の気が引いたのを自覚した。

嫌だ、もうあんな思いをするのは。


考えるよりも先に身体が動いた。

指揮下にある軍に、待機命令をだし。

俺は一人リトスの村へと馬を走らせた。





リトスの村は、俺が想像していたよりもずっと悲惨な有様だった。

元は緑あふれるのどかな農村だったのだろうが。

今や見る影もない。

出歩いている人など一人もおらず、あちこちの家からうめき声が聞こえた。


・・・・・・ここの村はもうだめだ・・・・。


村全体が、確かに何か異様なもので覆い尽くされているのを感じる。

死臭がする、とでもいうのか。

長く戦場にいると、そんな感覚ばかりが鋭くなる。

この村はもうだめだ。

とても持ち堪えられない。

だったら、とにかくユフィだけでもここから連れ出して・・・。


「泣き言など聞きたくありません!!」


不意に、右前方に見える大きな建物から声が聞こえた。作りからいって、教会だろうか?

声は、とぎれとぎれにずっと聞こえて来る。

テキパキと周りに指示をだしているそれは、まだ年若い女性の声だ。


ずいぶん勇ましい女性がいるな・・・・。 この村の医者か何かか・・・・?


「わた・・水をく・・・いります。あなた・・・病状の・・を!」


教会の扉が外側に開いた。

中から誰かが出てくる気配がし、俺は慌てて側にあった木の影に身を隠した。

見つかってあれやこれやと尋問されては面倒だ。

こちらの身の安全のためにも、村人との接触は最小限に押さえたい。

ここは、隠れてやり過ごすのが得策だ。

気配を完全に絶ち、息をひそめる。


教会の扉が完全に開き、中から町娘が着るような簡素な服に白いエプロンを身につけた娘がでてきた。

思った通り、いや思っていたよりもずっと若い娘だ。

あれほど堂々と、迷いなく指示をだしていたからもう少し上なのかと思っていたが。

まだ少女を少しばかり過ぎたくらいだ。

長い髪は一つに束ねられ、上から布切れを被ってはいるが。

それでもその髪が良く手入れされていて艶があり、上質な絹のように美しいとわかる。

色は、日の光にキラキラと輝くディープゴールド。

雪のように白い肌を隠すように、顔の下半分も白い布で被われているが。

そのせいか宝石のように輝く美しい緑色の双眸がよく目立った。


会うのはおよそ10年ぶり。


けれど、俺がわからないわけがない。


全身が歓喜で震え上がった。


ユフィだ。


やはりここにいた。

病に倒れているわけでもなく、元気な様子。

村の手伝いでもしているのか?

相変わらず、しっかりしている。

何にせよ、ここは危険だ。

すぐに保護して、後から薬など必要なものを手配したらいいだろう・・・。


「・・・ユ・・・・・・・・」


「ユーフェミア王女殿下!」


ユフィ!!


そう呼び掛けようとした俺の喉は、一瞬で凍りついた。

全身が冷や水を浴びせられたかのように、どっと冷えた。


・・・・・・・今、なんて・・・?


教会の中から、若い男がユフィに続いて出てくるのが見えた。

身なりも見目もいい、どうみても貴族の男。

その男が、ユフィと何か話している。

声は聞こえないが、その様子を見ればどちらが主で、どちらが従者なのか嫌でもわかった。

対等の関係等では絶対にない。

明らかに高位貴族の男が、ユフィに傅いている。


ドクドクと。

自分の心臓の音が耳にうるさい。

意図せず息が荒くなる。

暑くもないのに全身から汗が吹き出して、幾筋も背中を流れ落ちていった。


・・・・・・ユー・・・フェ、ミア・・・・?


あの男は確かにユフィに向かってそう呼び掛けた。

その名は何度も聞いた。

なんとか和平を実現しようと毎日奔走しているアッシュから。

戦場で。

死ぬほどの怪我を負いつつも、無事帰還できた兵士から。

最近ではハイエィシアの王宮にいる貴族の間でも聞くようになった。


両国の和平を結ぼうと、たった一人で声を上げ続ける隣国の王女。

自らもっとも危険な戦場に赴いて。

敵味方問わず、重傷者を手当して廻っていると噂の友愛の女神。


俺が・・・・。


俺がずっと憎み続けたアフェメラアスのたった一人の王女、ユーフェミア。


俺が握り潰してきたアルフェメラス国の、王女が・・・。


「・・・・・・・そんな・・・・」


戦争をいち早く終らせるつもりだった。

君の夢を助けているつもりでいた。

アッシュが何を言っても、和平などできるわけがないと切り捨てて。

何年も何年もアルフェメラスに侵略し続けた。


ユフィが力ではなく、もっと平和的に戦争を終らせようとずっと努力していたのに。

それを踏みにじり、話も聞かずに暴力に訴えつづけたのは・・・。

彼女の夢をずっと邪魔していたのは・・・・。


「・・俺・・・・・?」


その事実を飲み込んだ時。


俺の中で、ずっと大事にしていた信念のようなものが。


音を立てて崩れ落ちた気がした。















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